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2017年8月31日

地球温暖化で土壌から排出される二酸化炭素の量がどれほど増えるのか

特集  マルチスケール温室効果ガス観測
【研究ノート】

寺本 宗正

はじめに

 昨今の地球温暖化の原因は、大気中の温室効果ガス、特に人間の活動によって二酸化炭素が増えた事が原因と言われています。そのため、人間の活動こそが二酸化炭素の主要な排出源であるかの様なイメージがあります。しかしながら、土壌からも多量の二酸化酸素が排出されており、このことは一般的にはあまり知られていません。Bond-Lambertyらが2010年にNature誌で発表した論文によれば、地球規模では、土壌から排出される二酸化炭素の量は、年間約3,600億トンとも推定されています。この量は、人間活動によって排出される二酸化炭素の約10倍にも相当するものです。この莫大な二酸化炭素の排出量は、地球温暖化の影響で、今後増える事が懸念されています。これまで森林は、その土壌から排出された二酸化炭素も樹木が吸収するため、二酸化炭素の吸収源とされてきました。ところが、土壌から排出される二酸化炭素が増えれば、将来森林は、二酸化炭素の排出源になってしまう可能性もあります。  

地球温暖化と微生物呼吸:なぜ土から排出される二酸化炭素が増えるのか

 土壌から二酸化炭素が発生する原因の一つとして、植物の根の呼吸(根呼吸)が挙げられます。植物の根も新陳代謝を行い、酸素を取り込んで二酸化炭素を排出しているのです。もう一つの原因は、土壌の中の微生物です。彼ら微生物は、落ち葉や枯死根、倒木などの有機物を取り込み、分解して、二酸化炭素を排出しており、この活動を微生物呼吸と呼びます。微生物呼吸は、土壌から発生する二酸化炭素のうち、7割程度に相当すると考えられ、温度上昇によって指数関数的に増加するという特徴があります。そのため、地球温暖化によって温度がわずかでも上昇すれば、微生物呼吸が顕著に増加し、さらに地球温暖化を加速させてしまうという悪循環が想定されます。しかしながら、それを検証するための長期的な温暖化操作実験に関する報告は非常に限られており、特に日本を含むアジアモンスーン域における研究例はほとんどありませんでした。アジアモンスーン域は多様な生態系が存在する、温暖湿潤で広大な地域です。そのため、アジアモンスーン域の気候変動に対する応答は、将来予測を立てる上で非常に重要と考えられます。そこで、我々の研究チームでは、日本各地6ヶ所及び中国西南部2ヶ所の代表的な森林生態系に同一の観測システム(大型マルチチャンネル自動開閉チャンバーシステム)を導入し、赤外線ヒーターを用いた温暖化条件下で、微生物呼吸に対する長期的な温暖化の影響を観測しています。この研究ノートでは、宮崎大学と共同で行った6年間の研究成果から、長期的な温暖化によって、微生物呼吸の量がどの様に変化したのかをご紹介します。 

観測システムと長期的な温暖化影響の評価方法

 2008年12月の中旬に、国立環境研究所が独自に開発した自動開閉チャンバーシステムを、宮崎大学田野フィールド内のコジイ林に設置しました(写真1a)。チャンバーは、塩化ビニル製の透明な箱です(縦90×横90×高さ50 cm)。制御装置内のプログラムによって、1つのチャンバーは4分間だけ蓋が閉まり、その間にチャンバー内の二酸化炭素が測定されます。4分が経過した後は解放されて、次のチャンバーが閉まる様に設計されています。本観測サイトには15個のチャンバーを設置していますので、1時間毎に全てのチャンバーで1回ずつ測定が行われ、そのサイクルを繰り返すことで、常時二酸化炭素の放出速度を測定する事ができます(図1)。15個のチャンバーのうち、10個のチャンバー周辺はチェンソーで樹木の根を深さ40 cmまで切り、その後30 cmまで塩化ビニルの板を挿入しています。そうする事で、周辺からチャンバー内の土壌に樹木の根が侵入する事を防ぎ(写真1a)、根呼吸を極力減らして、微生物呼吸のみを観測できます。また、その様な処理を行った測定区のうち半数には、地表面から約1.6 mの高さに赤外線ヒーターを取り付け、温暖化区としました(写真1b)。温暖化区では、ヒーターを取り付けていない対照区と比べて、地下5 cmの温度が約2.5 ℃上昇する様に設定されています。温暖化区と対照区における二酸化炭素の放出速度を6年間にわたって比較する事で、微生物呼吸に対する温暖化の長期的な影響を評価しました。 

