ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2022年3月10日

共同発表機関のロゴマーク
メタンの全大気平均濃度の2021年の年増加量が
2011年以降で最大になりました
~温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(「いぶき」)の
観測データより~

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

2022年3月10日(木)
国立研究開発法人国立環境研究所
地球システム領域
衛星観測センター
 センター長   松永恒雄
 主任研究員   野田 響・齊藤 誠・吉田幸生
 主幹研究員   森野 勇
 高度技能専門員 佐伯田鶴
地球環境データ統合解析推進室
 高度技能専門員 Jiye Zeng

環境省 地球環境局総務課
脱炭素化イノベーション研究調査室
 代表 03-3581-3351  直通 03-5521-8247  室長: 河村 玲央
 室長補佐: 光山 拓実
 主査: 倉田 大輝
 担当: 松嶋 暁広
    田中 雅士
 

   国立環境研究所・環境省が宇宙航空研究開発機構と共同で運用中の温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(「いぶき」)の観測データより、メタンの全大気平均濃度の2021年の年増加量が観測開始以降で最大になったことが分かりました。近年のメタン濃度上昇の原因はまだ明らかになっていませんが、このような濃度上昇をもたらす要因が将来のメタン濃度の予測やパリ協定に基づく各国の排出削減施策の実施状況の確認などにおいて、大きな問題となる可能性があります。またこのような地球大気全体の温室効果ガス濃度の急上昇の速やかな報告はGOSATによる全球観測の速報性がいかされたものといえます。
   GOSATによるメタンの全大気平均濃度データは国立環境研究所GOSATプロジェクトのホームページにて公開中です。
 

1.GOSATシリーズについて

 国立環境研究所では、環境省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とともに、温室効果ガスを宇宙から観測する人工衛星プロジェクト「GOSATシリーズ」を推進しています。1号機の温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT、いぶき)は2009年の打上げ以降、主要な温室効果ガスである二酸化炭素とメタンのカラム平均濃度の観測を12年以上にわたり継続しています。また2号機(GOSAT-2、いぶき2号)は2018年に打ち上げられ、二酸化炭素、メタンに加え一酸化炭素の観測を開始しています。またさらに、3号機(温室効果ガス・水循環観測技術衛星、GOSAT-GW)についても2023年度の打上げを目指して現在開発を進めています。
 GOSAT、GOSAT-2のデータについては、以下のホームページより公開中です。
 (GOSAT) https://data2.gosat.nies.go.jp/
 (GOSAT-2)https://prdct.gosat-2.nies.go.jp/

2.GOSATによる温室効果ガスの全大気平均濃度について

 世界気象機関を含む世界のいくつかの気象機関では、これまでもそれぞれが管轄する地表観測点のデータを用いて算出した地上での全球平均濃度を発表してきました。しかし、通常メタンを含む温室効果ガスは高度によって濃度差があるために、地上観測点の濃度データだけでは地球大気の平均的な濃度を表せません。これに対してGOSATは温室効果ガスの地表面濃度ではなく、地表面から大気上端までの大気中の温室効果ガスの総量を観測することができます。2021年8月に公開された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書 第1作業部会報告書において示されている将来の温室効果ガス濃度は地球大気の平均的な濃度であることから、今後の温室効果ガスの増加による地球温暖化のリスクを予測する上では、地球全体の温室効果ガスの平均濃度の算出が重要であり、上空の大気まで含めた「全大気」の平均像を把握することが不可欠です。また、2021年11月に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、メタンの排出削減に関するグローバル・メタン・プレッジが創設され、メタンの濃度監視や排出管理の重要性が改めて注目されています。
 このような背景の下、国立環境研究所ではGOSATの全球データを用いて地球大気全体の平均的な濃度に相当する「全大気平均濃度」を算出し、二酸化炭素については2015年11月より、メタンについては2017年6月より、毎月の速報値と過去のデータをその算出方法とともに以下のホームページにてお知らせしています。
 (二酸化炭素) https://www.gosat.nies.go.jp/recent-global-co2.html
 (メタン)   https://www.gosat.nies.go.jp/recent-global-ch4.html

3.2021年のメタンの全大気平均濃度とその年増加量について

 図1に2009年4月〜2021年12月のメタンの全大気平均濃度(月別値、黒)とその年平均値(赤)を示します。2009年以降、メタンの全大気平均濃度は毎年5〜7月に極小値、10月〜1月に極大値を取る季節変化を示しながら、徐々に増加していることが分かります。またより詳しい解析からは2020年頃から濃度増加のペースが上がっている傾向も見られます。

