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2022年12月14日

共同発表機関のロゴマーク
お米に生物多様性の価値を!ラベル認証で保全を促進
認証と保全象徴種の明示で生物多様性保全米の差別化の可能性

(文部科学記者会、科学記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、宮城県政記者会、東北電力記者会、北海道教育庁記者クラブ、筑波研究学園都市記者会同時配付)

2022年12月14日(水)
国立大学法人東北大学
国立研究開発法人国立環境研究所
国立大学法人北海道大学
国立大学法人筑波大学
 

発表のポイント

●全国の消費者を対象にWebアンケート調査を行い、生物多様性に配慮して生産された米の認証ラベルに対する評価を貨幣価値単位で推計 ●消費者(無作為抽出された回答者)はいくつかの認証ラベルを高く評価 ●消費者の認証ラベルに対する評価は、認証方法と保全象徴種、またその組み合わせによって異なることを確認 ●消費者の評価に基づいて適切に認証ラベルをデザインすることで生物多様性保全米を差異化、高付加価値化できる可能性を示唆 ●生物多様性保全と食料安全保障との両立に向けて、本研究は農地の生物多様性の価値を顕在化し、保全を促進するマーケティング手法の構築に有益な知見を提供

概要

持続的な食糧生産と生物多様性保全の両立に向けて、生物多様性の価値を農産物に付加することで、生物多様性に配慮した農業生産を後押しすることが求められています。東北大学大学院農学研究科(豆野皓太 助教)、国立環境研究所、筑波大学、北海道大学の研究グループでは、生物多様性に配慮して生産された米(保全米)の認証ラベルに対する消費者の評価を支払意志額に基づいて推計しました。その結果、ラベルに表示される種を魚類にするか鳥類とするか、生物多様性への配慮をどのように認証するかにより、保全米の付加価値に違いが出ることがわかりました(図1)。このような結果は、認証ラベルに対する消費者の評価に基づいた適切な認証ラベルを用いることで、生物多様性の価値を顕在化し、保全米を高付加価値化できる可能性を示唆しています。 本成果は2022年11月27日付で Ecological Economics 誌に掲載されました。

認証方法と保全象徴種による認証ラベルが産み出す付加価値の違いの図
図1:認証方法と保全象徴種による認証ラベルが産み出す付加価値の違い
簡単化のため、$1=100円で計算しています
  農法認証:農法による認証方法です。   成果認証:保全対象となる生きもの(魚類や鳥類、耕作水田に暮らす様々な生きもの)の保全状況による認証方法です。

背景・目的

 地域の中で育まれてきた様々な生きものたちやその繋がり(生物多様性)に配慮した農業は、持続可能な農業生産の実現できる有効な方法であると認められています。そのため、近年生物多様性に配慮した農業生産の更なる発展が期待されています。しかしながら、生物多様性は市場で取引される価格が存在しないため、農業従事者や消費者の意思決定に十分に反映されず、生物多様性に配慮した農業生産の促進に影を落としてきました。このような状況を踏まえ、農地における生物多様性の価値を顕在化し、生物多様性に配慮して生産された農産物の消費を促すために、生物多様性に関連した農産物ラベル(以下、認証ラベル)が利用されてきました。一方で、どのような認証ラベルが農産物市場において十分に機能するのか、つまり生物多様性に配慮して生産された農産物を高付加価値化し消費を促しうるのか、についてはこれまでほとんど分かっていませんでした。特に、認証ラベルでは、野生生物をラベルのロゴとして表示することが多々ある(例えば、レインフォレスト・アライアンスの場合のカエル)ものの、このような認証ラベルに表示される野生生物(保全象徴種)による付加価値への影響はわかっていませんでした。また、認証ラベルには、どのような方法で生物多様性への配慮を認証しているのかによっていくつかの種類があるとされていますが、このような認証方法の違いが消費者の認証ラベルに対する評価に及ぼす影響はわかっていませんでした。
そこで本研究では、生物多様性に配慮して生産された米(保全米)に着目し、認証ラベルを通じて顕在化される生物多様性の価値を貨幣価値単位で推計するとともに、認証方法の違いが付加価値に与える影響を調べました。なお、貨幣価値単位の推計は、各認証ラベルに対して消費者が最大限支払っても良いと考える金額に基づいて行いました。

