PCBをなくす
ゴミ(7)
わたしたちの身の周りには、たくさんの化学物質が使われています。これらは、私たちの暮らしを便利で豊かにするため役立ってきた一方で、有害性が判明したため、使用や製造が禁止されたものもあります。ポリ塩化ビフェニル(「PCB」と呼ばれる物質です。)もその一つです。
PCBは多くの優れた特性を持っているため、電気の変圧器をはじめ幅広い用途に使用されていました。しかし、昭和43年にPCBに汚染されたライスオイルによる中毒(カネミ油症事件)が発生するなど毒性が問題となり、日本では47年以降製造されていません。
このPCBが、今でも我々を悩ませているのです。というのは、国内では約5万tが使用されてきましたが、廃棄処理が難しく、PCB廃棄物のほとんどは使用者により保管され続けているからです。約30年経った現在、紛失や行方不明になったものもあることが判明していますし、事故や災害時の漏れも心配です。PCBによる環境汚染が懸念されているのです。
この解決のため、国内外で新たな取組が進められています。日本では、平成13年に、PCB廃棄物の適正処理推進を定めた法律が公布され、国内のPCB廃棄物を15年以内に処分することが決定されました。現在、法律にもとづき、北九州市など国内5カ所で最新の処理技術を導入した処理施設が建設され、国による広域的な処理が本格的に始まろうとしています。国立環境研究所では、こうした処理技術を適用したとき、PCBがどのようなメカニズムで分解するか、また他の有害物質は生成していないかなどの研究を行っており、PCB処理事業が安全に行われることをサポートしています。PCBを含んだ機器の解体・処理方法の確立や周辺環境などのモニタリング方法にも重要な研究課題として取り組んでいます。
国際的にも、平成16年5月には、PCBのように人への毒性や環境中の残留性などが懸念される物質(「残留性有機汚染物質(POPs)」といいます)に対して条約が発効し、対象となる物質の製造や使用を禁止し、保管してある廃棄物を適正に処理することが定められました。PCBなどの有害な化学物質を地球上から早くなくしてしまおうという動きが各国で加速しています。

【循環型社会形成推進・廃棄物研究センター 循環資源・廃棄物試験評価研究室長 野馬幸生】
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