「流域圏生態系研究プログラム」
国立環境研究所研究プロジェクト報告の刊行について
(お知らせ)
(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ同時配付)
国立研究開発法人国立環境研究所
編集分科会委員長:三枝 信子
編集分科会事務局
(環境情報部情報企画室)
室長:阿部 裕明
担当:川尻 麻美
本報告書は、国内の流域圏(筑波山森林、恋瀬川、霞ヶ浦、東京湾)と国外の流域圏(メコン川)を対象として、生態系機能の評価手法の開発、生態系機能や生態系サービス(生態系が人間にもたらす便益)と環境因子の関係評価、及び生態系サービスや生物多様性の保全のためのダム貯水池管理等について研究した成果を取りまとめたものです。
窒素飽和現象※に注目した国内の森林域-河川-湖沼が連なる流域圏では、生態系機能の新たな定量評価手法の開発、生態系機能と環境因子の連動関係の評価、及びそれらに関するモデル解析とシナリオ構築が行われました。これらの科学的知見をメコン川に適用し、漁業生産に注目して持続的な生態系サービスの在り方や、生態系サービスと生物多様性の保全・回復を目指すダム貯水池管理について提言をまとめました。このことから、国内からアジアへの展開を目指す流域圏研究の持続的な発展に対応する研究アプローチの一般化が進んだといえます。
※人間活動により放出された窒素化合物が、大気経由で森林に蓄積し、長年かけて生態系が窒素過剰な状態に陥り、渓流水や河川等へ硝酸性窒素が流出する現象
1 「流域圏生態系研究プログラム(先導研究プログラム)平成23~27年度」の概要
近年、生物多様性のホットスポットとして重要な生態系の保全と、生態系機能を最大限に活用して生物多様性の減少を防止することが強く求められています。そのためには、生態系機能を数値的に評価する必要があります。しかし、その評価手法はほとんど確立されておらず、生態系機能と環境因子との相互関係についてはその多くが未解明です。結果として、生態系機能の保全・再生・修復に向けた具体的な取組が大きく進展しない状況にあります。
このような背景を踏まえ、国内の慢性的な環境負荷にさらされている流域圏(森林、河川、湖沼、沿岸)の生態系を対象として、生態系機能の新たな評価手法の開発を行い、生態系機能と様々な環境因子との相互関係を具体的に評価しました。同時に、これらの手法と知見を、国外の広域スケール流域圏であるメコン川に適用して、生態系サービスと生物多様性の保全・回復を目指して、対策シナリオ構築や環境影響評価を実施しました。
その結果、窒素飽和に陥っている筑波山森林域において、窒素飽和の指標となる渓流水中の硝酸性窒素(NO3-N)濃度は、傾斜が比較的緩やかな集水域では、針葉樹林が多いと高くなることが明らかになりました。霞ヶ浦の底泥では2006年頃から溶存有機物と栄養塩類(アンモニア性窒素とリン酸態リン)の顕著な増加が見られました。こうした変化は、底泥中の植物プランクトン由来のタンパク質が分解されたためと示唆されました。窒素飽和現象に注目して、筑波山-恋瀬川-霞ヶ浦として連なる流域圏を対象としてモデル解析を実施したところ、霞ヶ浦での恋瀬川森林起源のNO3-Nの寄与はかなり低く、湖沼ではほとんど影響しないと推察されました。
また、メコン川の回遊魚の耳石に対する微量元素分析により、メコン流域で最も重要な水産資源であるコイ科Henicorhynchus属魚類が、流域を広く回遊する生活史を送ること、ダムが建設された支流では既に回遊が著しく制限されていること、また現在建設中の本流ダムであるドンサホンダムが本種の回遊経路上にあることなどが明らかとなりました。ダムが建設され、メコン流域に数多くつくられる貯水池は、一見すると自然湖沼のようにも見えますが、その内部の生物の食物連鎖網構造は大きく異なることを炭素窒素の安定同位体比を用いて具体的に示すことができました。
本研究成果が、国内外の流域圏研究の進展に資することを期待します。
●本報告書の研究プログラム総括
今井 章雄(いまい あきお)
国立環境研究所 地域環境研究センター センター長
2 本報告書の閲覧及び問い合わせ先
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