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2020年10月8日

共同発表機関のロゴマーク
世界の一酸化二窒素(N2O)収支 2020年版を公開

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、文部科学記者会、科学記者会同時配布)

令和2年10月5日(月)
国立研究開発法人国立環境研究所
国立研究開発法人海洋研究開発機構
フューチャー・アース日本ハブ
 

   グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)※1は、一酸化二窒素(N2O)の全ての発生源と吸収源を今までになく詳細に網羅した世界のN2O収支「世界の一酸化二窒素収支2020」を公表します。今回の報告では、最近10年間において、世界の人為的なN2O排出総量のうち農業生産起源の排出が82%を占めることが明らかにされました。これは、食糧生産システムが気候変動に与える影響を緩和することが喫緊の課題であることを強く示しています。
   この研究成果をまとめた論文は、2020年10月8日に国際学術誌Natureに掲載されます。
 

※1:2001年に発足した国際研究計画で、持続可能な地球社会の実現をめざす国際協働研究プラットフォーム「フューチャー・アース」のコアプロジェクト。グローバルな炭素循環にかかわる自然と人間の両方の側面とその相互作用について科学的理解を深める国際共同研究を推進するため、日本(国立環境研究所)とオーストラリア(CSIRO)に国際オフィスが設置されている。

研究の背景

   一酸化二窒素(N2O)は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの主要なものの1つです。N2Oは、二酸化炭素やメタンといった他の温室効果ガスと比べて大気中の濃度は低いですが、単位濃度あたりで温暖化をもたらす能力(地球温暖化係数)が高く重要な成分です。また、成層圏オゾン層の破壊物質でもあります。これまでの大気中のN2Oは1750年の270 ppb (十億分率、1 ppb = 0.0000001%)から2018年の331 ppbまで増加してきました。この増加傾向は今後も数十年間続き、食料、飼料、繊維、エネルギーの需要が高まり、廃棄物や産業活動による排出が増えることで2050年までに倍増する可能性があります。こうした重要性にもかかわらず、世界のN2O排出の全体像を明らかにし、また、窒素(N)投入とN2Oの排出・吸収フラックスを決定する生物地球化学的プロセスとの相互作用(つまり異なるN2O排出源と吸収・消滅源の間の動的な関係)を解明するための研究は、これまで十分ではありませんでした。

研究結果と分析

   2020年10月8日、過去数十年間にわたり全球のN2O放出量が増加し続けていたことを示す論文がNature誌に掲載されます。この増加の主な原因は、人間活動による放出が30%程度増えたことです。全体の中では、農業における窒素肥料の使用、そして家畜からの堆肥製造といった農業活動が増加したことが排出量増加の主要因となっていました。
   経済成長が急速な国、特にブラジル、中国、インド、におけるN2O排出の増加は最も顕著で、作物生産や家畜頭数の急増に伴うものでした。
   これらの知見は、私たちの食糧生産システムにおいてN2O排出を削減することが喫緊の課題であることを強く示しています。本研究で明らかになったN2O排出の増加は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年に第5次評価報告書で設定した将来の排出シナリオのうち、最も悲観的なシナリオと同等かそれ以上であり、この場合、世界の平均気温は3℃をはるかに超えるほど上昇することになります。
   「世界の一酸化二窒素(N2O)収支」は、全ての排出起源や地域を網羅するよう、この温室効果ガスの収支を集計して分析を行い、総括したものです。この報告は、グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)によるとりまとめの下、国際的な研究者グループによって作成されました。研究者が用いた手法は、最新のボトムアップ(BU:排出統計、フラックス観測の統計的な外挿、プロセスに基づく陸域と海洋のモデル)とトップダウン(TD:大気観測からのモデルによる逆推定)のアプローチによる排出量推定です。その結果、1980–2016年の期間について、自然と人為にわたる21種類の起源におけるN2Oの排出源と消滅・吸収源を、全球で最も包括的に定量化することに成功しました(図1参照)。

図1:世界の一酸化二窒素(N2O)収支、2007–2016年の結果(出典:Global Nitrous Oxide Budget 2020のFigure 1を改変)
注:赤色(図中の1)を付けたもの)の矢印は農業部門(農業)における窒素投入からの直接的な放出を指す。オレンジ色の矢印(同じく2))は、その他の直接的な人為起源の放出を指す。紫色(同じく3))の矢印は、人為的窒素投入からの間接的な放出を示す。茶色(同じく4))の矢印は、気候変動/CO2/土地利用によって影響を受けた排出フラックスを示す。緑色の矢印は、自然起源の放出と吸収・消滅を示す。人為及び自然起源のN2O排出はボトムアップ手法による推定である。青色の矢印は地表での吸収と大気中で観測された化学反応による消滅であり、そのうち約1%が対流圏で発生している。収支の合計(排出量+吸収・消滅量)は大気中で観測された増加量と厳密に一致はしていないが、それは、それぞれの排出量は別々の手法で推定されたことや、大気観測に合うように排出推定の調整を行ってはいないからである。この不一致の大きさは、各排出と吸収・消滅量の範囲に見られるように、N2O収支全体の推定不確実性の幅に十分収まっている。N2Oの排出量と吸収・消滅量の単位はTg N yr–1である(1Tg = 1012 g)。

日本の貢献を含む国際協力

   「世界の一酸化二窒素(N2O)収支」は、グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)が行っている大気への温室効果ガス排出を削減するための政策的議論と活動をサポートすることを目的とした、網羅的で一貫性のある科学的知見を集約して温室効果ガス動態の全体像を示す活動の一環となるものです。今後も最新かつ最も信頼性の高い科学的知見に基づいて定期的にアップデートが行われていく予定です。

   今回は世界各地の44機関より70名の研究者が参加する国際研究チームで行われました。その中には日本の研究機関(国立研究開発法人国立環境研究所、国立研究開発法人海洋研究開発機構)に属する2名が含まれます。

研究助成

   本研究の一部は、JSPS科研費「反応性窒素動態を統合的に扱う陸域物質循環モデルの開発」(17H01867)の助成を受けて実施されました。

発表論文

【タイトル】A comprehensive quantification of global nitrous oxide sources and sinks
【著者】Hanqin Tian他70名
【雑誌】Nature
【URL】https://doi.org/10.1038/s41586-020-2780-0【外部サイトに接続します】

グローバル・カーボン・プロジェクトの公開ページ(英文) https://www.globalcarbonproject.org/nitrousoxidebudget/index.htm【外部サイトに接続します】

問い合わせ先

報道担当

国立研究開発法人国立環境研究所
   企画部広報室 電話:029-850-2308
   E-mail: kouhou0(末尾@nies.go.jpをつけてください)

国立研究開発法人海洋研究開発機構
   広報課 電話:045-778-5690
   E-mail: press(末尾に@jamstec.go.jpをつけてください)

フューチャー・アース日本ハブ
   E-mail: noriko.kawata(末尾に@futureearth.orgをつけてください)

本研究について

国立研究開発法人国立環境研究所
   地球環境研究センター 物質循環モデリング・解析研究室
   室長 伊藤昭彦

国立研究開発法人海洋研究開発機構
   地球表層システム研究センター 物質循環・人間圏研究グループ
   グループリーダー代理 Prabir K. Patra

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