小児・次世代環境保健研究プログラム(先導研究プログラム)
平成23~27年度
国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-119-2016
国立環境研究所は、環境省事業である「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」において、調査実施主体(コアセンター)として調査を実施しています。エコチル調査は、胎児期及び小児期の様々な環境要因への曝露が子どもの健康に及ぼす影響を調査する10万人規模の大規模出生コホート研究です。本プログラムは、エコチル調査から得られると考えられる環境要因と子どもの健康との関連性に関する多くの知見に加えて、健康影響メカニズムを解明することにより、疫学知見に生物学的妥当性を与え、また莫大な数に上る化学物質や健康影響の中から疫学研究で検討すべき対象物質や影響指標を提案するなど、これを相補・補完する研究をあわせて推進することを目的として実施しました。
子どもたちが食事から化学物質を摂取する量を推定するための就学前の子どもの食事調査を行うとともに、生体試料を用いた化学物質摂取量の推定のための高感度、ハイスループット化学分析法の開発を行いました。さらに、多数の環境要因の複雑な影響を解析するための統計モデルの開発を行いました。
一方で、疫学調査の結果をより確かにするために、化学物質の脳神経発達、免疫・アレルギー機能への影響のメカニズムを実験研究によって明らかにする研究を行いました。
主要な成果としては、食事調査では、より精度の高い食事調査票開発に利用可能なデータを食事記録法により収集し、データベース化を行いました。化学分析法開発では、主にバイオマーカーを用いた分析工程の自動化、試料大量注入法などを開発し、高感度、ハイスループットかつ比較的安価な分析法を開発し、エコチル調査での応用を行いました。統計解析手法開発においては、主要環境要因と主要アウトカムの関連性を直接効果と他の要因を介した間接効果に分けて算出できる統計手法を実際のコホート研究に適用し、従来の方法では検出できなかった関連性を検出することに成功しました。
メカニズム研究では、ビスフェノールAの免疫・アレルギー機能への影響には、免疫応答の攪乱を介した炎症性・抗炎症因子の発現変動が関与している可能性が確認されました。さらに、ビスフェノールA若齢期曝露による学習能力の低下および海馬における記憶関連遺伝子の発現の低下など、当該化学物質の脳神経系への影響を初めて明らかにしました。