酸性雨の話
越境する大気汚染(2)
酸性雨とは: 酸性雨は工場、自動車などから排出される大気汚染物質で、主として二酸化硫黄(SO2)と窒素酸化物(NOx)が、大気中で反応を起こし、雨に溶け込むことにより生成されます。酸性雨中の酸性の物質は、主として硫酸(H2SO4)と硝酸(HNO3)です。
日本では、環境省が国内の酸性雨調査を行ってきました。pH5.6以下を示す雨が酸性雨です。pHは酸性度を表す指標で、値が小さいと酸性度が高く、危険です。2003年度の調査によると、年間平均pHの最低値が4.40、最高値は5.04であり、ほぼ国内全体に酸性雨が降っていました。欧州や中国でも酸性雨が降っていて、中国から日本へ国境を越えて来ることが心配されています。
酸性雨による被害: 欧州及び北米においては、酸性雨被害はまず湖沼で問題になりました。1950年代にノルウェー、スウェーデンなどの北欧3国では湖沼から魚が消え、釣り人達の間で問題となりました。ノルウェー最南部の湖沼では、1940年に2500匹以上生息していたマスが1975年には半減しました。1970年代の中頃から、旧西ドイツの代表的な森林地帯である「黒い森」をはじめ、マツやモミなどの樹木の立ち枯れが各所で観察されるようになりました。チェコでも国境の山岳地帯で針葉樹が大規模に枯れています(写真)。
欧州の歴史的遺産である建造物に対しても、酸性雨が影響を与えています。ロンドンのウェストミンスター寺院やドイツのケルン大聖堂にも被害が及び、その補修費用は高額になっています。
酸性雨問題への対策: 酸性雨の対策は、原因物質であるSO2やNOxを空気中に出さないことです。わが国は1970年代に公害問題が非常に大きな問題となりました。この時に工場、発電所などが脱硫(石灰などを加えることによりSO2を煙突外に出さないようにすること)などの大気汚染対策に取り組んだため、現在では世界でもトップクラスの環境にやさしい国になりました。ちなみに日本国内の工場の脱硫施設設置率は世界一になっています。ガソリン乗用車に対する排気ガス(NOx)処理対策も行われています。近年開発されたハイブリッド車は省エネルギーを達成し、NOx放出量を更に少なくしています。
【大気圏環境研究領域 酸性雨研究チーム 総合研究官 村野健太郎】
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