ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2026年1月15日

共同発表機関のロゴ
東京都市圏のメタン排出実態の把握に向けて —移動観測によってメタン排出源のマッピングが可能に—

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、大阪科学・大学記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会同時配付)

2026年1月15日(木)
国立研究開発法人国立環境研究所
大阪公立大学
Environmental Defense Fund

 国立環境研究所、大阪公立大学、米国Environmental Defense Fund、英国Royal Holloway University of Londonの研究チームは、強力な温室効果ガスであるメタンの濃度観測システムを自動車に搭載して東京都市圏を広く走行しました。この観測データから、東京都市圏におけるメタン排出地点を特定するとともに、発見されたメタン排出を都市部の主要な排出源である廃棄物起源と都市ガス起源に分類して評価しました。この結果、廃棄物施設は東京圏における重要なメタン排出源であることが示され、これは行政によるメタン排出量の算定報告と整合します。一方、住宅地において都市ガス起源の高濃度メタンが多数発見され、このようなメタン排出の総量は、廃棄物起源の排出量に匹敵し得ると考えられます。このような都市ガス起源の排出は、行政の排出量の算定報告では考慮されておらず、都市域におけるメタン放出が過小評価されている可能性があります。今後、観測手法や評価手法を改善することで、メタンの漏出地点の特定による排出削減支援や、行政によるメタン排出報告の検証、メタンの排出削減策の実効評価などへの貢献が期待されます。
 本研究の成果は、2025年12月9日付で欧州地球科学連合の発行する学術誌『Atmospheric Chemistry and Physics』に掲載されました。

1. 研究の背景と目的

メタンは重要な温室効果ガスであり、その大気中への人為的な排出は、エネルギー消費や食糧生産に関連しています。パリ協定やグローバル・メタン・プレッジ注釈1の取り組みに呼応したメタン排出量の削減とその評価が求められていますが、そのためには排出源の特定と正確な排出量推定が不可欠です。近年の研究により、世界の複数の都市で大きなメタン排出があることが明らかにされています。一般的には、エネルギー部門と廃棄物部門が都市における主要なメタン排出源ですが、その分布や強度の特徴は都市ごとに異なると考えられます。したがって、各都市において精度の高い排出源評価を行うことが、実効的なメタン排出削減において重要です。現在、東京は世界最大規模の人口を抱える巨大都市圏ですが、メタン排出の実態を詳細に調査する観測的研究は行われていませんでした。そこで、国立環境研究所、大阪公立大学、米国 Environmental Defense Fund(EDF)、英国 Royal Holloway University of London の研究チーム(以下「当研究チーム」という。)は、高精度・高速応答のメタン濃度測定システムを構築して自動車に搭載し、東京都市圏を広く走行しました。東京のメタン排出源の分布や強度を的確に把握することで、排出削減に向けた取り組みに繋がる情報提供を目的としました。

2. 研究手法

当研究チームは、メタン(CH4)とエタン(C2H6)を同時に測定可能なガス分析計を中心とした車載観測システムを構築しました。車両の前方下部から試料空気を吸引して常時1秒間隔でメタンとエタンの濃度を計測します。車両に搭載したGPSのデータから、観測された高濃度地点の場所が特定できます。この車載観測システムを搭載した自動車は、2023年の9月から10月にかけて、東京都市圏を広く計2000km以上走行し、これらの観測データの解析によりメタンの高濃度地点が特定されました。さらに、メタンの高濃度地点におけるエタン濃度の変動を合わせて解析し、メタンの高濃度が化石燃料起源か微生物起源かを分類しました。化石燃料の一つである都市ガス(天然ガス)は、メタンを主成分としますが、一定の割合でエタンを含むため、都市ガスの漏出はメタンとエタンの同時高濃度として検出されます。一方、廃棄物処理(埋立処分場、排水処理場、下水管など)に関連して排出されるメタンは微生物が生成するもので、通常はエタンの排出を伴いません(図1)。また、メタンは有機物の不完全燃焼でも発生しますが、そのような燃焼起源の排出は、上記の化石燃料起源と微生物起源に比べて非常に小さいことが本観測からわかりました。このように分類したメタン排出地点(高濃度地点)を都内の地域別に解析し、地域別の排出源の特徴を調べました。

図1 2023年10月2日の観測結果の例。主に都内の住宅地を走行した。左図では、車載観測で得られたメタン(CH4)濃度のデータ(上)について、排出源の影響を受けていない基準値(黒の点線)からの濃度増加量を計算し、ある閾値を超えた地点を高濃度地点として検出した(黒点のデータ)。合わせて、対応するエタン(C2H6)の濃度増加量(下)を計算した。メタンの高濃度地点については、右図のようにメタンとエタンの増加量の比に応じて、微生物起源・化石燃料起源・燃焼起源に分類した。