本研究では、具体的な研究目的として、以下の4つの問いを設定しました。  1.認証ラベルに表示される野生生物である保全象徴種が、鳥類(鳥類ラベル)、魚類(魚類ラベル)、または特定の種を設定しない生きもの全体の場合(全体ラベル)、それぞれの認証ラベルに対して消費者が余計に多く支払っても良いと考える金額(支払意志額)は異なるのか?  2.生物多様性への配慮に関する認証方法が、農法の変化などアクションに基づいた認証方法(以下、農法認証)か、生きもの保全状況など保全成果に基づいた認証方法(以下、成果認証)かによって、認証ラベルに対する消費者の支払意志額は異なるのか?  3.売上の一部を生きものの保全活動に募金する仕組み(以下、募金制度)を認証ラベルに導入することが、高付加価値化に寄与するのか?  4.保全象徴種によって、認証方法や募金制度への消費者の好みは変わりうるのか?

手法・結果

本研究では、環境評価手法の1つである選択型実験を用いたWebアンケート調査を全国の消費者を対象として実施しました。選択型実験とは、回答者に複数の属性(構成要素)からなる選択肢を提示し、そこから回答者が望ましいと考えるものを選んでもらうことによって、属性に対する人々の好みを把握することができる手法です。つまり、回答者には、米に関するこれまでに得られた知見を基に作成された4つの属性(保全対象種、認証方法、売上の一部を保全活動に募金する制度の有無、米の金額)から成る仮想的な認証ラベル付きの米を複数提示し、その中から望ましい米を選択してもらいました(図2)。得られた回答を統計分析することで、消費者の保全米の認証ラベルに対する潜在的な需要を定量的に推計しました。なお本研究では、認証がなく特定の種を設定しない生きもの全体が保全象徴種であると表示する、つまり認証なしの全体ラベルに対する支払意志額を基準(0円)とした上で、各認証ラベルに対する支払意志額、つまり付加価値を計算しています。そのため、認証ラベルによっては負値の支払意志額となりますが、これは認証がない全体ラベルに比べてどのくらい低い支払意志額であったかを表しています。
本研究の調査対象者は調査会社に登録する日本全国モニターから日本の人口構成(性別、年代)を反映するように20代から60代を抽出して参加を呼びかけ1114人から有効回答を得ました。分析には得られた回答の中から回答時間が極端に短い80人を除いた1034人の回答を使用しました。回答者に関して、過去に保全米を購入したことがあると答えた人数は回答者の約5.5%である57人で、85%以上の回答者は保全米の購入経験はありませんでした。

選択型実験の例の図
図2. 選択型実験の例

結果として、認証ラベルに対する消費者の評価は保全象徴種によって大きく異なることがわかりました。また、認証ラベルに対する消費者の支払意志額は、平均的に農法認証で約360円、成果認証で約385円であり、認証方法による消費者の支払意志額には大きな違いはない結果となりました。また、募金制度が認証ラベルに組み込まれている米には、組み込まれていない米に比べて約640円多く支払っても良いと消費者が考えていることもわかりました。
さらに、保全象徴種によって認証方法に対する消費者の好みは異なることがわかりました。具体的には、魚類ラベルでは成果認証と組み合わせた場合に、認証ラベルに対する消費者の支払意志額がより高くなる一方で、鳥類ラベルでは成果認証よりも農法認証と組み合わせた認証ラベルの方が、消費者からの評価が高い結果となりました(表1)。また、募金制度に対する評価に関しては、保全象徴種によって統計的に有意な差異は見られませんでした。

