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2011年7月21日

チャレンジ25ロゴ
西太平洋上における1994〜2010年の大気中メタン濃度の長期変動要因 ─民間定期船舶を利用した大気観測結果とその解析─

(筑波研究学園都市記者会 配付)

平成23年7月21日(木)
独立行政法人国立環境研究所 
地球環境研究センター (029-850-内線番号)
 炭素循環研究室研究員 寺尾有希夫(2904)
 副研究センター長・炭素循環研究室長 向井人史(2536)
 上級主席研究員 野尻幸宏(3941)
 大気・海洋モニタリング推進室長 町田敏暢(2525)
 主席研究員 遠嶋康徳(2485)
 物質循環モデリング・解析研究室准特別研究員 佐伯田鶴(3424)
 物質循環モデリング・解析研究室長 シャミル・マクシュートフ(2212)

 独立行政法人国立環境研究所地球環境研究センターでは、1994年から民間定期貨物船を利用した大気・海洋モニタリングを行っており、観測空白域である西太平洋において、温室効果ガス濃度分布を高頻度に観測しています。同センターの寺尾研究員らは、二酸化炭素に次ぐ温室効果ガスであるメタンについて、16年間のデータを用いて、主に1997〜1998年と2007年に観測された急激な大気中メタン濃度の増加について解析を行いました。その結果、熱帯西太平洋では、エルニーニョ現象やラニーニャ現象の発生時にメタン発生量が変動することに加え、この地域では大気循環の変動によってメタン濃度が大きく変動することを世界で初めて発見しました。

 本研究をまとめた論文は、7月20日に米国地球物理学連合誌「Journal of Geophysical Research」オンライン版に掲載されました。

ポイント
・ 日本─北米ならびに日本─オーストラリア・ニュージーランド間を航行する民間の定期貨物船を利用して、太平洋上の大気中温室効果ガス濃度を観測しています。
・ 当研究所による観測によると、メタン濃度は、1997〜98年に急激に増加した後、1999〜2006年の間ほぼ一定でしたが、2007年に再び増加しました(他機関による観測結果とも一致)。
・ 熱帯西太平洋で1997年に観測されたメタン濃度の増加は、同年に起こったインドネシアの森林火災に起因していると考えられます。
・ 熱帯西太平洋では、エルニーニョ現象やラニーニャ現象の発生時にメタン発生量が変動するのに加え、この地域では大気循環の変動によってメタン濃度が大きく変動することを世界で初めて明らかにしました。

1.背景

 人為起源のものとしては二酸化炭素に次ぐ温室効果ガスであるメタン(CH4)の大気中の濃度は、およそ200年前には700 ppb (ppbはparts per billion、10億分の1) 程度だったが、人為的な放出源の増加とともに上昇し、1999年には1773 ppbに達した(1) 。その後、メタン濃度は2006年までほぼ一定だったが、2007年に再び増加した(1、2) 。メタン濃度の長期変動と年々変動は、湿地などの自然放出源、化石燃料・家畜・水田などの人為放出源、そして大気中のOHラジカル(注1) との反応による消失源の変動によって決まる。しかし、これらの放出源と消失源の定量的な評価は現在も議論の最中であり、メタン濃度変動の解明とその将来予測のために、正確な観測データとモデル計算が求められている。

 本研究では、これまで観測空白域であった西太平洋上におけるメタン濃度の分布とその変動を報告する。主に1997〜1998年と2007年に観測されたメタン濃度の急激な増加について、観測データと大気輸送モデルのシミュレーション結果を元に解析を行った。

(注1) 水酸化ラジカル。活性酸素の一種で、強い酸化能力を持ち、対流圏化学において重要な役割を持つ。

2.定期貨物船を用いた大気観測

 現在、世界の100点以上の観測局において、大気中メタン濃度の観測が行われている(図1、青丸)。しかし、清浄大気の状態を知る上で重要な海洋上での観測体制は十分でない。国立環境研究所地球環境研究センターでは、民間船舶に洋上の観測局機能を持たせ、同一海域を高頻度に観測できるという特性を活かして、洋上の空白海域での温室効果ガスの観測を行っている。これまでに、日本郵船(株)、(株)商船三井、トヨフジ海運(株)、(株)フジトランスコーポレーション、Seaboard International Shipping Co. (カナダ) の各社の協力を得て、1994年から大きなデータの欠測もなく、定常的に大気と海洋の観測を行ってきた。文末に、協力を得た船舶名と観測期間を示す。

 具体的な観測方法としては、日本—オーストラリア・ニュージーランド航路と日本—北米航路 (図1、赤線)を航行する貨物船に、大気試料を自動で採取するシステムを設置し、図1赤丸で示した地点で大気試料を採取した。特に日本—オーストラリア・ニュージーランド航路では、北緯30度から南緯35度の間で緯度1〜3度毎に、年に約10航海分の大気試料を採取しており、世界的に見ても貴重なデータとなっている。

 採取した大気試料は当研究所に持ち帰り、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素といった温室効果ガス濃度を高精度で測定した。また、炭素循環の解明に重要なトレーサである、酸素/窒素比や炭素同位体などの分析も行っている。メタン濃度は、水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフ(GC-FID)(注2) を用いて、約2 ppbの精度で測定した。

