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2023年6月22日

国環研ロゴ
細胞のタイムカプセルで絶滅危惧種の多様性を未来に残す
—国⽴環境研究所、絶滅危惧種細胞保存事業を拡⼤
沖縄の次は北海道へ

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、沖縄県政記者クラブ、北海道庁道政記者クラブ、釧路総合振興局記者クラブ同時配付)

2023年6月22日(木)
国⽴研究開発法⼈国⽴環境研究所
 

 国⽴環境研究所(以下「国環研」という。)では、茨城県つくば市の本構において2002年から絶滅危惧種の細胞などを凍結保存する「タイムカプセル化事業」を環境省レッドリストに掲載されている野⽣動物の保全活動の⼀環として⾏っており、現在までに、127種について細胞などを凍結保存しています。この中には、⽇本産トキやオガサワラシジミといった絶滅危惧種も含まれています。
 これまでに、これらの凍結保存した培養細胞を利⽤して、絶滅危惧種であるヤンバルクイナに対する⾼病原性⿃インフルエンザウイルスの病原性評価を⾏うなど、絶滅危惧種の⽣体感染実験に代わる新たな評価⽅法を開発してきました。また、凍結保存していた絶滅危惧種を含む猛禽類の組織を利⽤することで、猛禽類の鉛汚染の状況を明らかにし、全国における鉛銃弾を規制する⽅針の決定につなげることもできました(「参考情報」参照)。さらに、絶滅危惧種の卵⼦や精⼦といった⽣殖細胞の凍結保存にも取り組んでいます。
 このたび、国環研は⼀般財団法⼈沖縄美ら島財団と共同で、沖縄をはじめとした南⻄諸島に⽣息する絶滅危惧種の培養細胞や⽣殖細胞等を保存する超低温凍結保存設備の運⽤を、2023年6⽉下旬から開始します。絶滅危惧種のヤンバルクイナをはじめ、イリオモテヤマネコやノグチゲラなどの培養細胞や⽣殖細胞等を凍結保存することで、遺伝的な多様性を未来に残していきます。
 さらに、国環研は、この取り組みを広げるべく、新たに北海道に超低温凍結保存設備を設置するため、⽬標⾦額700万円を⽬指し、6⽉22⽇(⽊)11時からクラウドファンディングプロジェクトを開始いたします。みなさまからのご⽀援は、北海道⼤学⼤学院獣医学研究院野⽣動物学教室、毒性学教室、繁殖学教室と共同で、北海道に⽣息するオジロワシなどの⼤型猛禽類をはじめとした絶滅危惧種の細胞保存、繁殖⽀援に役⽴てます。
 細胞凍結保存の取り組みでは、2011年3⽉に発⽣した東⽇本⼤震災によって、茨城県つくば市の国環研構内においてタイムカプセル化事業を⾏う実験棟が被災し、温度管理システムが停⽌、凍結した細胞が危機的な状況に陥ったという経緯があります。保存設備の分散化は、我々にとって⻑年の課題となっていました。
 国環研は、これまでのタイムカプセル化事業を通じて全国各地の絶滅危惧種の細胞などを凍結保存してきました。今回、北海道に設備を設置することで、さらに体制を充実させ、国内外の⽣物多様性の保全に貢献したいと考えています。みなさまの温かいご⽀援を、どうぞよろしくお願い申し上げます。

クラウドファンディングの概要

タイトル 絶滅危惧種の多様性を未来に残すため、細胞保存のタイムカプセルを!
期間 2023年6⽉22⽇(⽊)11時〜8⽉20⽇(⽇)23時 59⽇間
URL https://readyfor.jp/projects/nies(外部サイトへ接続します)
⽬標⾦額 700万円
形式 寄付⾦控除型 / *All or Nothing 形式
資⾦⽤途 北海道への細胞⻑期保存⽤機器の購⼊と設置、細胞⻑期保存⽤機器の電源・
液体窒素費⽤(5年分)、タイムカプセル化事業の広報・普及活動
*All or Nothing 形式とは、期間内に集まった⽀援総額が⽬標⾦額に到達した場合にのみ、実⾏者が⽀援⾦を受け取れる仕組みです。
 

