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2026年1月20日

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エコチル調査における妊婦のPFASばく露と妊娠・出産時の事象との関連

(文部科学記者会、科学記者会、厚生労働記者会他、名古屋教育医療記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)

令和8年1月20日(火)
名古屋市立大学・エコチル調査愛知ユニットセンター
      大学院生     Joselyn Dionisio
       准教授     伊藤 由起
  センター長・教授     上島 通浩
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
     センター長     山崎 新
        次長     中山 祥嗣

 愛知ユニットセンター(名古屋市立大学)の大学院生Joselyn Dionisio氏、伊藤由起准教授、上島通浩教授らの研究チームは、エコチル調査にご協力いただいた妊婦のうち約23,600人のデータを用いて、妊娠前期の母親の8種類の血中有機フッ素化合物(PFAS)※1濃度と14種類の妊娠・出産時の様々な事象※2の関連について解析しました。その結果、これら8種類の血中PFAS濃度が高い場合に、10種類の事象(帝王切開分べん、子宮内胎児発育遅延、新生児合併症、胎児機能不全、前置胎盤、切迫流産、過期産、妊娠37週以降の前期破水、切迫早産、妊娠中体重増加の低下)または14種類の妊娠・出産時の様々な事象※2のいずれかの事象を1つ以上呈する割合が高いことが明らかになりました。また、複数のPFASへの同時ばく露を考慮した解析においても、同様の傾向が見られました。
 ただし、本研究結果のみをもって、PFASと上記10種類の事象との因果関係を直接的に結論づけることはできません。その理由は、PFAS以外の化学物質も含む複合的な影響については考慮できていないこと、いくつかの情報は自記式での回答によるものであり、思い出しバイアスがある可能性が考えられること、いくつかの事象においては、解析に十分なサンプルサイズがえられていないこと等が挙げられるためです。そのため、今後、さらなる研究が必要です。
 本研究の成果は、令和7年11月6日付でElsevier社から刊行される環境科学分野の学術誌『Environmental Pollution』にオンライン掲載されました。 ※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。 ※本研究に関する補足説明資料を作成しました。以下のURLも併せて確認ください。 https://www.nagoya-cu.ac.jp/press-news/202601201400/

1. 発表のポイント

  • 妊婦の8種類の血中PFAS濃度と10種類の妊娠・出産時の様々な事象(帝王切開分べん、子宮内胎児発育遅延、新生児合併症、胎児機能不全、前置胎盤、切迫流産、過期産、妊娠37週以降の前期破水、切迫早産、妊娠中体重増加の低下)または14種類の妊娠・出産時の様々な事象※2のいずれかとの間に関連が見られました。
  • 妊婦の血中PFOA濃度が最も高い集団では、最も低い集団に比べて、前置胎盤の割合が2.5倍でした。
  • 妊婦の血中PFOA濃度は、妊娠中の体重増加と負の関連を示しました。
  • 子宮内膜症の有無により、PFAS濃度と妊娠・出産時の事象(帝王切開分べん、切迫早産、新生児合併症、切迫流産、14種類の妊娠・出産時の様々な事象※2のいずれかあり)の関連に差異が見られました。
  • 本研究で、妊婦の血中PFAS濃度と新生児の合併症や切迫流産との関連が初めて示唆されました。

2. 研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査※3です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 有機フッ素化合物(PFAS)の一部は、環境中で分解されにくく、ヒトへの影響が懸念されています。本研究は、妊娠前期の血中のPFAS濃度と分べん様式や様々な妊娠・出産経過事象との関連について、合併症のリスクがある子宮内膜症の有無を考慮して解析を行いました。

