広域大気汚染のシミュレーション
越境する大気汚染(4)
工場や自動車などから大気に放出された汚染物質は、風に流されたり化学反応を起こしたり複雑に変化します。この様子をコンピューター上で再現するのが大気汚染のシミュレーションです。
アジア大陸で発生した大気汚染物質は、風によって国境を越え日本にも運ばれていますが、この様子をコンピューター・シミュレーションで示すことができます。図は、シミュレーションにより計算された、1985年と2000年の大気中の硫酸粒子(酸性雨の成分です)の広がりを示しています。この図から、アジア大陸から硫酸の粒子が日本列島周辺に流れ込んでいる様子がわかります。さらに、中国などで汚染物質の放出量が急増したために、この15年間で汚染が進んでいることもわかります。
最近の研究結果では、アジア大陸で放出された大気汚染物質が西風によって日本に運ばれ、日本国内の光化学オキシダントや粒子状物質、酸性雨などの様々な大気汚染の発生に大きな影響を及ぼしていることが明らかになっています。
それでは、広域大気汚染のシミュレーションによってどのようなことがわかるのか、もう少し具体的に見てみましょう。例えば、中国、韓国、日本で放出された大気汚染物質のそれぞれに、赤色、黄色、青色といったマークを付けておき、それぞれが大気中でどのように動くのかシミュレーションした後、日本に到着する汚染物質の色別割合を求めれば、どの国で放出された汚染物質がどれだけ日本に到達するのか計算できます。このようにして日本列島全体に落ちる硫酸の割合を計算すると、中国で放出された物質の割合が約50%と非常に大きいことがわかります。
また、シミュレーションを使うと、将来の大気汚染の状態を予測することができます。アジアの大気汚染は、経済発展にともなって今後ますます悪くなるおそれがあります。その状態をシミュレーションによって事前に知り、国際的に協調して対策を進めることが重要になっています。
このように、広域大気汚染のシミュレーションは、(1)大気汚染がどのように発生するのか、(2)大気汚染物質はどこから放出され、どこに影響をもたらしているのか、(3)大気汚染は将来どのように変化するのか、(4)汚染をなくすためにはどのような対策をすれば効果があるのか、といったことを知るために使用されています。

【PM2.5/DEP研究プロジェクトグループ 都市大気保全研究チーム 総合研究官 大原 利眞】
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