3. 研究結果と考察

本研究で得られたメタン濃度の分布とメタンの高濃度地点を図2に示しました。高濃度が検出された地点には色付きの丸を配置し、推定されたメタンの起源(青:微生物、赤:化石燃料、緑:燃焼)を示しています。今回の観測期間には、千葉県や神奈川県の東京湾岸も含めて、合わせて565の高濃度地点が検出されましたが、このマップ上でも明瞭にわかるように、その大部分に当たる469地点(83%)は東京都特別区内で見つかりました。高濃度地点の検出頻度も濃度増加量も都内で大きく、都市域のメタン排出が重要であることがわかります。東京都特別区内で見つかった高濃度地点は、57%が微生物起源、40%が化石燃料起源と、これら2つが主要なメタン排出源であることが特定されました。今回の観測では、特に千代田区、港区、江東区、渋谷区、豊島区で比較的高密度のデータが取得できましたが、港区や江東区において廃棄物処理施設周辺での微生物起源の高濃度が観測された一方、渋谷区(住宅地域)では観測された高濃度地点の70%が化石燃料起源と特定され、重要なメタン排出源が地域によって異なることも示されました。
本研究の観測データをもとに、地域別のメタン排出量を微生物起源と化石燃料起源に分けて試験的に推定しました。港区や江東区では微生物起源の排出が全排出量の85%以上を占める結果となり、このことは、東京都の温室効果ガス排出量の報告において、廃棄物部門のメタン排出がほぼ全て(96%)を占めるとする結果と整合しています。一方、渋谷区の推定排出量は上述2区に匹敵しますが、化石燃料起源のメタン排出が92%を占めると推定されました。このような化石燃料起源のメタン排出は、現在の排出量算定において考慮されておらず、都市域におけるメタンの排出量が全体として過小評価されている可能性があります。

図2 2023年9月から10月に実施した車載観測の走行経路(水色)。メタンの高濃度地点には、色付きの丸を配置し、推定された排出起源(青:微生物、赤:化石燃料、緑:燃焼)を示した。Maps Data: Google Earth, Image @ 2025 Airbus

4. 今後の展望

本研究で示したように、車載観測はメタンの排出地点を特定する非常に強力なツールとなりますが、この観測データに基づく広域の排出量推定にはまだ課題があります。今回の観測では、東京都市圏の広域を走行しましたが、その走行距離は東京都の全公道距離の10%程度です。すなわち、今回の観測では、都市部に分布するメタン排出源を十分に捕捉できていない可能性があり、観測データに基づく排出量推定に大きな不確かさが伴います。車載観測を増やすことでデータカバー域を広げるとともに、都内における多様な観測を拡充して、メタン排出源の分布・起源・強度について、より正確な情報を整備していく必要があります。日本国内の他都市についても情報が求められ、これまで大阪においても本研究と同様の車載観測が実施されています注釈2。本研究の車載観測の手法は、地点特定による排出量削減支援に役立つと考えられますが、今後、十分なデータ取得や解析手法の改善により排出量推定の高精度化を目指すことで、行政による排出削減策の実効評価支援などにも繋がることが期待されます。

5. 注釈

注釈1:グローバル・メタン・プレッジ
2021年11月のCOP26国連気候変動枠組み条約締約国会議で正式に発足した国際的な取り組みで、2030年までに2020年比で人為起源のメタン排出量を30%以上削減することを目指している。
注釈2:—温室効果ガス削減を目指して—大阪都市部のメタン排出を移動観測で詳細に調査
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2025/20251015/20251015.html

6. 研究助成

本研究はEnvironmental Defense Fundからの支援および国立環境研究所の気候変動・大気質研究プログラムにより実施しました。

7. 発表論文

【タイトル】
Measurement report: Mobile measurements to estimate urban methane emissions in Tokyo
【著者】
Taku Umezawa, Yukio Terao, Masahito Ueyama, Satoshi Kameyama, Mark Lunt, and James Lawrence France
【掲載誌】
Atmospheric Chemistry and Physics
【URL】https://acp.copernicus.org/articles/25/18015/2025/(外部サイトに接続します)
【DOI】https://doi.org/10.5194/acp-25-18015-2025(外部サイトに接続します)

8. 発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。
国立環境研究所
地球システム領域物質循環観測研究室
 主任研究員 梅澤拓1)
 主任研究員 寺尾有希夫
生物多様性領域生態系機能評価研究室
 主任研究員 亀山哲

大阪公立大学大学院農学研究科
 准教授 植山 雅仁

Environmental Defense Fund
Asia-Pacific Methane Scientist
Mark Lunt

Department of Earth Sciences, Royal Holloway University of London
Senior Research Fellow
Environmental Defense Fund
Senior International Methane Scientist
James Lawrence France

1) 現 東北大学大学院理学系研究科 大気海洋変動観測研究センター 教授(クロスアポイントメント)

9. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 地球システム領域
物質循環観測研究室 主任研究員 梅澤拓

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

大阪公立大学 広報課
koho-list(末尾に”@ml.omu.ac.jp”をつけてください)

Environmental Defense Fund
Communications Manager, APAC, Energy Transition, Tori Cui
tcui(末尾に”@edf.org”をつけてください)

関連新着情報

関連研究者