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2021年7月30日

共同発表機関のロゴマーク
北海道大雪山の永久凍土を維持する環境が将来大幅に減少する

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、北海道教育庁記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会同時配付)

2021年7月30日(金)
国立研究開発法人国立環境研究所
地球システム領域 横畠徳太
         内田昌男
北海道大学北極域研究センター
         岩花剛
北海道大学低温科学研究所
         曽根敏雄
国立研究開発法人海洋研究開発機構
         斉藤和之
 

◆ 地中の温度が年間を通して0℃を下回る領域は「永久凍土」と呼ばれ、北半球陸域の25%もの広い領域に存在します。日本では北海道大雪山・富士山・立山などに存在することが報告されています。
◆ 私たちは現在から将来にわたる気象データを用いることにより、大雪山地域において「永久凍土を維持する気温環境」にある領域の現状評価と将来予測を行いました。その結果、現在は大雪山において「永久凍土を維持する気温環境」にある地域が 150km2 程度存在すると推定されますが、将来はそのほとんどが消失すると予測されました(成り行きシナリオでは2070年頃に完全に消失、2℃安定化シナリオでも2100年時点で2000年代の1/10程度に減少)。
◆ 山岳域における永久凍土の融解は、斜面の不安化や生態系の変化を引き起こす可能性があります。現在の山岳環境の変化を正確に監視するとともに、将来大きく変化する環境に適応するための方策を提供することが重要であることを、私たちの結果は示しています。
本研究の成果は2021年7月30日にScientific Reportsよりオンライン出版されます。
 

1.研究の背景

 地表気温が0℃を下回る日の多い、非常に寒冷な気候を持つ地域において、永久凍土は存在します。永久凍土は主に北半球陸域のツンドラ・タイガ域に広く分布しています。日本では緯度と標高の高い北海道の大雪山(写真1)や富士山などに、山岳永久凍土が存在することが知られています [1]。地球温暖化によって永久凍土は比較的気温の高い領域から融解する [2] ため、日本の永久凍土は、特に気候変化の影響を受けやすい地域にあると考えることができます。永久凍土が融解すると、一般にサーモカルストと呼ばれる融解沈下を引き起こすことがあり、山岳地帯で斜面を不安定化させる可能性が指摘されています。また、北海道の大雪山にはさまざまな種類の高山植物や動物が存在し、多くの登山客が訪れる貴重な観光資源にもなっていますが、永久凍土の融解が地下の水分や温度を変化させることにより、現在の山岳生態系に大きな影響を及ぼすことが懸念されています。
 永久凍土の融解は地面の下の現象であるため、観測することが難しく、特に山岳地帯はアクセスが難しいこともあり、その全体像が把握されていません。これまでの研究では、ヨーロッパやチベット高原において、現状評価や将来予測がなされてきましたが、日本を含む東アジア地域では、特に将来予測に関しては、ほとんど分析がなされてきませんでした。

2. 研究の概要

 私たちは、これまでの研究によって得られた診断手法 [3] を、日本域における 1km 解像度の最新の気象データ [4] に適用することにより、「永久凍土を維持する気温環境」にある領域の現状評価と将来予測を行いました。日本では、2018年に気候変動適応法が制定され、地方自治体などが気候変動に対する適応策を立案することに対して、国立環境研究所の気候変動適応センターが支援する役割を担うことになりました。私たちが利用した日本1km気象データは、自治体や企業などの様々な主体が気候変動適応策を実施することを支援するために、最新の気候予測とバイアス補正技術を利用することにより作成されたものです [4]。気象データを利用して0℃を下回る日数と0℃を上回る日数を計算し、過去の永久凍土の観測データから得られた関係式 [3] を用いることにより、「永久凍土を維持する気温環境」にある地域の推定を 1km の細かさで行いました。
 私たちが利用した気象データによる現在の北海道の年平均気温を図1に示します。北海道中央部の特に気温の低い領域が、大雪山地域です。大雪山は一つの山ではなく、2,000m級の火山群からなる巨大な山岳地帯です [1]。日本域の気象データから診断した、現在の「永久凍土を維持する気温環境」にある地域を示す結果が図2です。私たちが利用した気象データは、もとになる気候モデルの違いにより、4通りのデータがあります。図2では、1km の計算点において、4つのデータのうち「永久凍土を維持する気温環境」にあると診断された割合を%で示しています。私たちの計算によると、図2に示すように、現在は高度1,600m以上の地域が「永久凍土を維持する気温環境」にあるという結果になりました。この結果は、これまでの永久凍土の観測事実と整合的です。
 図3に、永久凍土を維持する気温状態にある領域の面積の変化を示します。気象データの違いによる結果の違いを細線で、全ての結果の平均値を太線で示しています。図からわかるように、2000年くらいから、永久凍土を維持する気温環境にある領域が急激に減少していることがわかります。これは、地球温暖化に伴い、北海道が位置する高緯度の気温が特に上昇しているためです。一般に高緯度地域では、雪氷の融解によって、低緯度地域に比べて大きく気温が上昇します。このような地表気温の上昇により、大雪山において永久凍土を維持する気温環境にある領域は、シナリオによらず、大幅に減少するという予測結果になりました。将来にわたって温室効果ガス排出が続くシナリオ(RCP8.5: 産業革命前に比べて、2100年時点で全球平均気温がおよそ4-5℃上昇)では、2070年頃に「永久凍土を維持する気温環境」が消失し、将来の全球平均気温を安定化させる低炭素シナリオ(RCP2.6: 産業革命前に比べて全球平均気温上昇を2℃に安定化する)でも、2100年時点で2000年代の1/10ほどに減少すると予測されました。

