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2021年2月3日

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侵略的外来アリの侵略性・侵入成功のカギは食の多様性か
アルゼンチンアリの「種内差」から紐解く

(大阪科学・大学記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、京都大学記者クラブ、筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、奈良県政・経済記者クラブ、奈良文化教育記者クラブ同時配布)

2021年2月3日(水)
近畿大学
国立環境研究所
京都大学生態学研究センター
 

近畿大学農学部(奈良県奈良市)、国立環境研究所(茨城県つくば市)、京都大学生態学研究センター(滋賀県大津市)による研究グループは、世界で最も侵略的な外来種(自然環境に大きな影響を与え、生物多様性を脅かす恐れのある外来種)の一種である「アルゼンチンアリ」について調査し、世界各地に分布するスーパーコロニー※1の大部分を占める「LH1」に属する個体が、他のスーパーコロニーに属する個体よりも、餌としてより多様な資源を利用していることを明らかにしました。本研究成果は、外来種侵入の予測のほか、侵略的な可能性を有する生物の早期発見・対策を検討する上で有用な視点を提供するものです。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)2月3日(水)19:00(日本時間)に、英国の科学誌 “Scientific Reports”にオンライン掲載されます。
 

アルゼンチンアリのスーパーコロニーの世界分布を表した図
アルゼンチンアリのスーパーコロニーの世界分布

1.本件のポイント

● 「世界の侵略的外来種ワースト100」に選定されるアルゼンチンアリについて、同じ種内でも侵略性に大きな違いが出る理由について研究
● 世界各地に分布するスーパーコロニーの大部分を占める「LH1」に属する個体が、他のスーパーコロニーに属する個体と比べて、餌としてより多様な資源を利用していることが判明
● 本研究成果は、外来種侵入の予測のほか、侵略的となる可能性を有する生物の早期発見・対策を検討する上で有用な視点を提供するものである

2.本件の背景

アルゼンチンアリ(Linepithema humile Mayr)は、南米原産の体長2~3mmのアリで、航海技術の発達にともない世界各地へと侵入しました。現在では、南極大陸を除くすべての大陸へと侵入し、各地で生態系や農作物へ甚大な被害をもたらしています。日本でも在来のアリを駆逐するなど、生態系への被害や農作物被害を与えています。
IUCN(国際自然保護連合)は、アルゼンチンアリを「世界の侵略的外来種ワースト100」に選定し、日本でも環境省が外来生物法における「特定外来生物」に指定しています。アルゼンチンアリの防除・根絶は世界共通の課題となっており、それに向けた研究も盛んに行われています。
近年の遺伝解析の結果から、世界各地に分布しているアルゼンチンアリのほとんどが、「LH1」と名付けられた超巨大なスーパーコロニーに属しており、それ以外のスーパーコロニー(LH2、LH3、LH4、LH6)は、「LH1」と比べて分布規模が大きくないことが判明しました。
これは同じ種でありながら、種内で侵略性に大きな違いがあることを示しています。これまで「なぜLH1のみがこれほど侵略的なのか?」という課題について多くの研究者たちが挑戦してきましたが、現在も明確な答えを見出すには至っていません。

3.本件の内容

兵庫県神戸市で侵入が確認されているアルゼンチンアリの4つのスーパーコロニー(LH1、LH2、LH3、LH4)と、その周辺に生息する、アルゼンチンアリの餌となる生物(バッタ、アブラムシなど)について調査・分析を実施しました。その結果、「LH1」に属する個体は、他のスーパーコロニー(LH2、LH3、LH4)に属する個体に比べ、同じ環境下にであってもより多様な生物を餌として利用していることが判明しました。この結果から、「LH1」が侵入を成功させるうえで、「食の多様性」が重要だということが示唆されました。
しかし、本研究からは 「LH1が侵略的であること」 と 「餌として多様な資源を利用可能であること」との因果関係を突き止めるまでには至りませんでした。
今後、アルゼンチンアリの種内で餌となる資源の利用に関する情報を集積することで、「LH1」が持つ高い侵略性の理由の解明につながることが期待されます。