20230622-figure01-2の図
20230622-picture02の写真
沖縄の設備には絶滅危惧種ヤンバルクイナ(左)や絶滅危惧種ノグチゲラ(右)の細胞などが凍結保存される。
20230622-picture03.pngの写真
クラウドファンディング成功の際には、北海道で細胞などが保存される予定の絶滅危惧種オオワシ(左)、絶滅危惧種シマフクロウ(右)

参考情報

タイムカプセル化事業での絶滅危惧試料 収集の流れ

 タイムカプセル化事業で保存される細胞の多くは、交通事故や⼈⼯物への衝突事故など⼈為的な要因によって死亡してしまった動物たちから採取されたものです。毎⽇のように回収される死亡個体は、各地の環境省地⽅事務所、動物園、保全活動を⾏う団体等を通して国環研に届きます。

20230622-figure02の図

 受け⼊れ後に、検疫による病原体の確認を⾏った後、⽪膚や筋⾁から培養した細胞、⽣殖細胞、臓器などをチューブに詰めてマイナス160℃の液体窒素タンクの中で凍結保存しています。
 2023年現在までに、環境省レッドリストに掲載されている野⽣動物127種約5000個体を対象に細胞などを凍結保存しました。この中には、⽇本産トキ、オガサワラシジミ、ヤンバルクイナ、ツシマヤマネコなどの細胞も含まれており、その数は⽇々増え続けています。

タイムカプセル化事業の実績紹介1
絶滅危惧種の細胞を使った⿃インフルエンザ対策

 ⾼病原性⿃インフルエンザウイルスは、野⿃の⼤量死の原因となることがあり、絶滅危惧種の個体数減少を引き起こす可能性があるウイルスとして注⽬されています。⼀⽅で、その病原性には⿃類種差があることが知られています。
 しかしながら、絶滅危惧種の⽣体でその病原性を評価することはできません。そこで、国環研では絶滅危惧種の培養細胞を利⽤して、このウイルスの病原性評価を試みました。その結果、このウイルスは猛禽類やヤンバルクイナに対して⾼病原性を⽰す可能性が⽰されました(環境研究総合推進費JPMEERF18S20120)。
 その結果を受けて、ヤンバルクイナの飼育施設では、2022年8⽉から感染症対策が強化されました。

20230622-figure03-2の図

環境研究総合推進費SⅡ-1-1 希少⿃類の保全のための総合的リスク評価法の開発と社会実装(JPMEERF18S20110) 平成30年度〜令和3年度
https://www.erca.go.jp/suishinhi/seika/db/pdf/end_houkoku/S2-1-1.pdf(外部サイトへ接続します)

タイムカプセル化事業の実績紹介2
⼤型猛禽類等の鉛汚染

 鉛は様々な毒性を⽰す重⾦属です。野⿃における鉛が原因の中毒は、世界各国で発⽣しています。北海道においてオジロワシ、オオワシの鉛による中毒死が報告されており、鉛銃弾の使⽤規制が北海道では導⼊されました。しかし、本州以南における野⿃の、特に猛禽類の鉛汚染の状況は不明でした。
 そこで、タイムカプセル化事業で凍結保存していた猛禽類の臓器と他機関で保存されていた猛禽類の臓器を分析したところ、本州以南に分布する猛禽類においても鉛汚染が発⽣していることが判明しました。この成果は、本州以南において鉛銃弾の使⽤を段階的に規制する⽅針を環境省が表明する際の根拠となっています。環境省は2025年から鉛銃弾の使⽤を段階的に規制し、2030年までに野⽣⿃類の鉛中毒をゼロにすることを⽬指しています。

20230622_figure04の図
⾚の点は鉛濃度の基準値を超えたものを⽰す。

環境研究総合推進費SⅡ-1-3 希少⿃類に免疫抑制を引き起こす鉛汚染の実態把握及び⿃インフルエンザ発⽣との関連性解明 (JPMEERF18S20130) 平成30年度〜令和3年度
希少⿃類に免疫抑制を引き起こす鉛汚染の実態把握及び⿃インフルエンザ発⽣との関連性解明
https://www.erca.go.jp/suishinhi/seika/db/pdf/interim_result/S2-1-3.pdf (外部サイトへ接続します)

問合せ先

【クラウドファンディングに関する問合せ】
 国⽴研究開発法⼈国⽴環境研究所 連携推進部
 研究連携・⽀援室 ⼭⼝晴代
 renkei-support (末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

【報道に関する問合せ】
 国⽴研究開発法⼈国⽴環境研究所 企画部広報室
 kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

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