黒ボク土 人が作った土?
水と土(1)
今回から4回にわたり、水や土に関する生態系や環境汚染にまつわる研究について紹介していきます。第1回目は、火山灰からできる土のでき方について。
東京発東海道新幹線に乗りメガシティ東京を抜ける辺りから、少しずつ車窓に黒い土が広がっていることが確認できます。これは黒ボク土(くろぼくど)と呼ばれ、火山の噴火がもたらした火山灰からできています。この名前は、黒くてホクホク(またはボクボク)していることに由来していると言われています。
火山灰は岩や砂に比べ粒子が細かいため風化が早く、この土の黒い部分は、だいたい100年から1000年くらいでできてしまうと考えられています。また黒さは腐植という、植物が腐って土に返った成分が多いことに由来しています。
さて、この黒ボク土の生成には、1万年以上に及ぶ、かつての人間の活動が反映されているといわれています。これは、たとえば土の中に残っている植物ケイ酸体という、植物の中で作られ、さらに植物の種類ごとに固有の形を示す鉱物を調べるとわかるようです。
すると、現在の黒ボク土の中にも、過去の火山噴火ですでに埋もれてしまった深い所の黒ボク土の中にも、草本類に由来する植物ケイ酸体が、非常に多く見つかるのです。これはこの土ができる間のかなりの期間において草原であったことを示しています。
しかし日本の気候帯から考えると、最後は木本類が卓越し森林に達するはずなので、草原が長く維持されたというのは自然ではありません。つまり、森林に至らず長きに渡って草原が維持されるためには、何らかのかく乱が必要だったはずです。その一つとして森林破壊や火入れなどの、人間の生活活動がかかわっていたというのが、現在の有力な説です。
しかし、なぜ草原を維持する必要があったのかは諸説あり、動物を追い込むための狩場にするためとか、家を作る材料の茅(かや)場を維持するため、などが挙げられています。
つまり、この仮説が正しいとすれば、人間活動が土などの自然生態系に大きな影響を与えてきたのは何も文明が発展した今日ばかりではなく、縄文時代や石器時代といったころから、綿々と続いていることなのかもしれません。

【水土壌圏環境研究領域 土壌環境研究室 主任研究員 村田智吉】
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