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2023年4月17日


頻発する猛暑が湖底の貧酸素化を引き起こす可能性

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

2023年4月17日(月)
国立研究開発法人国立環境研究所
 

 浅い湖沼の貧酸素化に猛暑がどの程度影響していたのかについて、霞ヶ浦をモデルサイトと位置づけ、水温、底層溶存酸素及び気象データの高頻度観測と、水温や溶存酸素濃度を再現可能な数値シミュレーションモデルを用いて解析しました。その結果、風が弱くなることによって湖面と湖底の水温に差が生じ、湖底への酸素供給が少なかったことに加え、例年よりも強い日射や高い気温によって水温が上昇し、貧酸素化が加速していたことがわかりました。これらの結果は、今後、温暖化によって頻度が高くなると予想される猛暑によって、浅い湖沼において貧酸素化が起きるリスクが高くなる可能性を示しています。
 本研究は国立環境研究所 地域環境保全領域の篠原隆一郎主任研究員らの研究チームと株式会社ゼニライトブイとの共同研究により行われ、その成果は、2023年4月17日付でアメリカ地球物理学連合から出版される国際誌『Geophysical Research Letters』に掲載されました。

1. 研究の背景と目的

近年、気候変動の影響によって、夏季の猛暑の頻度が世界的に増加していることが報告されています。我が国においても、2022年の6月から7月にかけて例年にない猛暑が襲いました。湖では、水の表面が温められると、成層※1が発達し、湖面から湖底への酸素供給が滞ることで貧酸素水塊※2が発生することが知られています(図1)。貧酸素水塊が長期化すると、湖底堆積物から栄養塩が溶出しアオコの発生につながる恐れや、湖底付近に生息する魚類や二枚貝の斃死(突然死)が起こる可能性があります。
浅い湖沼では、日中に成層が発達し、夜間に混じる日成層という現象が発生します。また、風によって表層水と底層水が混じりやすいため、湖底にも酸素が比較的届きやすい状態と言えます。しかし、近年世界的に増加している猛暑による、底層の酸素濃度減少への影響はわかっていませんでした。そこで本研究では、霞ヶ浦を対象にし、2022年6月から7月にかけて発生した猛暑が、湖の貧酸素化にどの程度影響を与えたかを明らかにすることを目的としました。

図1. 底層溶存酸素に影響を与えるプロセスの模式図。

2. 研究手法

本研究では浅い湖沼である霞ヶ浦をモデルサイトと位置づけ、10分毎の高頻度連続観測ブイによる水温及び植物プランクトン量の観測のほか、5分毎の気象観測を行いました。また、湖の成層を表現可能なシミュレーションモデルを構築し、風速、日射、気温のそれぞれがどのように霞ヶ浦の底層溶存酸素濃度に影響しているかを解析しました。

3. 研究結果と考察

2022年6月から7月に発生した猛暑では、底層溶存酸素濃度が2 mg/L以下の貧酸素水塊が発生していました(図2)。シミュレーションを行った結果、猛暑が発生した際に風が弱かったことで底層溶存酸素濃度が低下したことがわかりました(図3a)。風速を約1.5倍にし、シミュレーションを行ったところ、貧酸素水塊が解消することが明らかになりました(図3b)。また、日射や気温が平年並み(日射–31%,気温–17%)であった場合には、風が弱かったとしても、底泥による酸素消費が抑制され、貧酸素水塊は発生しないことが明らかになりました(図3c)。つまり、夏季の猛暑が発生した際には、強い日射や高い気温によって水温が上昇し、生物的または化学的なプロセスによって底質の溶存酸素消費が活発になることに加え、弱風によって底層への酸素供給が滞ることで底層溶存酸素の濃度低下が促進されるものと考えられました。

図2. 霞ヶ浦における(a)観測された水温の変動、(b)表層の溶存酸素濃度、および、(c)底層の溶存酸素濃度。(b)、(c)における赤の点は実測値、黒の線はシミュレーションの結果を示す。オレンジ色のハイライトは猛暑があった期間を示す。
図3. 猛暑発生時における溶存酸素濃度の計算結果(2022年6月29日)。(a) 2022年の気象条件下で得られた溶存酸素濃度の計算結果、 (b) 風を強くした場合の計算結果、(c) 日射量・気温が平年並みだった場合の計算結果。

4. 今後の展望

本研究は2022年の猛暑を対象に、現地における溶存酸素濃度や、気象の観測について数値シミュレーションモデルに統合させ、解析を行ったものです。霞ヶ浦のような24時間周期の風が吹く浅い湖は世界中に分布しているため、本研究で得られた現象は、他の湖においても観測されるものと推察されます。今後、気候変動が進むと、猛暑の頻度・強度ともに上がっていくことが懸念されており、これまで貧酸素水塊が発生しにくかった浅い湖沼でも、貧酸素化が拡大する可能性があります。今後は他の湖においても、同様のモニタリングを行っていく必要があります。

5. 注釈

※1:湖面付近が温められ、湖底付近と温度差ができる現象。 ※2:泥の中における微生物の呼吸や化学反応によって、泥が酸素を吸収することで底層付近の酸素濃度が2mg/L未満に減少する現象。

6. 研究助成

本研究は、知的研究基盤整備費「GEMS/Water湖沼長期モニタリング事業」ならびに環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20215R03)の支援を受けて実施されました。

8. 発表者

【タイトル】
Heat waves can cause hypoxia in shallow lakes
【著者】
Ryuichiro Shinohara, Shin-Ichiro S. Matsuzaki, Mirai Watanabe, Megumi Nakagawa, Hajime Yoshida, Ayato Kohzu
【掲載誌】Geophysical Research Letters
【DOI】10.1029/2023GL102967(外部サイトに接続します)

8. 発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。
国立環境研究所
 地域環境保全領域湖沼河川研究室
 主任研究員 篠原隆一郎
 室長    高津文人

 地域環境保全領域土壌環境研究室
 主任研究員 渡邊未来

 生物多様性領域生態系機能評価研究室
 室長    松崎慎一郎
 高度技能専門員 中川惠

株式会社ゼニライトブイ
 営業支援室   吉田基

9. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 地域環境保全領域
湖沼河川研究室 主任研究員 篠原隆一郎


【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

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