(注2) 水素炎によって有機化合物を燃焼させ、生成イオンを電極で検出する装置

3. 結果

 観測されたメタン濃度の長期トレンドを議論するために、3年より短い周期の変動(例えば季節変動など)を除去したメタン濃度の時系列を図2(a)に示した。また、メタン濃度の1年あたりの変化率(ppb/年)の緯度—時間分布を図2(b) に示した。

 1997年から1998年にかけて、メタン濃度は北半球中緯度で10–16 ppb/年、南半球で12–22 ppb/年の大きな増加を示した。その後、メタン濃度は1999年から2006年にかけてほぼ一定であったが、2007年に再び増加した(北半球中緯度で 10–12 ppb/年、南半球で7–8 ppb/年)。これらのメタン濃度のトレンドと年々変動は、他機関の観測ネットワークによる観測結果(1、2)と一致しており、当研究所による西太平洋の観測は北半球中緯度と南半球の全球的な変動を捉えていると考えられる。2008年以降は、北半球熱帯で10–17 ppb/年の大きな増加が観測されたものの、他の多くの緯度では大きなメタン増加は観測されてない。

 2007年のメタン増加については、メタン消失源であるOH濃度が一定であったと仮定すると、南半球で20±3 Tg-CH4/年、北半球で24–27±3 Tg-CH4/ 年のメタン放出量の増加が必要であることが示唆された。一方で、メタン放出量が一定であったと仮定して、大気輸送モデルでシミュレーションを行った結果では、観測されたメタン濃度増加を再現するには、全球でOH濃度が4.5〜5.5%/年、減少する必要があることが示された。

 観測の結果から、熱帯西太平洋特有のメタン変動が発見された。1つは、1997年中頃に観測された15–19 ppb/年の大きなメタン増加である。これまで、同時期には大きなメタン増加は観測されていなかった。大気輸送モデルの計算結果(図3a)から、同年に発生した非常に強いエルニーニョ現象に伴う大気の西風偏差により、西太平洋上で東南アジアを起源とする空気塊中のメタン濃度を観測したことがわかった。 1997年には、インドネシアで大規模な森林火災が報告されており、これに伴うメタン増加を捉えたものと考えられる。もう一つは、2007年には全球的にメタン増加が観測されたにもかかわらず、熱帯西太平洋ではメタン濃度が減少したことである。このメタン減少も大気輸送モデルで再現され(図3b)、これは 2007年に発生したラニーニャ現象に伴う西太平洋での強い鉛直流によって、地表付近の高メタン濃度空気塊が上空に輸送されたことに起因することが示唆された。

 これらの結果から、熱帯西太平洋において、エルニーニョ・ラニーニャ現象に伴う大気循環変動に起因するメタン濃度変動が存在することが初めて明らかになった。

4.今後の展望

 今回示した観測データを世界中の研究者に公開する予定である。これまで観測空白域であった西太平洋におけるメタン濃度データを用いることで、全球メタン収支の推定の精度向上に役立つことが期待される。

<観測に協力頂いた船会社と船舶名(観測期間)>

日本郵船(株): 白馬丸(1991-1996)
Seaboard International Shipping Co. (カナダ): Skaugran号(1995-1999)、Skaubryn号(2005-2010)

(株)商船三井: さざんくろす丸(1996-2001)、ゴールデンワトル号(2001-2002)、Alligator Hope号(1999-2001)、MOL Glory号(2002-2003)

トヨフジ海運(株): Pyxis号(2001-継続中)、Transfuture 5号(2005-継続中)
(株)フジトランス コーポレーション: Fujitrans World号(2003-継続中)

発表論文

Terao, Y., H. Mukai, Y. Nojiri, T. Machida, Y. Tohjima, T. Saeki, and S. Maksyutov (2011),
Interannual variability and trends in atmospheric methane over the western Pacific from 1994 to 2010, J. Geophys. Res., 116, D14303, doi:10.1029/2010JD015467.

参考文献

(1) Dlugokencky, E. J., et al. (2009), Observational constraints on recent increases in the atmospheric CH4 burden, Geophys. Res. Lett., 36, L18803, doi:10.1029/ 2009GL039780.

(2) Rigby, M., et al. (2008), Renewed growth of atmospheric methane, Geophys. Res. Lett., 35, L22805, doi:10.1029/2008GL036037.

図1
図1 日本—オーストラリア・ニュージーランド航路 (Transfuture 5号)と日本—北米航路 (Skaubryn号と Pyxis号、以上赤線)、ならびに大気試料採取地点(赤丸)。青丸は、大気メタン濃度を測定している主な観測点(WMO温室効果ガス世界資料センターに報告されているデータから作製)。

(画像をクリックすると拡大表示されます。)
図2
図2 (a) 観測されたメタン濃度の緯度毎の長期変動成分(周期が3年以下の変動成分を除去)の時系列、ならびに (b) メタン濃度変化率(ppb/年)の緯度—時間分布。
図3
図3 大気輸送モデルで計算された (a) 1997年4月と (b) 2007年1月のメタン濃度変化率(ppb/年、カラーの等値線)。緑矢印は、水平風偏差(1995年から2010年の平均値からの差)。1997年にはエルニーニョ現象が、2007年にはラニーニャ現象が発生した。

問い合わせ先:
独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センター
  炭素循環研究室研究員 寺尾有希夫 (029-850-2904)
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