南極でのオゾン破壊はなぜ?
オゾン層(4)
今回は衛星から見た南北両極域のオゾン層についての話です。
我々の研究チームでは、環境省が開発したILAS(アイラス)とILAS-IIという人工衛星搭載センサーを使って、オゾン層破壊に関する新たな研究成果を得ることができました。 ILASは1997年冬期から春期の北極域を、また、ILAS-IIは2003年冬期から春期の南極域をそれぞれ連続して観測しました。これら二つのセンサーは大気を上からではなく、横から見ることで、どこの高度でオゾンが多いか、あるいは少ないのかといった情報を引き出すことが出来ます。
北極での観測結果からは、成層圏の高度20kmにおいてオゾン濃度がもともとの値の半分にまで化学的に破壊されていたことを世界で初めて明らかにしました。しかしながら、次に説明する南極ほどはオゾンが破壊されないのも事実です。
南極での観測結果からは、良く知られるオゾンホールの断面を、時々刻々追いかけることに成功しました。下図に見られるように、8月には多くのオゾンが存在していましたが、10月初めでは高度17km付近でほぼゼロになっています。
ではなぜ、オゾンホールは南極の春に出現するのでしょうか?まず南北半球の地形分布の違いとそれによる成層圏気温の違いが、その主要因です。
高度20km付近に存在する水と硫酸からなる液滴(硫酸エアロゾル)が約マイナス80度の低温になると、極域成層圏雲(PSC)と呼ばれる、より大きな粒子に成長します。春先、極域にも太陽光が降り注ぐようになると、この粒子表面を反応の場として、一連の光化学的なオゾンの破壊反応が進むことがわかっています。
低温となる面積も期間も、南極の方が北極よりも圧倒的に広く長くなるため、いわゆる南極オゾンホールと呼ばれる大規模なオゾンの破壊は、南極の春期にのみ生じます。
PSCを構成する個々の粒子の表面積や組成は、その場の気温などによって変化し、反応の速度が変わってきます。ILAS-IIが観測したデータから、そのような化学成分の情報も現在、我々の研究チームで解析しています。
今後はそれらの情報を使って、オゾン破壊反応機構のより詳細な解明を行いたいと考えています。

図は、2003年南極の冬から春(8月から10月はじめ)にかけての大気中オゾン濃度の高度分布の時間変化を示す。 8月上旬からオゾンの破壊が高度15km付近で始まり、9月の初めではほぼ半減した。さらに9月の終わりから10月の初めでは、高度15kmから18kmにかけて、広い範囲でオゾン濃度がほぼゼロとなった。
【成層圏オゾン層変動研究プロジェクト 衛星観測研究チーム 主任研究員 杉田考史】
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