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2023年9月11日

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「いぶき」(GOSAT)と「いぶき2号」(GOSAT-2)の温室効果ガス濃度の整合性調査
— GOSATシリーズによる温室効果ガス濃度の長期間データ整備の取り組み —

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

2023年9月11日(月)
国立研究開発法人国立環境研究所
 

 国立環境研究所衛星観測センターは温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT、2009年1月打ち上げ)、及び、温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2、2018年10月打ち上げ)の観測データから得られた全球の晴天域の温室効果ガス濃度データ(二酸化炭素、メタン)の一般提供を行ってきました。両衛星の温室効果ガス濃度データを同時に用いる場合、より正しい解釈をするために、どの程度の違いがあるかを詳しく把握することが重要です。今回、国立環境研究所地球システム領域の吉田幸生主任研究員、染谷有主任研究員らの研究チームは、各衛星から得られた温室効果ガス濃度データを複数の手法により比較し、それらの品質を評価しました。その結果、両衛星から得られた温室効果ガス濃度データは地域によって若干の違いはあるものの、概ね1%以内で一致していることが明らかになりました。
 この結果により、GOSATシリーズにより得られた温室効果ガス濃度データの併用など、さらなる利活用が期待されます。
 本研究の成果は、2023年8月22日付で日本気象学会のオンライン学術誌『SOLA』に掲載されました。

 

1. 研究の背景と目的

環境省、国立研究開発法人国立環境研究所(以下「NIES」という。)、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の3機関は共同でGOSATシリーズプロジェクトを推進しています。GOSATシリーズは、宇宙からの温室効果ガス観測を主目的とした一連の地球観測衛星で、2009年1月打ち上げの1号機(温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」、GOSAT)と2018年10月打ち上げの2号機(温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」、GOSAT-2)が現在運用中であり、3号機(温室効果ガス・水循環観測技術衛星、GOSAT-GW)が2024年度に打ち上げられる予定です。NIESは「衛星観測に関する事業」の一環として、GOSATシリーズで得られたデータの解析手法の開発・改良や解析結果の検証・品質評価などを実施しています。
GOSAT、GOSAT-2には、温室効果ガス観測センサとしてそれぞれTANSO-FTS、TANSO-FTS-2というセンサが搭載されています。これらのセンサで観測された短波長赤外スペクトル注釈1を解析することで、二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)などの気柱平均濃度注釈2を推定することができ、推定された濃度データはNIESから「レベル2プロダクト」として公開されています。推定された濃度データの検証・品質評価は、地上設置型フーリエ変換分光計による観測ネットワーク(TCCON)注釈3のデータを用いて衛星ごとに実施していますが、衛星間の濃度データの比較はこれまで実施していませんでした。GOSATシリーズとして長期間の濃度データを整備するにあたり、衛星間の濃度データの整合性を確認することは重要です。そこで本研究では、両衛星から得られたCO2, CH4濃度データを比較することで、衛星間のCO2, CH4濃度データに存在しうる系統的な差異が、時間・空間的にどの程度変動するかを調べることを目的としました。

2. 研究手法

NIESが開発した温室効果ガス濃度推定手法では、濃度推定の際の誤差要因となるエアロゾルなどの影響や装置特性の時間変化などを考慮することで推定精度の向上を図っています注釈4。しかしながら、解析に用いる情報と現実との間には少なからず差異があり、濃度データに誤差を与えます。これまでの検証活動の中で、重回帰分析(あるデータを他の2つ以上のデータによって説明するための関係式を作る分析法)を用いた経験的なバイアス補正手法の開発・検討が行われ、GOSATについてはバイアス補正済みのレベル2プロダクトも公開されています。GOSAT-2についてはバイアス補正済みのレベル2プロダクトは公開されていないため、本研究において重回帰分析を用いたバイアス補正を適用しました。
バイアス補正済みのCO2, CH4濃度データに対し、以下の比較を行いました。 (1)TCCONデータと各衛星データの比較
(2)GOSAT、GOSAT-2の観測地点・観測時刻がほぼ同一である同期観測データの比較
(3)GOSAT、GOSAT-2の緯度10度毎、経度10度毎にブロック分けした領域内のそれぞれの平均濃度の月別比較
各気体濃度の時間・空間不均質性が評価結果に与える影響を低減するため、(1)と(2)では以下のマッチアップ条件を満たすデータを比較対象として抜き出しました。 (1)に対するマッチアップ条件
・衛星データの視野中心位置がTCCONサイトを中心に緯度・経度0.2度以内に存在すること
・衛星データの視野内平均高度とTCCONサイトとの高度差が200m未満であること
・衛星観測時刻±30分間に有効なTCCONデータが存在すること
(2)に対するマッチアップ条件
・GOSATデータとGOSAT-2データの観測日が同一日であること
・互いに自身のデータの視野中心位置±0.2度の範囲に存在する最近隣の相手のデータであること
・互いのデータの視野内平均高度の高度差が200m未満であること
なお、解析に使用したデータの期間はGOSATが2009年4月から2022年11月、GOSAT-2が2019年3月から2022年11月、TCCONが2009年4月から2020年12月で、比較は使用するデータが存在する期間に対して行いました。

