環境DNAによる全国湖沼の魚類モニタリング:
1Lの採水によって40種を超える魚種を検出
(京都大学記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、環境記者会、環境問題研究会、筑波研究学園都市記者会)
本成果は、2023年6月1日に国際学術誌「Freshwater Biology」にオンライン掲載されました。
1.背景
現在、生物多様性の世界的な減少が叫ばれています。生物多様性の現状を理解することは、生態学的研究や保全生物学の基盤であり、喫緊の課題です。近年、淡水生態系(河川や湖沼)においても、淡水魚類をはじめとする多くの種類において、深刻な生物多様性の減少が確認されており、生態系機能や、淡水域での漁業などへの深刻な影響が懸念されています。
生物多様性の現状を理解するには、広域での生物調査が不可欠です。しかし、国や地方自治体による広域的な湖沼魚類調査は、近年各国で減少しています。日本においても、環境省の自然環境保全基礎調査が、全国各地の480以上の湖沼を対象に実施されていましたが、1993年を最後に実施されていません。広域的な魚類モニタリングのための調査手法の開発は、国レベルでの生物多様性調査実施を通じて、その結果から保全政策の立案に貢献することが期待されています。全国の湖沼調査において、環境DNAメタバーコーディング(*1)の広域モニタリングへの応用への期待は非常に大きいと考えられます。
2.研究手法・成果
本研究では、琵琶湖、霞ヶ浦、宍道湖をはじめとして、日本の18湖沼(下図)を調査対象としました。湖の大きさが環境DNAメタバーコーディングの結果に与える影響を評価するために、湖の大きさにかかわらず、サンプリング地点数は6箇所として、各湖の岸辺にサンプリング地点間の間隔がほぼ等しくなるように設定しました。
採水した1Lの水サンプルについて、魚類の環境DNAを網羅的に増幅するMiFishプライマーを用いて環境DNAメタバーコーディングを行い、魚類群集を明らかにしました。その結果について、これまでの湖沼での採捕記録と比較しました。
その結果、魚類の種数について、最大で40種が確認され、特に汽水湖である宍道湖や古代湖である琵琶湖などの湖沼での多様性が高く、また、北海道など緯度が高いところでは多様性が低い傾向が見られました。
さらに、魚の形質(体型、耐性、生息場所)のデータをFishBase (https://www.fishbase.se/ 外部サイトに接続します)という全世界魚類の形質・生態情報を収集したデータベースから得て、それを環境DNAでの検出結果と比較しました。魚の生息場所や隠れやすい体型などによって、それぞれの種の環境DNAの検出率が異なることがわかり、これらの形質が環境DNA調査に影響を与えることがわかりました。
3.波及効果、今後の予定
すでに環境DNA調査は多く利用されてきていますが、湖沼などの淡水生態系での大規模な全国での調査は行われていませんでした。今後、生物多様性把握のための調査として、環境DNA手法を全国の湖沼調査に応用することが可能です。今後はさらに、魚類以外の分類群(水生昆虫や水草など)にも着目した解析を行うことで、湖沼のすべての生物相を把握できるような手法を検討したいと考えています。
4.研究プロジェクトについて
独法)環境再生保全機構 環境総合研究推進費(4-1602)による委託研究で行われました。
用語解説
*1 環境DNAメタバーコーディング :環境DNAを網羅的に増幅させるプライマーを用いたPCR法により、対象とする生物群(ここでは魚類)のDNAを増幅させる。その後、超並列シークエンサーを利用して、それらのDNAの塩基配列を解読し、データベースと照合することで、環境DNA中にどの魚のDNAが含まれているかを網羅的に明らかにすることができる。
研究者のコメント
全国的な湖沼の調査は、調査の停止などでその頻度が減少しているが、環境DNA手法を利用することで簡便にデータを取得できるようになり、継続調査も可能になると考えられます。その環境DNAからのデータを活かして、今後のネイチャーポジティブなど生物多様性を保全する社会実現のためのモニタリングが継続されればと考えています。
論文タイトルと著者
タイトル: Species traits and ecosystem characteristics affect species detection by eDNA metabarcoding in lake fish communities. 著 者: Hideyuki Doi, Shunsuke Matsuoka, Shin-ichiro S. Matsuzaki, Mariko Nagano, Hirotoshi Sato, Hiroki Yamanaka, Saeko Matsuhashi, Satoshi Yamamoto, Toshifumi Minamoto, Hitoshi Araki, Kousuke Ikeda, Atsuko Kato, Kouichi Kumei, Nobutaka Maki, Takashi Mitsuzuka, Teruhiko Takahara, Kimihito Toki, Natsuki Ueda, Takeshi Watanabe, Kanji Yamazoe, and Masaki Miya 掲 載 誌: Freshwater Biology D O I: https://doi.org/10.1111/fwb.14107(外部サイトに接続します)
研究に関するお問い合わせ先
土居 秀幸(どい ひでゆき)
京都大学大学院情報学研究科・教授
報道に関するお問い合わせ先
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