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2021年12月28日

草原の恵みおよび伝統的な放牧による
持続的な利用

コラム1

 乾燥または半乾燥の気候によって形成された草原は、決して生産力が高いとは言えず、かつ冬の凍害(モンゴル語:ゾド)や夏の干害(モンゴル語:ガン)といった自然災害の影響を受けやすい地域です。このように非常に不安定な草原地域に、地球の約1/3の人々が居住し、草原の恵み(写真1)を支えに暮らしています。そのため、草原の保全と持続的利用は、地球環境・食糧問題への対処という観点からも極めて重要な課題です。

草原の恵み:生態系サービスの提供の写真
写真1 草原の恵み:生態系サービスの提供 遊牧民は家畜の群れを連れて共に生活し、家畜の乳からミルク、チーズなど多様な乳製品や肉を得ている。

 草原で暮らしている人々が、様々なリスクをなるべく低減させ、厳しい環境に適応するため、千年以上にわたり営々と継承してきた放牧の方法に遊牧があります。遊牧とは、自然の草と水を求めて家畜の群れを連れて各地に移動しながら放牧する方法です。紀元前9~10世紀にユーラシア大陸およびアフリカの草原地帯で生まれ進化してきたもので、自然資源の有効利用と管理形態の知恵の結晶と言われています。

 遊牧は、無計画かつ不規則な方法ではなく、独自の畜産技術や移動方法、相互扶助システム等に基づいて合理的に行われています。このような形態を遊牧民は「適地適種」の考え方に基づき、各地域の環境に適した複数の家畜種を組み合わせて飼育してきました。例えば、羊とヤギは摂取できる植物種が多いため、広範囲で飼育されていますが、牛は湿潤な土壌に生える背丈の長い草を好むため、河川、渓流の近くで飼育されています。一方で、ラクダは塩性植物を好むため、乾燥草原で飼育されています。

 また、遊牧民は、移動式住居である「ゲル」を生活拠点として周囲の草原で放牧を行い、季節や年度ごとに住居を移動することによって、草原を効率的・合理的に利用してきました。伝統的な遊牧は、基本的には家族単位で経営されていますが、厳しい自然条件に対処しつつ効率的・合理的な遊牧を行うために、「ホト・アイル」(宿営地集団)という相互扶助の慣習があります。その形態や規模は、共同作業の内容によって異なりますが、小さいものでは数世帯から、大きいものでは十数世帯の親類や仲間によって構成される場合もあります。

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