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2020年1月10日

限られた生物分布データから、よりよい保護区を選定-環境情報を利用したデータ処理が有益となる条件を明らかに-

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

令和2年1月10日(金)
国立研究開発法人 国立環境研究所
生物・生態系環境研究センター
 主任研究員     石濱 史子
 主任研究員     角谷 拓
 元上級主席研究員  竹中 明夫
環境リスク・健康研究センター
 主任研究員     横溝 裕行
 

   国立環境研究所の石濱史子主任研究員らの研究グループは、保護区を選ぶ場合において、限られた生物の分布データを効果的に活用する方法を分析しました。
   環境情報を利用した分布データの補完・補正処理(分布推定モデル※1)は、これまで十分な検討がされないまま、よりよい保護区の選定に有益として用いられてきました。しかし今回、「データの偏りが大きい」、「保護区が広くない」などの条件を満たす場合にのみ、本データ処理が有益であることを初めて明らかにしました。この研究結果により、利用が拡大しつつある分布推定モデルの適正な活用につながると期待されます。
   本成果は、令和1年12月20日付で学術誌「PLOS ONE」に掲載されました。
 

1.背景と目的

   保護区の設置は、生物多様性を保全するための主要な手段の1つであり、生物多様性条約の愛知目標11では、生物多様性を保全するために「2020年までに陸域の17%を効果的に管理された保護区とすること」が定められています。設定できる保護区の広さや効果的な管理を行える範囲が限られる中、保護区の配置や管理の実施場所を適切に選定できるかどうかは、生物多様性保全の成否にかかわります。
   その一方で、保護区選定の基本情報となる生物の分布データは十分ではなく、調査範囲が限られている、調査地域が偏っている、などの課題があることが一般的です。このような分布データの不完全さを補うため、保護区選定の前に、広範囲で得られている環境情報に基づいて生物が生息する確率を推定し、データを補完・補正する処理(分布推定モデル※1、図1)を用いることが推奨されてきました。分布推定モデルは、近年の技術発展が著しく、生態学分野での利用が急速に増加しています。
   しかし、分布推定モデル自体も、推定結果に誤差があるため、モデルを利用したデータ処理がよりよい保護区の選定につながらないこともあります。例えば、調査範囲が十分に広ければ、データ処理は必要ないでしょう。どのような条件であれば、モデル利用によるデータ処理が有益であるのかは、これまで明らかにされていませんでした。
   そこで本研究では、保護区選定において、分布推定モデルによるデータ処理が推奨される条件を明らかにすることを目的として、分析を行いました。

環境情報を利用した分布データの補完・補正処理を表した図
図1 環境情報を利用した分布データの補完・補正処理

2.方法

   分析の対象とする条件として、分布データの調査範囲の広さ、調査地域の偏り、保護区の広さに注目しました。様々な調査範囲や保護区の広さにおいて、保護区選定の前にデータ処理をした場合としない場合、それぞれで選ばれた保護区に含まれている生物種の数を比較し、より多くの種が含まれているほうがよい保護区を選定できたと評価しました。
   しかし、現実の調査データは完全ではないため、保護区の中に含まれている生物種の数を正確に知ることはできず、このような評価が困難です。そこで、本研究では、コンピュータシミュレーションにより生成した仮想の生物の分布データを用いることで、生物種の正確な数を評価できるようにしました。ここでは、現実に近い分布データを生成できるよう、独自に考案したシミュレーション方法を用いました。
   この仮想の分布データを用いて、調査範囲の広さ、調査地域の偏りの大きさ、保護区の広さの3つの条件を様々に変えながら、どのような条件でデータ処理を行ったほうがよりよい保護区が選定できるのかを分析しました。
   データ処理に用いる分布推定モデルには多くの種類がありますが、よく用いられる一般化線形モデル、一般化加法モデル、ランダムフォレストの3つの種類のモデルを用いました。

3.結果と考察

   分析の結果、分布推定モデルによるデータ処理を行ったほうが、調査データをそのまま用いるよりよい保護区が選べたのは、以下の3つの条件が全て満たされる場合でした(図2)。
      ①保護区が広くない
      ②調査地域の偏りが大きい
      ③調査範囲が狭い~中程度
データ処理に用いるモデルの種類が違っても、これらの傾向は共通しており、3つの条件は一般性の高い結果であると考えられました。ただし、分布推定の精度が高いモデルほど、データ処理で改善がみられる条件が広くなる傾向がありました。
   これらの結果は、保護区選定において、分布推定モデルによるデータ処理が推奨される条件を具体的に示すものであり、利用が拡大しつつある分布推定モデルの適正な活用につながると期待されます。
   また、調査データに偏りがない場合には、データ処理が有益でないことも注目に値する結果です。本研究では、同じ広さの調査範囲であれば、偏りのない調査を実施するほうが、より多くの種を含む保護区を選定できることも明らかになっています。この結果は、調査を実施する場合には、調査地域の偏りが小さい調査設計とすることが、よい保護区を選定するための基本情報として非常に重要であることも示しています。

調査地域の偏り度合と、保護区の広さによるデータ処理の有益さの違いを表した図
図2 調査地域の偏り度合(a)と、保護区の広さ(b)によるデータ処理の有益さの違い。
(a)からは、調査地域の偏りが大きい場合にデータ処理が有益であり、(b)は保護区が広くないときにデータ処理が最も有益になることを示しています。また、データ処理の有益さは、調査範囲の広さによっても変わり、調査範囲が狭い~中程度のときにデータ処理が有益であることがわかります。なお、(a)は保護区の広さは中程度(全域の5%の面積)、(b)は調査範囲の偏りが大きい場合の結果を示しています。

4.今後の展望

   本研究は、現実的な群集構造を有する仮想の分布データをシミュレーションにより生成し、これまで正確な計数が不可能であった保護区の良さを評価可能にしたことで得られた成果です。本研究では、より多くの種が含まれているほうがよい保護区であるという設定で分析を行いました。これは、1種あたり1か所でも生息地が保護区に含まれていればよいとする、という単純化した設定です。今後、ある生物種の生息域のうち一定割合以上が保護区に含まれているかどうかなど、より効果的な保全ができる条件設定での分析を行うことで、保護区の選定技術の更なる向上につながると期待されます。

5.用語解説

※1 分布推定モデル (Species Distribution Modeling): 環境条件と生物の生育地点との相関関係を統計的に分析することにより、目的の生物種が生育する環境条件を解明したり、調査が行われていない場所の環境条件に基づいて当該生物種が生息している確率を推定したりする手法。生態ニッチモデル(Ecological Niche Modeling)ともいう。

6.研究助成

   本研究の一部は環境研究総合推進費S9の助成により実施されました。

7.発表論文

【タイトル】Evaluation of the ecological niche model approach in spatial conservation prioritization
【著者】Fumiko Ishihama, Akio Takenaka, Hiroyuki Yokomizo, Taku Kadoya
【雑誌】PLOS ONE
【DOI】10.1371/journal.pone.0226971
【URL】https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0226971【外部サイトへ接続します】
※下線で示した著者が国立環境研究所所属です。

8.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター
生物多様性評価・予測研究室 (主任研究員)石濱 史子
   E-mail:ishihama(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
   TEL:029-850-2063

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人 国立環境研究所 企画部広報室
   E-mail:kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
   TEL:029-850-2308