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2015年9月18日

森林の炭素貯留量を高精度に計測できる
衛星データ解析技術を開発

(筑波研究学園都市記者会配付)

平成27年9月18日(金)

国立研究開発法人国立環境研究所
 地球環境研究センター 
  陸域モニタリング推進室
   高度技能専門員 林真智
   室長      三枝信子
  主席研究員   山形与志樹
北海道大学 大学院 農学研究院
 農林環境情報学研究室
  教授      平野高司

  国立環境研究所の研究チームはこの度、NASA(アメリカ航空宇宙局)のICESat衛星データを利用することで、世界各地の森林の炭素貯留量を高精度に計測できる画期的な技術を開発しました。従来、現地の森林に入って樹木を1本ずつ計測する必要がありましたが、現地に行かずに計測できるようになったことで、作業上の負担を大幅に軽減できるようになりました。
  今後は、地球温暖化防止の観点から注目されている森林の炭素貯留量や伐採にともなう炭素排出量の全球分布の、効率的な把握に貢献することが期待されます。また、高い生物多様性をもつ熱帯林においても高精度で樹高やバイオマスを計測できるため、地球規模での生物多様性の指標開発にも応用できると考えられます。
  本論文は、Taylor & Francis 発行のジャーナル「Carbon Management」オンライン版に掲載されました。

1.背景

  国立環境研究所では、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)により計測される大気中の二酸化炭素濃度データにもとづいて、森林の炭素貯留量や伐採にともなう炭素排出量の全球分布を、高い空間分解能で地図化することで、気候変動緩和策(REDD+や二国間クレジット制度等)の実現に資するための研究を進めています。その際、排出量の検証を行うために森林の炭素貯留量を世界中で計測することが必要ですが、従来は、多大な労力を払って1本1本の樹木を現地で計測する方法が多くの場合取られていました。
  しかし今回、衛星データを利用することで現地に行かずに森林貯留量を計測できる技術を開発し、北海道とボルネオ島で検証をおこなったところ、有効な結果が得られました。
  利用した衛星データは、森林をレーザ光で照射するセンサであるライダーを搭載したNASAのICESat衛星のデータです。この衛星は、衛星の軌道直下において170mごとに約60m径の範囲をレーザ光で照射して、地表面から反射されたレーザ光の強度変化を波形として記録しています(図1)。
 

図1
図1. 衛星ライダーによる観測の模式図
約60m径の範囲をレーザ光で照射して、地表から反射されたレーザ光強度の変化を波形として記録している。この例では、最も高い樹冠からの反射で信号が始まり、最も低い地面からの反射で信号が終了している。

  この波形の長さや形状を解析することで、樹高や森林バイオマスを推定することができます。そこで、北海道(温帯林)とボルネオ島(熱帯林)という、森林タイプの異なる2地域をテストサイトとして、技術開発をおこないました。
  「いぶき」による大気中の二酸化炭素濃度の計測と、ICESat衛星による森林の炭素貯留量の計測——これらの計測技術を組み合わせることで、炭素循環過程の解明への貢献が期待できます。

2.結果

  北海道とボルネオ島の森林をテストサイトとして技術開発をおこない、衛星ライダーの観測した波形の特徴量を複数組み合わせて利用することで、樹高と森林バイオマスを高精度に計測することが可能であることがわかりました。計測精度(自乗平均平方根誤差)は、樹高については約4m(北海道:3.5m、ボルネオ島:4.0m)、森林バイオマスについては1 haあたり約40トン(北海道:41.2トン、ボルネオ島:38.7トン)でした(図2)。

図2
図2. ボルネオ島において衛星データから推定した森林バイオマスの値と、地上調査により収集した検証データの値との比較
精度は38.7 t/ha。

  特に、熱帯の森林では樹高や森林バイオマスが高いことが多く、今回のテストサイトであるボルネオ島では、平均樹高30m、平均森林バイオマスが1 haあたり300トンといった森林資源豊かな林分もありましたが、そのような森林でも精度が低下することなく計測できました。これは、他の衛星センサである合成開口レーダ等を利用する従来の手法では、およそ150トンを越えるような高バイオマスの熱帯林では正確な計測が難しかったところ、本技術により計測精度を大幅に改善できることを意味しています。また計測地点数は、北海道では約13,800ヶ所、ボルネオ島では約128,000ヶ所もの膨大な数にのぼりました。
  この開発技術のうち樹高計測能力を利用して、2004年に台風被害を受けた北海道の森林の樹高変化を計測しました(図3)。

図3
図3. 2004年の台風18号の前後における、北海道苫小牧周辺の森林の樹種別の平均樹高変化
広葉樹と比較すると針葉樹は樹高低下が大きかったこと、中でもカラマツの樹 高低下が著しかったことがわかる。写真は、台風により風倒被害を受けた苫小牧国有林 のカラマツ林の様子。

  この樹高の変化の計測と、風倒害リスクの評価をおこなうとともに、2004~2007年におけるボルネオ島の森林消失率が年間2.4%であることを算定することにも成功しました。また、森林バイオマス計測能力を利用して、ボルネオ島の森林バイオマスの空間分布を把握するとともに(図4、5)、ボルネオ島の森林バイオマス総量は1.034×1010トンであることを明らかにしました。

図4
図4. 20kmメッシュごとに平均を計算した、ボルネオ島の森林バイオマスの空間分布
島の北東から南西にかけて分布する脊梁山地に沿って高バイオマス林分が分布していることなどがわかる。
図5
図5. ボルネオ島において州別に見た森林バイオマスのヒストグラム(度数分布図)
北カリマンタン州やブルネイには森林バイオマスの高い林分が多いことなどがわかる。

3.まとめ

  このような技術は、これまでは現地の森林に行かなくては計測できなかった樹高や森林バイオマスを、現地に行かずに効率的に計測することを可能とします。これまでは統計情報などに頼ることが多かった全球規模の森林資源評価に強力なツールを提供するばかりでなく、森林を含めた炭素循環過程を解明するうえでも大きく期待されます。この技術はまた、高い生物多様性をもつ熱帯林においても高精度で樹高やバイオマスを計測できるため、地球規模での生物多様性の指標開発にも応用できると考えられます。

発表論文

・Hayashi M, Saigusa N, Yamagata Y, Hirano T, 2015: Regional forest biomass resources estimation using ICESat/GLAS spaceborne LiDAR over Borneo. Carbon Management, http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17583004.2015.1066638

・Hayashi M, Saigusa N, Oguma H, Yamagata Y, Takao G, 2015: Quantitative assessment of the impact of typhoon disturbance on a Japanese forest using satellite laser altimetry. Remote Sensing of Environment, 156, 216–225.

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