日本の自然は侵入種だらけ
生物多様性(5)
もともと生きていた地域から異なる地域へ、人の手によって運ばれてきた生き物を外来種と言います。
多くの外来種は移動先の新しい地域の環境になじむことができず滅んでしまいますが、一部の外来種は新天地に適応し、分布を拡大することがあります。拡大の過程で、地域に生息している在来種に対して悪影響を及ぼし、その数を減らしてしまう外来種を侵略的外来種(侵入種)と呼びます。
日本にもこれまでにたくさんの侵入種が海外からやって来ました。明治時代に沖縄にハブ退治の目的で導入されたマングースは、定着に成功したものの、ヘビの数を減らすことはほとんどなく、かえって食べやすいヤンバルクイナやアマミノクロウサギなどの貴重な固有種を食べて、その数を減らしていると考えられています。
食料目的で北米から導入されたオオクチバスは、戦後になってスポーツフィッシングの対象となり、日本各地の河川や湖沼に放されたことからその数を増やし、日本在来の魚を大量に食べているとされます。河原にはびこり在来の草花の生育を阻害しているシナダレスズメガヤやネズミムギなどの外来雑草は、道路など開発地の緑化に植えられたものから広まったものです。
このように侵入種は日本の環境の様々な場面で、様々な影響を在来種に対して及ぼしていますが、それらを日本に持ち込んだのは人間自身です。
近年特に問題と考えられている外来種に、外来ペット生物があげられます。例えば現在日本では外国産のクワガタムシを飼うことが大きなブームになっており毎年、色々な国から大量の生きたクワガタムシが輸入されて売られています。これらが野外に逃げ出せば、日本のクワガタムシと餌場やすみかを巡って競争したり、交尾をして雑種を作ったり(写真)、外国産の病原体(寄生生物)を持ち込むなど、日本のクワガタムシやその他の生物に深刻な影響をもたらすことが心配されています。
こうした侵入種の影響から日本の自然や生物を守るために、政府は新しく「特定外来生物被害防止法」を作りました(2005年6月より施行)。この法律では日本の環境に有害と考えられる侵入種を「特定外来生物」に指定して、輸入することや飼育すること、野外に逃がすことを禁止しています。
日本本来の自然環境を次の世代に残すためにも、侵入種をこれ以上増やさぬよう、飼っている生き物は死ぬまで面倒をみるという、飼育のマナーを守ることが大事です。同時にそれらの生き物にも本来の故郷があったことを忘れてはなりません。

【生物多様性研究プロジェクト 侵入生物研究チーム 総合研究官 五箇公一】
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