
—温室効果ガス削減を目指して—
大阪都市部のメタン排出を移動観測で詳細に調査
(大阪科学・大学記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、筑波学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)
ポイント
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自転車と自動車で大阪の都市部を走行しながらメタン濃度を測定したデータと、メタン排出量の長期観測データを使用することで、地図上にメタン排出地点の分布を描いた。
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メタンとエタンを同時に測定することにより、メタンの排出源の分類に成功。
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行政が集計しているメタン排出量データには、見逃された排出源があることを示唆。
概要
地球温暖化を防ぐために、温室効果ガスの一つであるメタンの排出量の削減は喫緊の課題です。都市部では、メタンを主成分とする都市ガスの漏洩や下水処理に伴うメタンの発生などが排出源と考えられていますが、どの場所からどのくらい発生しているかは、これまで日本では詳しく調べられていませんでした。
大阪公立大学大学院農学研究科の植山 雅仁准教授、国立環境研究所の梅澤 拓主任研究員、寺尾 有希夫主任研究員、米国Environmental Defense Fund(EDF)、英国Royal Holloway University of Londonの共同研究グループは、2023年9月~12月と2024年11月に、ガス測定器を積んだ自転車と自動車で大阪市と堺市の都市部を走行しながらメタン濃度を測定しました。そして、堺市に設置した定点観測装置で長期間測定したメタン排出量データも合わせ用いることで、地図上にメタン排出地点を描くことに成功しました。今回、メタン(CH4)とエタン(C2H6)を同時に測定することにより、都市ガスなどの化石燃料起源のメタンと、下水処理など微生物が関わる生物起源のメタンを分類して評価することができました。本研究結果により、行政が集計しているメタン排出量データには、これまで見逃されていたメタンの排出源が存在しているか過小評価されている可能性が示されました。今後、メタン削減に向けた具体的な対策が進むことが期待されます。
本研究成果は、2025年10月9日に国際学術誌『Atmospheric Chemistry & Physics』にオンライン掲載されました。

町中を自転車で走破することは予想以上に大変でしたが、観測を支えてくださった方々のお陰でメタン濃度分布地図が完成しました。見知ったはずの町に意外な景観が広がり、予想外の場所からメタンが排出されていることに気づくなど、新たな発見の連続でした。詳細な排出地点情報を活かし、大阪からメタン削減が進むことを願っています。

植山 雅仁准教授
研究の背景
温室効果ガスの一つであるメタンは、二酸化炭素(CO2)に比べて地球を温める力が25倍以上も強い気体です。メタンは大気中にとどまる期間がCO2よりも短いため、その排出量を減らすことは地球温暖化を防ぐ短期的で効率的な対策の一つと考えられています。このような背景から、日本を含む100を超える国や地域が2021年にグローバル・メタン・プレッジに署名し、2030年までに世界全体のメタン排出量を少なくとも30%削減するという目標を掲げています。
都市部では、都市ガス(化石燃料)の使用に伴うメタンの漏洩や下水などに含まれる微生物からのメタン生成があると考えられていますが、日本の都市のどの場所からどのくらい発生しているかは、これまで詳しく調べられていませんでした。欧州や北米などでは自動車や飛行機を使用したメタン排出量の調査が進んでいますが、日本ではあまり行われておらず、化石燃料や下水処理などのメタン排出起源を区別して調査した研究もほとんどありませんでした。行政によるメタン排出量データは、排出部門別の活動量データと各々の排出係数を用いて算定されます。しかし、「実際の排出量を正確に反映しているか」が行政単位で検証されているわけではなく、現地での大気の観測を用いて独立にメタン排出の実態を明らかにする必要があると考えました。
研究の内容
本研究グループは、ガス測定器を積んだ自転車と自動車で大阪市と堺市の都市部を中心に走行し、町の至る所でメタン濃度を測定しました。同時に、堺市役所高層館屋上の電波塔に設置した装置(図1)で、風で運ばれるメタンを長期間にわたって観測する渦相関法※と呼ばれる方法も用いて排出量を評価しました。これらのデータから、どの場所からどのくらいのメタンが発生しているのかを地図上に描き出すことができました(図2)。
都市ガスには、メタン(CH4)とエタン(C2H6)が決まった割合で含まれていますが、下水などに含まれる微生物がつくるメタンにはエタンが含まれていません。本研究では、メタンとエタンを同時に測ることで、都市ガスなどの「化石燃料起源」なのか、下水などの「生物起源」のメタンなのかを見分けることもできました。これにより、これまで見逃されていたメタンの排出源が多数あること、そしてそれらの多くが行政による排出量データに含まれていない可能性を突き止めました。


期待される効果・今後の展開
本研究により、都市部からのメタン排出の実態が自転車と自動車を利用した大気観測で初めて明らかになりました。これにより、これまで見過ごされていた排出源の削減に向けた具体的な対策が進むことが期待されます。本研究の移動観測は、都市のメタン排出を短時間・広範囲に把握するスナップショット的手法であるため、不確実性があります。今後は繰り返し測定や多都市展開を進め、評価手法を確立し、日本の大都市におけるメタン排出の理解を深めていきたいと考えています。本成果が日本の温暖化対策に大きく貢献することを願っています。
資金情報
本研究の一部は、Environmental Defense Fund、JSPS科研費(24K03065)からの支援を受けて実施しました。
用語解説
※ 渦相関法:タワー上で風向・風速と温室効果ガス濃度を高頻度で測定し、大気と地表面との間の実際のガス交換量(フラックス)を直接観測する手法。
掲載誌情報
【発表雑誌】Atmospheric Chemistry & Physics 【論 文 名】Evaluating urban methane emissions and their attributes in a megacity, Osaka, Japan, via mobile and eddy covariance measurements 【著 者】Masahito Ueyama, Taku Umezawa, Yukio Terao, Mark Lunt, James Lawrence France 【掲載URL】https://doi.org/10.5194/acp-25-12513-2025(外部サイトに接続します)
問い合わせ先
【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院農学研究科
准教授 植山 雅仁(うえやま まさひと)
TEL:072-254-9432
E-mail:mueyamaa(末尾に“@omu.ac.jp”をつけてください)
国立環境研究所 地球システム領域
物質循環観測研究室
主任研究員 梅澤 拓
【報道に関する問い合わせ先】
大阪公立大学 広報課
担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list(末尾に“@ml.omu.ac.jp”をつけてください)
国立環境研究所 企画部広報室
E-mail:kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)
一般財団法人EDFジャパン
代表:白川 浩道
TEL:03-6867-1695
フォーム:https://japan.edf.org/contact