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2021年9月7日

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その靴、掃除しました?高山域への外来植物の持ち込みの
抑止は訪問者の無知識・無関心ではなく無行動が障壁に

(文部科学記者会、科学記者会、府中市政記者クラブ、富山県政記者クラブ、筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

                2021年9月7日(火)
            国立大学法人 東京農工大学
         国立研究開発法人 国立環境研究所
国立研究開発法人 森林研究・整備機構森林総合研究所
 

   国立大学法人東京農工大学大学院農学府自然環境保全学専攻 西澤文華氏(2020年3月修士課程修了)、同大学院農学研究院自然環境部門 赤坂宗光准教授、国立研究開発法人国立環境研究所 久保雄広主任研究員、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 小山明日香主任研究員の研究グループは、中部山岳国立公園・立山駅構内での訪問者を対象とした調査から、高山帯・亜高山帯への訪問者の約7.8%の靴に外来植物のタネが付着していたこと、外来植物の持ち込みを抑止するうえでの障壁は、持ち込まれた外来植物が引き起こし得る問題などに対する訪問者の知識や問題意識の欠如ではなく、問題意識が入山前の靴の清掃という実際の対策行動に繋がっていないことにあることを明らかにしました。この成果により、今後、高山帯・亜高山帯への外来植物の持ち込みを抑止する対策が進むことが期待されます。
 

本研究成果は、Journal of Environmental Management(Volume 298, 11月15日付)の掲載に先立ち、8月24日にオンライン公開されました。
論文タイトル:Disconnection between conservation awareness and outcome: Identifying a bottleneck on non-native species introduction via footwear
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0301479721015012【外部サイトに接続します】

研究背景(現状)

 外来植物は、生態系や、経済活動、我々の健康に深刻な問題を引き起こしています。この問題の究極的な対策は、外来植物の持ち込みを防止することです。外来植物の持ち込みは、多くの場合、歩行者の立ち入りを禁止することで防止できます。歩行者は、衣類や靴にタネが付着した状態で移動することで意図せずに外来植物を持ち込んでしまうことがあり、この意図しない持ち込みが外来植物の自然地域への主な経路の一つとなっています。また、歩行者は車両よりも自然地域の奥深くに入り込むこともできます。これらの観点からは、国立公園などの生物多様性・生態系が豊かな地域では歩行者の立ち入りを制限することが望まれますが、そのような場所は登山やハイキングを含む質の高い自然体験の場でもあります。つまり、自然体験の場でもある国立公園などの地域では、歩行者の立ち入りを完全に制限できないため、利用者を受け入れつつ、外来生物の侵入を防ぐ対策が必要になります。しかし、訪問者が意図せずに持ち込んでしまうのタネの量や、タネを持ち込んでいる訪問者の外来植物についての知識や問題意識の程度、有効な持ち込み防止対策として期待される訪問前の靴の清掃をしている訪問者の割合、そしてこれらの関係についての定量的な知見は殆どありませんでした。

研究方法

 著者らは、この知見の欠如を補うべく、高山帯・亜高山帯の入り口となる中部山岳国立公園・立山駅構内で訪問者に協力いただき、各訪問者の靴に付着する土(タネが含まれる可能性がある)を採集し、併せて各個人の外来生物の問題に対する知識や問題意識の程度、および知識を形成した情報源をアンケート調査しました。また採取した土サンプルを、温室で撒きだし、発芽させることで含まれている生きたタネの量を見積もりました。

研究体制

 本研究は東京農工大学大学院農学府自然環境保全学専攻の西澤文華氏(2020年3月修了課程修了)と、同大学院農学研究院自然環境保全学部門の赤坂宗光准教授、国立研究開発法人国立環境研究所の久保雄広主任研究員、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の小山明日香主任研究員による共同研究として、サンプル提供・アンケート回答くださった皆様と立山黒部貫光株式会社、富山県 立山カルデラ砂防博物館 白石俊明氏などのご協力のもと行われました。本研究の一部はJSPS科研費 16K21027, 19H04317の助成を受けました。

研究成果

 収集したうち有効な344人の訪問者の土サンプルのうち27サンプル(7.8%)に発芽可能なタネが含まれていました。発芽した44個体のうち、種同定できた6種は全て立山には本来生育していない植物でした。つまり、少なくとも7.8%の訪問者の靴に発芽可能な外来植物のタネが付着していたことになります。また、アンケート回答者のうち、81.4%がヒトによる外来植物のタネの移動が起きることを知っていると回答し、93.3%が外来生物の侵入がもたらす影響について「よく知っている」あるいは「やや知っている」と回答していました。同様に、外来生物の侵入がもたらす影響が「とても問題である」あるいは「やや問題である」と答えた割合は93.3%でした。一方、実際に環境を守る目的で前回靴を使用してから今回の訪問までに靴を清掃したと回答した割合は3.8%でした(注1)。これらの結果を統計分析すると、外来生物に関わる知識を持つ訪問者ほど、外来生物が引き起こす問題に問題意識を持つ傾向が確認されたものの、高い問題意識は必ずしも対策行動(環境を守るために訪問前に靴を清掃すること)を促進するものでないことが分かりました(図1)。また、訪問前に靴を清掃したヒトから採取した土サンプルから発芽した数は、靴を清掃しなかったヒトのそれの約半分(52.8% 注2)でした。以上から、外来植物がもたらす被害についての問題意識を持っていても、実際にその抑止に繋がる行動(靴の訪問前の清掃)をとっていないことが、外来植物の持ち込みを抑止するうえでの障壁となっていることがわかりました。外来植物の侵入がもたらす影響についての知識を、多くの回答者がテレビを通じて得ていたことから、テレビを介した情報提供だけでは、この問題意識と実際の行動のズレを解消することが難しいと考えられました。加えて、登山靴・トレッキングシューズを履いていた訪問者の土サンプルからは、それ以外の靴(スニーカー等)を履いていたヒトの土サンプルよりも発芽数が多く(図2)、統計学的な補正を行うと2.3倍になると推定されました。複雑な形状の底面(ソール)の靴を履いて自然地域を訪れる時は特に、丁寧に靴を清掃することが望まれます。

今後の展開

 タネが付着しているヒトの割合は7.8%と必ずしも多くないように見えますが、立山の場合、年間約930,000人(2017年実績)が訪問しており、決して少なくない数のタネが高山帯・亜高山帯に持ちこまれていることが推測されます。立山に限らず、国立公園を始めとした人気のある山岳地域は多くの訪問者を迎えています。他の地域での実態の調査と併せて、問題意識—実際の行動のギャップの存在を踏まえた、効果的な抑止策を検討し実施することで、 (亜)高山域への外来植物の持ち込みの抑止が効果的に進むことが期待されます。


注1 環境を守る目的以外(靴を長持ちさせたいからなど)も含めて靴を清掃したヒトの割合は43.9%
注2 その他の要因の効果を統計的に補正した場合の違い

研究の全体概要を表した図

図1: 全体概要

一人当たりの発芽数の条件による違いを表した図

図2: 一人当たりの発芽数の条件による違い

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院農学研究院
 自然環境保全学部門 准教授
  赤坂 宗光(あかさか むねみつ)
  TEL:042-367-5829
  E-mail:muuak(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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