3. 今後の展望

 私たちの研究では、大雪山における1kmの細かさを持つ気温の将来予測結果だけを利用し、「永久凍土を維持する気温環境」を推定しています。実際の永久凍土の分布は、その場所の地形や風などによって決まる積雪の状態や、地面の下の水分や温度の状態によっても左右されることに注意が必要です(実際の永久凍土の観測の様子は [5] で報告していますのでご参照ください)。また図3は、永久凍土を維持する気温環境が将来失われることを意味していますが、直接的に永久凍土の分布を診断しているわけではないことに注意が必要です。しかしながら、今後大雪山において永久凍土を維持する気温環境が大幅に減少することにより、永久凍土の融解が進む可能性は高いと考えられます。今後は、現場での観測に加えて人工衛星データを利用することにより [5]、山岳地域における変動を精度良く監視することが重要です。私たちの研究で示した将来の大きな変化に備えるため、山岳天然資源の保護などの適切な方策を立案することが、今後の重要な課題です。

大雪山の景色の写真
写真1 大雪山の景色。北海道中央部に位置し、年間を通して気温が低いため、永久凍土が存在する。
北海道の年平均気温を示した図
図1 北海道の年平均気温。日本域気象データ [4] を利用して計算。2000-2010年の平均値を示す。
永久凍土を維持する気温環境が存在する領域を示した図
図2 「永久凍土を維持する気温環境」が存在する領域。4つの気象データのうち、「永久凍土を維持する気温環境」と判断したデータの割合を示す。2000-2010年の平均値の結果。図1の中央部の四角の領域。等高線は標高を表す。
永久凍土を維持する気温環境にある領域の面積の変化の図
図3 「永久凍土を維持する気温環境」にある領域の面積の変化。4つの気象データを利用した結果を細線で、それらの平均値を太線で表現する。細線の種類は用いる気候モデルの違いを示す。黒=過去再現実験(2018年まで)、赤=将来にわたって温室効果ガス濃度が増加するシナリオ(RCP8.5)、青=2100年時点での全球平均気温変化を産業革命前に比べて2℃程度に安定させるシナリオ(RCP2.6)の結果。

4.参考情報

[1] 永久凍土と地球温暖化 北海道大雪山調査レポート 地球環境研究センターニュース2019年12月号 http://cger.nies.go.jp/cgernews/201912/348001.html
[2] 地球温暖化で永久凍土の融解はどこまで進むか?地球環境研究センターニュース2021年2月号 http://cger.nies.go.jp/cgernews/202102/363003.html
[3] Saito et al. 2014, Boreas 43, 733-749.
[4] 気候変動の影響評価における適切なバイアス補正手法の選択の重要性 地球環境研究センターニュース2020年8月号
https://cger.nies.go.jp/cgernews/202008/356003.html
[5] 永久凍土は地球温暖化で解けているのか? アラスカ調査レポート(現地観測編)地球環境研究センターニュース2018年11月号
http://cger.nies.go.jp/cgernews/201811/335001.html

5.研究助成

 本研究は、文部科学省「統合的気候モデル高度化研究プログラム」(JPMXD0717935457)、「ArCS II北極域研究加速プロジェクト」(JPMXD1420318865)、および国立環境研究所「気候変動適応研究プログラム」「脱炭素・持続社会研究プログラム」の支援を受けて行われました。

6.発表論文

【タイトル】
Projections of surface air temperature required to sustain permafrost and importance of adaptation to climate change in the Daisetsu Mountains, Japan
(日本の大雪山において永久凍土を維持する気温の将来予測と気候変動に対する適応策の重要性)
【著者】
T. Yokohata1, G. Iwahana2, T. Sone3, K. Saito4, N. N. Ishizaki1, T. Kubo1, H. Oguma1, M. Uchida1
【所属】
1. 国立環境研究所
2. 北海道大学北極域研究センター
3. 北海道大学低温科学研究所
4. 海洋研究開発機構
【DOI】
10.1038/s41598-021-94222-4 

7.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
地球システム領域 地球システムリスク解析研究室
主幹研究員 横畠徳太

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
e-mail:kouhou0@nies.go.jp  tel:029-850-2308