写真1 宮崎のコジイ林における自動開閉チャンバーシステム設置時の(a)根切り作業、(b)温暖化区のチャンバーとカーボンヒーター(詳細はLiang et al. 2017 (doi: 10.1038/sdata.2017.26)を参照)。
図1(クリックで拡大画像を表示)
図1 宮崎に設置した15個のチャンバーの模式図と、各チャンバーにおける二酸化炭素濃度の記録。1つの傾きは、1つのチャンバーが4分間閉鎖していた間、そのチャンバー内で変化した二酸化炭素濃度を示す。測定中のチャンバー内(右端)では、徐々に二酸化炭素濃度が上昇している。

温暖化によって微生物呼吸はどう変化したのか

 温暖化によって微生物呼吸が増加するという傾向は、6年間を通して観測されました(図2)。1 ℃当たりの温暖化によって増加した微生物呼吸の割合(温暖化効果)は、年別に見ると7.1~17.8 %の間で変動していました(図3a)。この年別の温暖化効果と夏季の降水量の間には正の相関が見られたため(図3b)、夏場の土壌が乾燥せず、湿潤に保たれた状態では、より高い温暖化効果が示されることが明らかになりました。1 ℃当たりの温暖化効果に関して、6年間の平均値を取って見ると、9.4 %微生物呼吸が増加していました。この9.4 %という値は、微生物呼吸と温度の関係を示す、簡単な指数関数式から導かれた予測値(1 ℃当たりの温暖化で平均10.1 %微生物呼吸が増加)と近いものでした。日本の森林土壌には、世界的に見ても多くの有機物が含まれることが、この様な長期的な促進効果につながったものと考えられます。また、今回観測された温暖化効果は、欧米における先行研究(Luoらが2001年にNature誌で発表した、アメリカ中央部にあるオクラホマ州高草草原における結果では+0.1 %℃-1以下、Melilloらが2002年にScience誌で発表した、アメリカマサチューセッツ州にあるハーバード大学演習林における初期の結果では+5.6 %℃-1)に比べて高いものでした。加えて、温暖化区におけるQ10値(温度敏感性の指標であり、温度が10 ℃上昇した時の微生物呼吸の増加倍率)に注目して見ると、6年間で平均2.92(変動範囲は2.74から3.23)となっていました。この数値は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の、第5次報告書(2013年から2014年に公開)における科学的背景となっている将来予測モデルに採用されたもの(変動範囲は1.45から2.61)よりも大きいものです。このことは、微生物呼吸が温暖化に対して、これまで想定されていたよりも強く応答する(二酸化炭素排出量が増える)という事を示唆しています。本研究の一部は、すでに国際誌Scientific Reportsに掲載されています。

図2(クリックで拡大画像を表示)
図2 (a)観測期間における土壌水分、地温、降水量等の環境データ、(b)温暖化区と対照区の二酸化炭素排出速度、(c)温暖化区と対照区の二酸化炭素排出速度の差(正は温暖化によって二酸化炭素放出速度が増加している事を、負は減少している事を示す。詳細はTeramoto et al. 2016 (doi: 10.1038/srep35563)を参照)。
図3(クリックで拡大画像を表示)
図3 (a)微生物呼吸に対する年平均温暖化効果の実測値とモデル推定値の比較、(b)微生物呼吸に対する年平均温暖化効果の実測値と夏季の降水量の相関(詳細はTeramoto et al. 2016 (doi: 10.1038/srep35563)を参照)。

おわりに

 今回の我々の研究結果から、土壌中に有機物を多く含み、湿潤なアジアモンスーン域では、温暖化によって、微生物呼吸が従来予測されていたよりも一層増加する可能性が示されました。本研究結果は、気候変動に関する将来予測の精度向上に貢献する事が期待できます。一方で、さらに長期にわたる温暖化に対して、微生物呼吸がどう変化するのか、今回の結果がアジアモンスーン域における他の地域にも当てはまるものなのかを検証していく必要があるでしょう。地球温暖化は人間活動が引き金となって起こっていますが、その影響は、昔からあった自然生態系における炭素収支も変化させ、より大きな二酸化炭素排出につながる可能性があります。

(てらもと むねまさ、 地球環境研究センター炭素循環研究室 特別研究員)

執筆者プロフィール:

執筆者写真 寺本 宗正

大学院の5年間では、主に菌(キノコの仲間)と放射線を扱う室内実験を行いました。環境研の5年間では、一転してフィールド観測が主体となりました。観測研究は、時間と手間とお金がかかるものだなと日々実感しております。地球温暖化の対策も、自分の人生も、少しずつでも着実に前に進んでいけたらと思います。

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