ダムによる河川の分断の影響
生物多様性(4)
日本全国にダムや堰(えん)堤がつくられ、河川が分断されてしまうことが当たり前となりつつあります。
これら人工の工作物が、魚類をはじめ、河川流域の生物多様性の低下を引き起こしていることが指摘されています。その影響がどの地域で、どれくらい、どんな生物に及ぼされているのかを調べてきましたので、ここでご紹介したいと思います。
調査対象にしたのは北海道です。北海道では過去50年間に約6,700件の魚類調査が行われました。調査地点ごとの「魚類の種数」は、その地点の標高や傾斜度、流域面積、あるいは気温、降水量などの影響を受けることが知られています。
この魚類調査の結果について、「調査時にその地点がダムで分断されていたか否か」という要因を加味して、統計的に解析してみました。
その結果を一枚の地図に表してみます(下図参照)。この図で色が濃いところほど、ダムによる魚類種数の低下量が大きいことを表しています。種数の低下量が激しい地域が、海岸に近い標高の低い所に分布する傾向が、読み取れます。
また標高がゼロ、つまり河口にダムや堰(せき)が建設されると、最大で9種もの淡水魚類が消滅することが示唆されました。「ダムの作られる地点の標高が低いほど、その上流から姿を消す淡水魚の種数が増す」ことは、今回の解析から得られた一番の教訓です。
生涯に一度は海に下り、再び川に戻る回遊性の生活史を送る魚類には、サケやマスなどがいますが、同じような生活史を送る小型の回遊魚(ハゼやカジカの仲間など)の方が、より一層ダムの影響を受けやすいことも分かりました。これは人工的に作られた魚道などが、遊泳力の乏しい魚種には有効に機能していないからと考えられます。
河川は、源流から河口まで連続して流れ下るのが、本来の姿です。その連続した環境がわずか半世紀ほどの間に急速に失われ、地域的な魚類の絶滅を招いています。それが日本をはじめ世界各地の河川で生じ、生物多様性低下の一因となっているのです。
魚類の絶滅に関する現状を定量的に、また空間的に把握することができましたので、これを踏まえた何らかの対策を、早急にとってゆくことが求められます。
【生物多様性研究プロジェクト 多様性機能研究チーム 主任研究員 福島 路生】
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