広域大気汚染と観測
越境する大気汚染(1)
今回から4回、東アジアの広域にわたる大気に関する環境問題の研究や取組をご紹介していきます。
第1回目は、飛行機を用いた中国における大気汚染観測の話です。ご存じのように、中国の経済発展には目を見張るものがあります。中国では石油の生産量は少ないのですが石炭を多く産出するため、エネルギー源として使われている燃料の70%は石炭です。石炭は石油や天然ガスなどの燃料に比べると燃焼の効率が悪く、中に含まれている硫黄などの微量成分を使用前に取り除くことも難しいため、燃焼によって多量の汚染物質(NOxと呼ばれる窒素酸化物やSO2などの硫黄酸化物)が排出されます。日本では排煙脱硫などのハイテク装置により、排気や煙からこれらの汚染物質を取り除く技術も進んでいますが、中国などの発展途上国ではまだその普及率は低いのです。
このように中国では、まだいろいろな大気汚染物質の濃度が日本などと比べると高いのが現状です。しかし、大気汚染物質が中国国内でどのように分布しているか、風によってどのように日本などに運ばれているのかというような情報はこれまでほとんど知られていませんでした。中国が対外的にあまり情報を公にしてこなかったからです。しかし、朱鎔基前首相は「酸性雨や黄砂が国境を越える問題となっている」と述べ、国際的な取り組みの必要性が指摘されるようになりました。
このような状況の変化と、私たちが中国の研究者と長い間進めてきた共同研究への取り組みが実を結んで、初めて中国の上空で大気汚染の航空機観測を行うことができました。 2002年の3月に行われた最初の観測では、写真に示すような単発の複葉機という、何とも古風な飛行機を使って観測を行いましたが、大都市周辺上空において高濃度の汚染物質(SO2が1000mの高度でも40ppbを超える)を観測する一方で、粒子状物質(SPM)に含まれる硫酸や硝酸などの酸性物質は中国国内で大量に放出されているアンモニアによって、実は良く中和されていることなどがわかりました。
今後も中国におけるこの航空機観測は継続され、東アジアにおける大気汚染の広域分布の解明を進める予定です。

【大気圏環境研究領域 大気反応研究室長 畠山史郎】
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