「いぶき」によるメタンの全大気平均濃度と年平均値を表した図
図1 「いぶき」によるメタンの全大気平均濃度(月別値、黒)と年平均値(赤)。

 表1にGOSATによるメタンの全大気平均濃度の年平均値と年増加量を示します。2011〜2020年の年増加量の平均値は8 ppbであったのに対し、2021年の年増加量は17 ppbと、過去10年間と比べて倍増していることが分かります。

GOSATによるメタンの全大気平均濃度の 年平均値と年増加量を表した表

4.考察

 近年のメタン濃度の上昇についてはGOSAT以外の観測でも確認されており、その原因の解明に向けて生物起源や化石燃料起源のメタン排出量や大気中の化学反応による消失量の変化などに着目した研究が現在世界各国で精力的に進められています。その原因の解明にはまだ時間が必要ですが、将来のメタン濃度の予測やパリ協定に基づく各国の排出削減施策の実施状況の確認などにおいて、大きな問題となる可能性があります。
 また、メタンの地表面における濃度については、米国海洋大気庁の解析により2019年から2020年に急上昇したことが明らかになっています*。これに対し、今回のGOSATの結果は、メタン濃度の上昇が地表面付近だけでなく地球大気全体に及んでいたことを示唆します。
 なお、2021年の全球的な年増加量の大幅増大を速やかに発表できたことについてはGOSATによる全球観測の速報性が生かされた結果といえます。
*https://research.noaa.gov/article/ArtMID/587/ArticleID/2742/Despite-pandemic-shutdowns-carbon-dioxide-and-methane-surged-in-2020【外部サイトに接続します】

5.今後の展望

 2021年に観測されたメタン濃度の上昇が2022年以降も続くか、その上昇率は更に今後加速するか、などについては現時点では分かりません。このため全球的なメタン濃度の観測を今後も継続する必要があります。
 国立環境研究所では、現在GOSATデータを用いて二酸化炭素とメタンの全大気平均濃度を算出していますが、GOSAT-2データを用いた全大気平均濃度の公開準備も進めています。さらに将来的には、2023年度打上予定のGOSAT-GWデータを用いることにより、2009年から20年以上にわたる全大気平均濃度データを提供する予定です。
 「GOSATシリーズ」による温室効果ガスの全大気平均濃度により、パリ協定に基づく各国の温室効果ガス排出削減の進捗の確認が進むことが期待されます。

6.その他

 GOSATデータを用いた二酸化炭素とメタンの全大気平均濃度の算出は、国立環境研究所運営費交付金及び環境省委託業務「令和3年度GOSATシリーズの高次処理プロダクト作成及び利用に関する委託業務」によって実施されています。

7.データへのアクセスについて

【タイトル】GOSATの観測データに基づく全⼤気中の⽉別メタン濃度 速報値
【著者】 国立環境研究所 衛星観測センター GOSATプロジェクト
【URL】 https://www.gosat.nies.go.jp/recent-global-ch4.html

8.問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 地球システム領域
衛星観測センター センター長 松永恒雄

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
TEL:029-850-2308

9.参考

大気中のメタンについて
 メタンは二酸化炭素に次ぐ地球温暖化に及ぼす影響が大きい温室効果ガスであり、IPCCの第5次評価報告書によると、その地球温暖化への寄与は同じ量の二酸化炭素の28倍になります。その主な自然発生源は湿地や白アリ等、人為発生源は、水田、家畜(牛、羊等の反すう動物)、埋立て、化石燃料採掘・燃焼等、多岐にわたっています。他方、大気中で 主にOHラジカルとの反応による消失もします。
 なお、地表付近のメタン濃度は、18世紀頃までは 700-750 ppb の範囲で比較的安定していましたが、その後人間活動によって急激に増大し、現在では1,800 ppb を超えています。

グローバル・メタン・プレッジ
 世界のメタンの排出量を2030年までに2020年比30%削減することを目指し、米国と欧州連合が主導するイニシアティブで、日本を含め、100を超える国と地域が参加を表明しています。

過去の関連報道発表

1)2017年6月2日
温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測データに基づくメタンの全大気平均濃度データの公開について
https://www.nies.go.jp/whatsnew/20170602/20170602.html
2)2016年10月27日
季節変動を取り除いた全大気平均二酸化炭素濃度が初めて400 ppmを超えました! ~温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測速報~
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2016/20161027/20161027.html
3)2016年5月20日
全大気平均二酸化炭素濃度が初めて400 ppmを超えました ~温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測速報~
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2016/20160520/20160520.html
4)2015年11月16日
温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の観測データに基づく月別二酸化炭素の全大気平均濃度の公表について
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2015/20151116/20151116.html