3. 研究結果と考察

まず、(1)TCCONデータと各衛星データの比較について示します。マッチアップ条件を満たす衛星データは全て陸域のデータでした。衛星の運用期間やセンサの運用パターンの違いから、20個以上のマッチアップデータが得られたTCCONサイトはGOSATで14サイト、GOSAT-2で13サイトでした。これらのTCCONサイトに対して計算したTCCONデータに対する衛星データの差の平均(以下、「バイアス」という。)・標準偏差(以下、「ばらつき」という。)によると、GOSAT、GOSAT-2共にばらつきの平均値はCO2で1.9ppm以下、CH4で10ppb以下でした。バイアスの地域依存性を確認するために各TCCONサイトで得られたバイアスの標準偏差を計算したところ、CO2で0.9ppm以下、CH4で5ppb以下であることがわかりました。
次に、(2)GOSAT、GOSAT-2の同期観測データの比較について示します(図1)。衛星の回帰日数注釈5の違い(GOSATは3日、GOSAT-2は6日)から同期観測が可能な地域は限定されましたが、マッチアップ条件を満たす衛星データは陸域のみならず海域にも存在しました。両衛星データは概ねよく一致し、GOSATデータに対するGOSAT-2データの差の標準偏差は陸域のデータに対しCO2で2.24ppm、CH4で11.7ppb、海域のデータに対しCO2で1.68ppm、CH4で9.6ppbであり、両衛星のTCCONデータに対するばらつきの平均値の二乗和平方根(複数の値をそれぞれ二乗してから合計し、平方根をとった値)よりは若干小さい値でした。ただし、海域のCH4はGOSAT-2の方が約10ppb低く、これはGOSATでは濃度データを求める際に地表面反射の扱いを陸海で変えていたり、バイアス補正における重回帰分析を陸海別に実施したりしているのに対して、GOSAT-2ではそのような陸海の区別をしていないという、陸海データの取り扱いの違いに起因していると考えられます。

図1
図1 GOSATとGOSAT-2の同期観測データの比較。(a)陸域のCO2濃度、(b)陸域のCH4濃度、(c)海域のCO2濃度、(d)海域のCH4濃度の二次元頻度分布。破線は±1%の範囲を表す。同期観測地点を(e)CO2濃度、(f)CH4濃度の衛星間の濃度差で色付けしたマップ。#はデータ数、AVGは平均、STDは標準偏差、rは相関係数、G1はGOSAT、G2はGOSAT-2を表す。

最後に(3) GOSAT、GOSAT-2の緯度10度毎、経度10度毎にブロック分けした領域内のそれぞれの月別平均濃度を比較した結果を示します(図2)。領域内月別平均濃度は衛星ごとに計算しているため、同月同一領域内とはいえ、異なる観測位置や観測日時のデータから求めた平均濃度を比較している点に注意が必要です。各衛星の平均濃度の差は場所や季節に応じて変化し、その原因についてはまだ調査中ですが、一部はエアロゾルの影響を十分に考慮できていないためと考えられます。例えば、北アフリカではGOSAT-2の平均濃度がGOSATよりも高くなっていますが、気体濃度と同時に推定しているエアロゾルの量がGOSATに比べてGOSAT-2では少なかったことが原因として挙げられます。GOSAT、GOSAT-2それぞれで10個以上の衛星データから計算された領域内平均濃度の差の標準偏差はCO2で1.77ppm、CH4で11.7ppbであり、TCCONデータから評価されたバイアスの地域依存性よりも大きくなりました。衛星による観測は地球全体に渡るため、エアロゾルや地表面反射特性など濃度推定に影響を及ぼす物理量の分布も多種多様ですが、既存のTCCONサイトでは限られた範囲しかカバーできていません。つまり、衛星データの全球多様性の網羅やバイアスの地域依存性の適切な評価という点で、本研究で用いたTCCONサイトは不十分であることがわかります。地表面反射率が高い陸域や海域など、衛星の観測条件や地域的な網羅性を拡張できるような検証データを新たに取得することが重要です。

