黄砂を計る
越境する大気汚染(3)
黄砂は、モンゴルや中国の砂漠地域で強風によって砂塵(じん)が巻き上げられて輸送される現象です。
砂塵の発生地域では人や家畜に直接的な被害をもたらすほか、中国東岸や韓国に輸送された黄砂も、例えば視界不良のための空港閉鎖など、生活に直接的な影響を及ぼします。
このように、黄砂は自然災害としての側面を持つものですが、その発生は土地利用などの人間活動とも密接に関係しています。
一方、黄砂は東アジアの大気環境を考えるうえでの非常に重要な要素です。例えば、大気汚染物質が黄砂の表面に付着することによって、生態への影響が増加する可能性が指摘されています。
また、大気汚染物質が付着すると黄砂が光を散乱する特性や、雲の核として作用する特性も大きく変わります。このために大気汚染の気候への影響が加速される可能性もあります。
その一方で、黄砂との化学反応によって酸性の大気汚染物質が中和され、酸性雨が低減されるという報告や、大気汚染と反応した黄砂が海洋に運ばれて栄養塩が溶け出すという報告もあります。
これらの問題を明らかにするためには、まず黄砂と大気汚染の空間的な分布を捉(とら)えることが重要です。そこで、私たちはライダー(あるいはレーザーレーダー)と呼ばれる、レーザー光を使った一種のレーダー装置を用いたネットワーク観測を行っています。
ライダーの利点は、黄砂と大気汚染性のエアロゾルを分離して、それぞれの高度分布を連続的に測定できることにあります。 図は、2004年に北京のライダーで観測した黄砂と大気汚染エアロゾルの混合状態の一例です。黄砂の濃度を赤、大気汚染エアロゾルを青で表示しています。
北京では、この例の3月27日から28日にかけて見られるように、濃い大気汚染の後に、風向きが変わって西から黄砂が飛来する例がしばしば見られます。多地点におけるこのような観測と数値モデルを組み合わせて、黄砂と大気汚染の動態の全体像を推定します。
モデルの結果によると、大気汚染と混ざった黄砂は、その後、東に輸送されます。その輸送過程で実際にどういう相互作用が起きているかは、今後のサンプリング観測(大気の採取など)に期待される大きな課題です。
【大気圏環境研究領域 遠隔計測研究室長 杉本 伸夫】
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