4.論文掲載

雑誌名 :Scientific Reports(インパクトファクター: 3.998/2019)
論文名 :Intraspecific differences in the invasion success of the Argentine ant Linepithema humile Mayr are associated with diet breadth
(アルゼンチンアリ種内における侵入成功の違いは資源の利用幅と関係する)
著者  :瀬古祐吾1、橋本洸哉2、木庭啓介3、早坂大亮1、澤畠拓夫1
所属  :1.近畿大学大学院農学研究科
2.国立環境研究所
3.京都大学生態学研究センター
筆頭筆者:瀬古祐吾  責任著者:瀬古祐吾、早坂大亮

5.研究の詳細

本研究では、「侵略的なスーパーコロニー『LH1』の特徴的な性質を調べること」がアルゼンチンアリの侵略的たる所以を知るカギになるのではないかと考え、生物の侵略性を測るひとつの指標として、「餌として利用する資源の多様さ」に注目して調査をしました。
研究チームは調査を実施するにあたり、「LH1」を含む4つのスーパーコロニー(LH1、LH2、LH3、LH4)が近接して生息する兵庫県神戸市にて、スーパーコロニーごとに複数の巣から働きアリを採集し、それらの炭素・窒素安定同位体比分析※2を実施しました。そして、各スーパーコロニーが餌として利用する資源の多様さを推定して比較しました。
その結果、スーパーコロニー「LH1」とそれ以外のスーパーコロニー(LH2、LH3、LH4)との間で、餌として利用する資源の多様さに大きな違いが見られ、「LH1」は他のスーパーコロニーよりも明らかに多様な資源を餌として利用していることが判明しました。
次に、各スーパーコロニーの採集地点における「餌として利用可能な資源の多様さ」を調査するため、餌となる可能性がある生物(バッタ、アブラムシなどの一次消費者)を可能な限り採集し、アルゼンチンアリと同様に炭素・窒素安定同位体比を測定しました。その結果、餌として利用可能な資源の多様さは、各地点で大きく変わらないか、むしろLH1の侵入地で低い傾向を示しました。
これらの結果から、スーパーコロニー「LH1」は、餌として利用可能な資源の多様さが変わらないか、むしろ乏しい地域でも、他のスーパーコロニーに比べてより多様な資源を餌として利用することができる、すなわち「食の多様性」を持っているということが判明しました。
以上のことから、この特性は「LH1」が最も侵略的なスーパーコロニーであることを証明する一つの有力な要因である可能性が示唆されました。

6.今後の展望

本研究の成果は、生物学的侵入を論じるうえで、「種内の違い」を検討することの重要性を明示するものです。ヒアリをはじめとする侵略的な外来アリ類は、アルゼンチンアリと共通する特徴も多く、本研究の応用次第では、それらの外来アリ類が侵入を成功させる要因を突き止めることや、侵略的な可能性を有する生物の早期発見・対策の検討といった防除方法の開発にも大きく貢献できる可能性があります。

7.研究支援

本研究は、科学研究費補助金(16K15080、19K06098、20J12743)の支援を受け、実施されました。

8.用語解説

※1 スーパーコロニー:女王アリを中心とし、雄アリや多数の働きアリから構成される集団をコロニーと呼び(それによって構成される空間構造を巣と呼ぶ)、敵対関係にない複数のコロニーによって構成される大規模なコロニーをスーパーコロニーと呼ぶ。スーパーコロニーを形成するアリは外来種・在来種問わず一定数存在する。

※2 炭素・窒素安定同位体比分析:「その生物が何を食べてきたか」を分析する手法。生物が餌を食べると、その餌によって生物の体が代謝され、代謝される過程で、食べてきた餌の情報(安定同位体比)がその生物の体組織にも反映される。 今回の研究では、アルゼンチンアリの体組織の炭素・窒素安定同位対比の「ばらつき」を調べることで「アルゼンチンアリの食がどれほど多様か」を推測した。

【本件に関するお問合せ先】

近畿大学農学部事務部 担当:吉川・本藤・松本
TEL:(0742)43-1639 FAX:(0742)43-5161
E-mail:nou_koho(末尾に@ml.kindai.ac.jpをつけてください)

国立研究開発法人国立環境研究所企画部広報室
TEL:029-850-2308 E-mail:kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

京都大学総務部広報課国際広報室
TEL:075-753-5729 E-mail:comms(末尾に@mail2.adm.kyoto-u.ac.jpをつけてください)

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