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2019年12月12日

共同発表機関のロゴマーク
CO₂の放出と吸収のより正確な推定に成功
~IPCC第5次評価報告書からの進展と第6次評価報告書に向けた課題~

(環境省記者クラブ、環境記者会、千葉県政記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会、気象庁記者クラブ同時配付)

令和元年12月12日(木)
国立大学法人 千葉大学
国立研究開発法人 海洋研究開発機構
国立研究開発法人 国立環境研究所
気象庁 気象研究所
 

   千葉大学環境リモートセンシング研究センターの近藤雅征 特任助教が率いる国際共同研究グループは、大気と陸域の二酸化炭素(以下、CO2)の放出と吸収の出入りの総和である「陸域CO2収支量注1」について、現存する複数の手法を統合した解析を行いました。その結果、これまで複数の数値モデル・観測手法間の推定値に見られたばらつきを大きく軽減させることに成功しました。これにより、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC注2)第5次評価報告書」で推定されていた陸域CO2収支量と比べ、推定値の正確性が大きく向上しました。本研究結果は「Global Change Biology」誌に2019年12月12日付けでオンライン公開されます。
 

2000年代における全球陸域CO2収支量の推定結果と各推定手法の原理を表した図
図1:2000年代における全球陸域CO2収支量の推定結果と各推定手法の原理。陸域CO2収支量の定義を統一することでそれぞれの手法による推定値が一致した。

陸域生態系の重要性

   地球温暖化の要因とされるCO2は、化石燃料の燃焼や森林伐採や農地開発などの土地利用の変化といった人間社会の活動により、毎年約110億トンの炭素が大気に放出されることで増え続けていますが、その数割が、森林・草地・農地などの陸域生態系に吸収されています。このように陸域生態系は、人間活動が及ぼす気候変動を緩和する役割を担っていることから、地球温暖化に対する影響を評価するにあたり、陸域生態系のCO2吸収能力は重要な研究対象となっています。

背景:陸域CO2収支量

   陸域CO2収支量の推定方法については、今日まで、地球科学のさまざまな分野から提唱されてきました。特に、生態系モデル手法1、大気インバースモデル手法2などの数値モデルは、陸域CO2収支量を推定するための主要な手法であり、「IPCC第5次評価報告書」においても使用されています。しかし、これらの数値モデルにより陸域CO2収支量を算出しても、その結果に大きなばらつきがみられるという問題がありました。また、こうした数値モデルでは、大気・地上・衛星観測データに基づく手法(図1のC)に比べて、炭素収支量の推定が大きく乖離する傾向にありました(図1のAとE)。

研究成果

   そこで本研究グループは、国内外の大学・研究機関から提供を受けた複数の数値モデルと観測手法による陸域CO2収支量を集計し、解析を行いました。その結果、「IPCC第5次評価報告書」当時の生態系モデル・大気インバースモデルによる結果の不一致は、陸域CO2収支量の「定義の違い」が主要な原因であること、また、同様の定義の違いは、数値モデルの間だけでなく、観測手法の間にも存在することを突き止めました。さらに、それぞれの手法による推定結果を補正し、定義を統一することで、全球・半球スケールの陸域CO2収支量を高い精度で一致させることに成功しました(図1のB、C、D)。一方で、より詳細な地域スケールでは、手法間の定義の違い以上に精度の違いが結果の差を生んでいる可能性が見られることから、今後、個々の手法の精度を詳細に検証することで、より細かいスケールにおいても結果の差の解消を図る必要があることが示されました。

研究者のコメント

   近藤雅征特任助教は、「今回の研究成果は、陸域CO2収支量の推定における不確実性を軽減させるため、IPCC評価報告書の関係者、世界24の大学・研究機関に属する多分野の研究者が集結することで達成されました。様々な研究分野と国境を超えた国際共同研究を国内の研究者が発案し、主導したことは、国内研究の活性化に繋がる大きな貢献と考えます。今後、さらに研究を続け、IPCC第6次評価報告書でより正確で広範囲に適用可能な推定量が反映されるようにしたいと考えています」と述べています。

注釈解説

注1)陸域CO2収支量:大気-陸域におけるCO2の出入りの総和。光合成によるCO2吸収量(-)と生態系による呼吸、土壌有機物の分解、森林火災、森林伐採や農地開発など土地利用変化によるCO2排出量(+)の総和。陸域CO2収支量は化石燃料の燃焼によるCO2排出量は含まない。
注2)気候変動に関する政府間パネル(IPCC):人為的温室効果ガス排出に伴う地球温暖化現象の現状把握・対策のため、科学的知見の集約・評価を執り行う政府間機関。2013〜2014年に第5次評価報告書が刊行された。この後、2021〜2022年に第6次評価報告書を刊行する予定。

研究手法解説

手法1)生態系モデル:陸域生態系における個々のプロセスを理論的・半経験的に計算し、炭素循環を再現することで陸域CO2収支量を算出する数値モデル。大気CO2濃度データ、気象データ、土地利用変化データを入力とする。
手法2)大気インバースモデル:CO2が陸面・海面から大気に輸送される過程を計算する大気輸送モデルを用いて、大気CO2観測データから陸域・海洋のCO2収支量を逆推定する数値モデル。

研究プロジェクトについて

   本研究は、(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費(課題番号:2-1701)の成果です。また、本研究は世界24の大学・研究機関の国際共同研究として実施されました。

論文情報

・ 論文タイトル:“State of the science in reconciling top-down and bottom-up approaches for terrestrial CO2 budget”
・ 著者:Kondo M.(近藤雅征), Patra P.K., Sitch S., Friedlingstein P., Poulter B., Chevallier F., Ciais P., Canadell J.G., Bastos A., Lauerwald R., Calle L., Ichii K., Anthoni P., Arneth A., Haverd V., Jain A.K., Kato E., Kautz M., Law R.M., Lienert, S., Lombardozzi D., Maki T., Nakamura T., Peylin P., Rödenbeck C., Zhuravlev R., Saeki T., Tian H., Zhu D., Ziehn T.
・ 雑誌名:Global Change Biology
・ DOI:10.1111/gcb.14917

本件に関するお問い合わせ・取材のお問い合わせ
・千葉大学 環境リモートセンシング研究センター
   特任助教 近藤 雅征(こんどう まさゆき)
   Tel: 043-290-3860, メール: Mkondo@chiba-u.jp
 

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