図2
図2 GOSATとGOSAT-2の緯度10度毎、経度10度毎にブロック分けした領域内のそれぞれの月別平均CO2濃度の差。2020年の例。図中のxと+はそれぞれGOSATとGOSAT-2の平均濃度の計算に用いた衛星データが10個未満であったことを示す(両衛星データが10個未満の場合はxと+が重なっている)。

4. 今後の展望

本研究で得られたGOSATデータとGOSAT-2データの整合度に関する知見は、これらの衛星データを利用する際の留意点として重要です。今後もさらなる利便性向上のため、各衛星データの精度向上、及び、衛星データ間の整合性向上に向けた研究を進めます。また、本研究の結果はTCCONのネットワーク拡大に際し、参考の一助となることが期待されます。

5. 注釈

注釈1:TANSO-FTS、TANSO-FTS-2はいずれも0.7、1.6、2.0 µm付近の波長帯(バンド)をバンド1から3によって観測し、これらの波長帯を短波長赤外域と呼んでいます。また、光の強度の波長分布のことをスペクトルと呼んでいます。
注釈2:短波長赤外域を用いた温室効果ガスの衛星観測では、地球の大気に入射した太陽光が地表面で反射され、衛星で観測されるまでに通過する大気(気柱)内の水蒸気を除いた全分子数のうちの対象物質の分子数の割合を気柱平均濃度として推定しています。
注釈3:GOSATやGOSAT-2、他の衛星による温室効果ガス濃度の検証にTCCONデータが広く用いられています。TCCONは世界の約30ヶ所に設置された大型のフーリエ変換分光計を用いて太陽直達光を観測するネットワーク(https://tccon-wiki.caltech.edu/ (外部サイトに接続します))であり、衛星観測と比べて温室効果ガス濃度を高い精度で推定することができます。本研究では、解析アルゴリズムGGG2014で処理されたデータを用いました。
注釈4:短波長赤外域を用いた温室効果ガスの衛星観測では、地球の大気に入射した太陽光が地表面で反射され、衛星で観測されるまでに温室効果ガスによって吸収されることを利用して濃度の推定を行います。雲やエアロゾルなどの大気中粒子が存在する場合、太陽光がそれらによって散乱・吸収され、衛星で観測されるスペクトルにおける温室効果ガスによる吸収の強さが変化します。また、軌道上でセンサの装置特性の安定性を調べる校正観測の結果から、装置特性が時間と共に変化していることが明らかとなっています。装置特性が変化すると、センサに入射するスペクトルが同一であっても異なるスペクトルとして記録されます。そのため、温室効果ガス濃度を高精度で推定するためには、これらの影響を考慮して解析を行う必要があります。
注釈5:地球を周回する衛星が再び同じ地点に戻ってくるまでにかかる日数を回帰日数といいます。GOSATの場合3日で地球を44周し、4日目に通る45周目が1日目に通った1周目と同じ軌道になります。GOSAT-2では6日で89周し、90周目が1周目と同じ軌道になります。

6. 研究助成

本研究において推定結果の検証に使用したTCCONデータの一部の観測地点の運用は環境省からの受託事業による支援によって行われました。パリのTCCONサイトは、ソルボンヌ大学、フランス国立科学研究センターCNRS、フランス国立宇宙研究センターCNES、イル=ド=フランス地球圏からの支援を受けて運用されています。

7. 発表論文

【タイトル】Quality Evaluation of the Column-Averaged Dry Air Mole Fractions of Carbon Dioxide and Methane Observed by GOSAT and GOSAT-2 【著者】Yukio Yoshida, Yu Someya, Hirofumi Ohyama, Isamu Morino, Tsuneo Matsunaga, Nicholas M. Deutscher, David W.T. Griffith, Frank Hase, Laura T. Iraci, Rigel Kivi, Justus Notholt, David F. Pollard, Yao Té, Voltaire A. Velazco, and Debra Wunch 【掲載誌】Scientific Online Letters on the Atmosphere 【URL】https://www.jstage.jst.go.jp/article/sola/19/0/19_2023-023/_article/-char/en(外部サイトに接続します) 【DOI】10.2151/sola.2023-023(外部サイトに接続します)

8. 発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。
国立環境研究所
地球システム領域衛星観測研究室
 主任研究員 吉田幸生
 主任研究員 染谷有
 主任研究員 大山博史
 室長 森野勇
地球システム領域衛星観測センター
 センター長 松永恒雄

9. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
 国立研究開発法人国立環境研究所 地球システム領域
 衛星観測研究室 主任研究員 吉田幸生

【報道に関する問合せ】
 国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
 kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

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