国道沿いに咲くアブラナ
生物多様性(6)
春になると各地で、辺り一面黄色に彩られた菜の花畑の風景を目にします。つくば市周辺でも鬼怒川や小貝川に沿って大きな群落があり、私たちを楽しませてくれます。「菜の花」とは植物学上の用語ではなく、アブラナ科のアブラナ属植物(Brassica)を総称した呼び名です。河川敷などで見られる菜の花は、アブラナ、セイヨウアブラナ、カラシナがほとんどですが、食卓でお馴染みのカブやハクサイ、キャベツ、ブロッコリーなども菜の花の仲間です。
春過ぎ、収穫されずに残されたこれらの野菜を観察すると、「花」や「さや」の形がよく似ていることがわかります。「油菜」という名前の由来は、江戸時代に油を採るために栽培されていたためです。
海外では生産性の向上や農作業の効率化のために、遺伝子組換えによって除草剤に強いセイヨウアブラナ(GMセイヨウアブラナ)が生産されています。日本は主に食用油の加工や飼料用として年間約200万tのセイヨウアブラナの種子を輸入していますが、約半分に遺伝子組換え体が混入していると推定されています。
菜の花が咲く場所は?と聞かれたら、休耕田や河川敷の光景をイメージされるかと思います。カラシナやセイヨウアブラナは環境にもよく適応し生育力も旺盛なため、このような場所に広がって、各地で大きな群落になっています。
ところがよく見てみると、車道沿いのアスファルトの隙間などにも花を咲かせていることがあります(写真)。このような菜の花は、輸入されたセイヨウアブラナの種子が自動車で輸送される際に、こぼれ落ちたものと考えられます。
私たちは2004年から関東地方の国道沿いを中心にセイヨウアブラナの分布調査を行っています。その結果、数ヵ所でGMセイヨウアブラナの生育が確認されています。
国内には多くの種類のアブラナ科植物があることから、GMセイヨウアブラナが生物多様性に与える影響としては、系統的に近いアブラナ属植物と交雑が起こることによって、導入された形質(ここでは除草剤耐性)が、近縁な在来植物や耕作地以外の生態系に広がる場合を考えなくてはなりません。
しかし、遺伝子組換え体が環境中に逸出した場合に、重大な影響があるのかないのか、その安全性を正確に評価するための情報は十分とはいえないのが現状です。まずは拡散の状況を把握し、安全性評価に必要な情報を集めてゆくことが求められています。
【生物多様性研究プロジェクト 分子生態影響評価研究チーム NIESアシスタントフェロー 西沢 徹】
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