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2022年12月28日

気候変動と生態系の関係 そのモニタリング

特集 気候変動と生態系、モニタリング研究の今

西廣 淳

 気候変動と自然生態系は密接にかかわっています。気温の上昇や降雪量の変化は、高温に対する耐性が低い生物の局所的な絶滅や、分布域の変化をもたらします。現在、地球規模で生物多様性の損失が進行していますが、気候変動の影響は、土地の直接的な改変や侵略的外来種の影響と並ぶ、主要な原因の一つと考えられています。

 気候変動が自然生態系に影響するだけでなく、逆に、自然生態系の状態が気候変動に影響するという側面もあります。湿地や森林などの生態系は、土壌中に多量の炭素を蓄積しており、これらの生態系の損失が進むと、蓄積されていた炭素が二酸化炭素として放出され、気候変動の加速をもたらす可能性が指摘されています。気候変動と自然環境の悪循環的な変化を食い止めるためには、温室効果ガスを抑制する気候変動緩和策を進めると同時に、人工的な土地改変や外来種の影響など、生態系の変化をもたらす気候以外の問題を改善し、気候変動による悪影響を受けにくい、あるいは回復能力が高い生態系に変えていくことが有効です。

 また、近年、気候変動への対策として、気候変動緩和策だけでなく、気候変動に伴うリスクの軽減を目指す気候変動適応策の重要性が強く認識されるようになりました。気候変動適応策にはさまざまなアプローチがありますが、その一つに生態系を活用した気候変動適応(Ecosystem-based Adaptation; EbA)があります。たとえばサンゴ礁やマングローブがもつ波浪を和らげる効果を活用し高潮などによるリスクを軽減する方策や、湿地や森林がもつ雨水の浸透・貯留能力を活用し大雨によるリスクを軽減する方策などが該当します。生態系は、人間の社会が気候変動に対処する上での頼もしい味方でもあるのです。2022年6月には、環境省から関連の手引書も発行されました(「生態系を活用した気候変動適応策(EbA)計画と実施の手引き」https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/library/files/EbA.pdf)。

 このように気候変動と生態系に関する環境科学上の課題には、「気候変動による生態系への影響を把握し、それを軽減する」という側面と「気候変動が社会にもたらすリスクを軽減するために、生態系を活用する」という両方の面があります。いずれも持続可能な社会を築く上で重要なアプローチと言えるでしょう。その基礎となるのは、生態系に生じている現象の実態把握です。生態系の構成種の組成や、それぞれの種の成長や季節性などの特性に対する気候変動影響を科学的に把握することは、あらゆる対策の基礎となります。

 本特集では、国立環境研究所の「気候変動適応研究プログラム」の取り組みから、気候変動による生態系への影響把握に着目した研究をご紹介します。「研究ノート」では、森林を構成する樹木に対する気候変動の影響を検出する研究や、気候変動とマングローブのかかわりに関する研究を紹介します。また「環境問題基礎知識」では、気候変動を含む環境変化への「適応」の考え方について生物学の視点から解説します。「調査研究日誌」では多様な主体と連携した野外調査の様子、「研究施設・業務等の紹介」では湖沼における高頻度・高精度な環境モニタリングについてお伝えします。

(にしひろ じゅん、気候変動適応センター 気候変動影響観測研究室 室長)

執筆者プロフィール:

筆者の西廣淳の写真

国環研に転職して3年。さまざまな生態系や自然現象についての議論にかかわるようになりましたが、やはり一番トキメクのは水草の調査。今年は青森県・小川原湖に調査に行き、美しい水草の世界を堪能しました。

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