3. 研究内容と成果

 エコチル調査にご協力いただいた妊婦のうち、妊娠前期の母体血中のPFAS濃度が測定されている約25,000人のデータの中から、子宮内膜症の有無など解析に必要なデータがそろっている23,596人を対象としました。妊娠・出産経過に関する必要な情報は、出産時の診療記録からの転記、または、妊婦の質問票回答から得ました。17種類の妊娠・出産時の様々な事象のうち、発生率が0.1%未満であった死産、子宮内胎児死亡、母体死亡を除いた14種類の妊娠・出産時の様々な事象について解析対象としました。
また、妊娠前期の血中濃度を測定した28種のPFASのうち、その後の統計学的解析が可能である検出率が50%を超えていた8種類のPFAS(PFOA, PFNA, PFDA, PFUnA, PFDoA, PFTrDA, PFHxS, PFOS)について、分べん様式や妊娠・出産時の様々な事象との関係について解析しました。
 妊娠前期の8種類の血中PFAS濃度と14種類の妊娠・出産時の様々な事象に関して解析を行った結果、統計検定の繰り返しを行うことにより、偽陽性(誤判定)が生じやすくなるため、その影響を考慮した補正を実施した後もなお、8種類のいずれかの血中PFAS濃度が高いことと、10種類の妊娠・出産時の様々な事象(帝王切開分べん、子宮内胎児発育遅延、新生児合併症、胎児機能不全、前置胎盤、切迫流産、過期産、妊娠37週以降の前期破水、切迫早産、妊娠中体重増加の低下)または14種類の妊娠・出産時の様々な事象※2のいずれかがあることとの関連が見られました。過期産は5種類(PFOA, PFNA, PFDA, PFHxS, PFOS)のPFAS濃度と、妊娠中体重増加の低下は5種類(PFNA, PFDA, PFUnA, PFDoA, PFOS)のPFAS濃度との関連が観察されました。
 PFASの種類別に見ると、PFOAが7種類 (帝王切開分べん、新生児合併症、胎児機能不全、前置胎盤、切迫流産、過期産、妊娠37週以降の前期破水)、次いでPFNA(帝王切開分べん、新生児合併症、切迫流産、過期産、妊娠37週以降の前期破水、妊娠中体重増加の低下)とPFHxS(新生児合併症、胎児機能不全、前置胎盤、過期産、妊娠37週以降の前期破水、切迫早産)のどちらも6種類またはいずれか1つ以上の妊娠・出産時の様々な事象と関連していました。また、これらの関連は子宮内膜症の有無により異なり、子宮内膜症の妊婦のみでPFTrDA濃度増加と切迫早産の割合の増加や、PFDA濃度増加により帝王切開の割合が減る傾向などが見られました。PFASの一部であるPFOS, PFOA, PFHxSについては、製造・輸入の禁止等の規制が進んでいますが、血中PFAS濃度が高いと妊娠・出産経過に負の影響をもたらす可能性が示唆されました。
 しかし、子宮内膜症をはじめとするいくつかの情報が本人の申告によるものであり、その程度については不明であること、また、各PFASの影響を評価しているものの、他の化学物質を含む複合的な影響については考慮できていないことから、この研究結果には限界があります。そのため、今後さらなる研究が必要です。

4. 今後の展開

 本研究により、妊娠前期の母体中PFASの一部と妊娠・出産経過の様々な事象との関連が示唆されました。一部の事象は、今回の研究では十分検証ができませんでしたが、妊娠前期の血中PFAS濃度が未測定の残り約75,000人分の測定により、さらに統計学的検出力の高い解析が可能となります。さらに、妊娠期のPFASばく露が出生後も子どもの発育や健康に影響を与えるか明らかとなることが期待されます。

5. 用語解説

※1 PFAS:有機フッ素化合物(正式名称は Per- and polyfluoroalkyl substances という。)PFOA:ペルフルオロオクタン酸、PFNA:ペルフルオロノナン酸、PFDA:ペルフルオロデカン酸、PFUnA:ペルフルオロウンデカン酸、PFDoA:ペルフルオロドデカン酸、PFTrDA:ペルフルオロトリデカン酸、PFHxS:ペルフルオロヘキサンスルホン酸、PFOS:ペルフルオロオクタンスルホン酸
※2 妊娠・出産時の様々な事象:本研究では帝王切開分べん、妊娠37週未満の前期破水、妊娠37週以降の前期破水、前置胎盤、早期膜剥離、早産、過期産、死産、新生児合併症、切迫流産、切迫早産、子宮内胎児発育遅延、胎盤癒着、胎児機能不全、子宮内胎児死亡、母体死亡、妊娠中体重増加の低下のうち、発生率が0.1%未満であった死産、子宮内胎児死亡、母体死亡を除いた14種類を解析対象としました。
※3 出生コホート:子どもが生まれる前から成長する期間を追跡して調査する疫学手法です。胎児期や小児期のばく露が、子どもの成長と健康にどのように影響しているかなどを調査します。

6. 発表論文

題名(英語):Associations between PFAS exposure and adverse obstetric and birth outcomes in the Japan Environment and Children’s Study (JECS): Is maternal endometriosis an effect modifier?

著者名(英語): Joselyn Dionisio1, Yuki Ito1, Sayaka Kato1, Daiki Hiraoka1, Yukihiro Ohya1, Shin Yamazaki2, Tomohiko Isobe2, Shinji Saitoh3, Mayumi Sugiura-Ogasawara4, Michihiro Kamijima1; the Japan Environment and Children’s Study Group5

1ジョセリンディオニシオ, 伊藤由起, 加藤沙耶香, 平岡大樹, 大矢幸弘, 上島通浩:名古屋市立大学 大学院医学研究科 環境労働衛生学分野
2山崎新, 磯部友彦:国立環境研究所 環境リスク・健康領域 エコチル調査コアセンター
3齋藤伸治:名古屋市立大学 大学院医学研究科 新生児・小児医学分野
4杉浦真弓:名古屋市立大学 大学院医学研究科 産科婦人科学分野
5グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンター長から構成

掲載誌:Environmental Pollution 388, 127353, 2026
DOI: 10.1016/j.envpol.2025.127353

7. 問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
名古屋市立大学大学院医学研究科 環境労働衛生学 准教授 伊藤由起、教授 上島通浩

【報道に関する問い合わせ】
名古屋市立大学病院管理部経営課経営係
hpkouhou(末尾に“@sec.nagoya-cu.ac.jp” をつけてください)

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