表1.各認証ラベルに対する支払意志額(平均値)
平均支払意思額(円)
認証方法 保全象徴種
全体ラベル 魚類ラベル 鳥類ラベル
農法認証 360円 -64.5円 865円
成果認証 385円 398円 595円
認証なし+募金制度 639円 -218円 323円
認証なし 0(基準値) -838円 -98.8円
負値は、認証がない全体ラベルに対する支払意志額と比較して、消費者の支払意志額がどれだけ低いかを表しています。たとえば、「認証がない全体ラベルが付いている生物多様性に配慮して生産された米(保全米)を3000円で購入しても良いと考える消費者は、農法認証の魚類ラベルが付いている保全米の場合には、64.5円安い2935円で購入しても良いと考える」ということを表しています。

本研究の結果は、消費者の好みに基づいて認証ラベルをデザインすることの重要性を示しています。たとえば、魚類を保全象徴種とした認証ラベルにおいて農法認証を適用すると成果認証を適用した時と比べて付加価値は約460円低くなってしまいます。一方、鳥類を保全象徴種とした認証ラベルにおいて農法認証を適用すると成果認証を適用した時と比べて付加価値を約270円高くすることができます。したがって、保全米により高い付加価値を付与するためには、保全象徴種、つまり認証ラベルに表示される野生生物の種類ごとに異なる認証方法に対する消費者の好みを把握し、適切な認証ラベルをデザインする必要があります。
また、本研究は、日本の農地における生物多様性保全の促進に向けた認証ラベルの新たな可能性も示しています。日本の認証ラベルは、トキやコウノトリなどの特定の希少種を使ったラベルが主流です。しかし、本研究では、消費者は特定の保全象徴種を含まない認証ラベルを好む傾向が強いことがわかりました。したがって、特定の保全象徴種が存在しないような地域においても農地の生物多様性の価値は高く、認証ラベルを用いることで生物多様性に配慮した農産物に高い付加価値を付与できる可能性が示唆されます。
本研究の成果が、農地の生物多様性の価値を見える化し、生物多様性に配慮して生産された農産物の差異化・高付加価値化を後押しすることで生物多様性保全を促進するマーケティング手法の構築の一助となれば幸いです。

今後の展望

本研究では、Webアンケート調査を用いて人々の認識に基づいた保全米の認証ラベルに対する評価を行いました。しかし近年の研究において、人々の認識と実際の行動には少なからず乖離があることが明らかになっています。今後の研究では、実際の購買行動に基づいた保全米の認証ラベルの評価を検討していく必要があると考えています。

研究助成

本研究は、JSPS KAKENHI Grant Numbers JP19H03095, JP22K18063, 日本学術振興会(海外特別研究員制度)の支援を受けて実施されました。

用語解説

支払意志額:モノやサービスに対して消費者が支払ってもよいと考える金額。本研究の場合は、それぞれの認証ラベルの付いたお米に対して消費者が余計に多く支払っても良いと考える金額を指します。

論文情報

掲載誌:Ecological Economics
論文タイトル:Flagship species and certification types affect consumer preferences for wildlife-friendly rice labels 著者:Kota MAMENO (東北大学, 責任著者),
Takahiro KUBO (国立環境研究所/ オックスフォード大学),
Kiyokazu UJIIE (筑波大学),
Yasushi SHOJI (北海道大学)
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0921800922003524
DOI:10.1016/j.ecolecon.2022.107691

問い合わせ先

<研究について>
東北大学大学院農学研究科環境経済学分野 助教
 豆野皓太 

国立研究開発法人国立環境研究所
生物多様性領域 生物多様性保全計画研究室 主任研究員
 久保 雄広 

北海道大学大学院農学研究院 森林科学分野 准教授
 庄子 康 

筑波大学大学院生命環境系 准教授
 氏家清和 

<報道担当>
東北大学大学院農学研究科総務係
E-mail: agr-syom(末尾に@grp.tohoku.ac.jpをつけてください)

国立研究開発法人国立環境研究所 企画部 広報室
Email: kouhou(末尾に0@nies.go.jpをつけてください)

北海道大学社会共創部広報課広報・渉外担当
E-mail: jp-press(末尾に@general.hokudai.ac.jpをつけてください)

筑波大学広報局
E-mail: kohositu(末尾に@un.tsukuba.ac.jpをつけてください)

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