水処理技術、うまく生かせるか?
水と土(2)
私たちの日々の生活に欠かせない水道水は、川や湖、地下水などを原水とし、浄水場できれいに処理された後、各家庭に給水されています。
浄水場では、原水に凝集剤という薬品を注入して、濁り成分(濁質)を除去し、最後に塩素で消毒する処理法(急速ろ過法)がとられています。 そのため、濁った水道水が蛇口から出てきたり、飲んでお腹を壊したりすることは滅多にありません。その点では日本の水処理技術は世界的にも高い水準にあると言えます。
しかし、この方法だけでは水は完全にきれいになっているとは言えません。なぜなら、透明な水道水の中にもさまざまな物質が含まれているためです。発ガン性のリスクが高いとされているトリハロメタンも、その例として挙げられるでしょう。これらは原水の中に溶けている有機物(DOM)の一部が、消毒の際に塩素と反応することによって生まれます。
DOM中にはさまざまな種類の物質が含まれており、急速ろ過法では、すべてを除去できません。そこで、これまでさまざまな対策がとられてきました。
強化凝集法もその一つで、これは急速ろ過法を効率化させることで、DOMもできる限り除去しようとする試みです。
除去をより効率的に進めるには、凝集処理で、どのような物質が除去されやすいのか?について確かめなくてはなりません。凝集剤によって濁質が集められると凝集フロックと呼ばれる比較的大きな粒子が生まれ、それが沈むことにより濁質は除去されます。
凝集処理を通じて除去されやすいDOMの成分は、その凝集フロックに吸着することによって除去されることが明らかになってきました。その吸着作用としては、配位子交換という化学反応と荷電中和という電気的反応が挙げられています。
我々は、それぞれの吸着作用が働きやすい物質はどういった性質を持っているのか?そうした吸着作用を促進させることはできるのか?について調べることにより、強化凝集法によるDOM除去の効率化を探っています。
本研究室のこれまでの研究から、原水のDOM中には親水性酸と呼ばれる物質群が多く含まれており、トリハロメタンを作りやすいことが明らかとなってきました。親水性酸は、凝集処理プロセスにおいて除去されにくいことが分かっています。
将来的には親水性酸のような物質も除去可能な処理方法の確立を目指して日々、研究を進めています。

【水土壌圏環境研究領域 湖沼環境研究室 研究員 小松一弘】
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