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2023年7月14日

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男兄弟のみの家庭と女姉妹のみの家庭の間では次に生まれてくる子どもの性比に違いはあるのか?:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

(環境問題研究会、環境記者会、浜松市政記者クラブ、筑波研究学園都市記者会同時配付)

2023年7月14日(金)
浜松医科大学 生殖周産期医学講座
特任講師 宗修平
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
コアセンター長 山崎新
     次長 中山祥祠

 

浜松医科大学の宗修平特任講師らは国立研究開発法人国立環境研究所と共同で、エコチル調査の約6万人を対象に、生まれてくる子どもの性別と子どもの兄弟姉妹の性別の関連性について調べました。その結果、過去に連続して男児のみを妊娠・出産している場合は、連続して女児のみを妊娠・出産している場合よりも、次の妊娠機会で男児を妊娠・出産する確率が高いことがわかりました。
本研究の成果は、2023年6月24日付で国際学術誌『PLOS ONE』に掲載されました。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。

1. 発表のポイント

  • 過去に連続して男児のみを妊娠・出産している場合は、連続して女児のみを妊娠・出産している場合よりも、次の妊娠機会で男児を妊娠・出産する確率が高いことがわかりました。
  • また、男児の数、あるいは女児の数が多いご夫婦ほど、次の妊娠機会においても同一の性別の子どもを妊娠・出産する確率が高くなる傾向にありました。

2. 研究の背景

子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」という。)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、2010年度から全国の約10万組の親子を対象として、環境省が開始した大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。臍帯(さいたい)血(けつ)、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と各関係機関が協働して実施しています。
本研究は、エコチル調査で収集されたデータのうち、主に生まれてくる子どもの性別と子どもの兄弟姉妹の性別データを利用して行いました。
子どもの生物学的な性別は受精卵の段階で決まります。つまり、卵子にX染色体を運ぶ精子が受精すると女児になり、Y染色体を運ぶ精子が受精すると男児になります。このような受精時の性比※1を一次性比と呼びます。受精卵が女性の子宮内膜に着床した後、流産や死産、または中絶となることもあります。そのため、出産時の性比は一次性比と区別され、二次性比と呼ばれます。
フィッシャーの原理※2に従い、多くの動物の二次性比は1:1となりますが、ヒトではわずかに男児の方が多いことが知られています。この理由として、一次性比が男児に偏っていることが原因であるという報告もあれば、二次性比に影響を与える流産や死産となる女児の割合が男児に比べて多いために、結果として二次性比が男児に傾くという報告もあります。
今回、我々は「エコチル調査」に参加した約10万人の妊娠初期の女性を対象に、過去に妊娠した子どもの性別と今回妊娠・出産に至った子どもの性別に関連性があるかどうかを調べました。

3. 研究内容と成果

エコチル調査参加者104,062名のうち、過去に妊娠した子どもの性別が不明もしくは記載されていないことが多い流産、死産、中絶などを経験したことがある女性を除外した62,718名を対象に調査を行いました。対象者のうち、今回が初産(第一子)であった場合の子どもの二次性比は1.055でした。これに対し、第一子が男児であった場合の第二子の二次性比は1.068、反対に女児だった場合は1.039であり、わずかに第一子と同じ性別の子どもが生まれる傾向がありました。さらに、第三子以降でエコチル調査に参加した女性に着目すると、過去に連続して男児のみを妊娠・出産している場合の子どもの二次性比は1.112であり、男児へのより高い偏りを認めました。反対に、連続して女児のみを妊娠・出産していた場合では0.972と、女児への偏りを認めました。統計的な解析の結果、過去に連続して男児を妊娠・出産している場合は、連続して女児を妊娠・出産している場合より、次回も男児となる確率が7%程度高いことが明らかになりました。また、統計上このような子どもの性別の偏りが偶然生じる確率は極めて低く、何かしらの要因の結果として引き起こされた偏りであると考えています。
さらに、【男男】兄弟の場合の次の子どもの二次性比は1.100であるのに対し、【男男男】では1.169、【男男男男】では1.750と、男児がより多く連続している場合は次回も男児を妊娠する可能性が高くなっていく傾向を認めました。また、【女女】姉妹の場合の次の子どもの二次性比は0.987であるのに対し、【女女女】では0.824、【女女女女】では0.750と、女児がより多く連続している場合は次回も女児を妊娠する可能性が高くなる傾向を認めました。

4. 今後の展開

今回の調査結果では、過去に連続した「男児のみ」もしくは「女児のみ」の妊娠経験がある場合、次の妊娠機会で生まれる子どもの二次性比は両者の間で同等ではないことがわかりました。このような子どもの性別の偏りの原因が父親と母親のどちらにあるのか、あるいはご夫婦の相性による問題なのかは興味深く、今後は、その点について調べることが課題となります。この点を明らかにすることは、ヒトの性比に関する理解を進めることの一助になると考えています。

5. 参考図

図1の画像


図2の画像

6. 用語解説

※1 性比(男児/女児):本研究では、一般的な性比算出方法に従い、女児1に対する男児の割合で示しています。 ※2 フィッシャーの原理:多くの生物の性比が1:1であることを説明するためにロナルド・フィッシャーが「自然選択の遺伝学的理論(1930年)」の中で提唱した理論。集団の中で雌が多い場合、雄の方が有利に配偶者を獲得できる。そのため、雄をより多く産む個体の方が遺伝的に広がる。しかし、その結果として、反対に雄が雌より多くなると逆の現象が起きる。このように集団全体の雄雌比(男女比)は1:1で拮抗するという理論。

7. 発表論文

題名(英語):Pregnancy bias toward boys or girls: The Japan Environment and Children’s Study 著者名(英語):Shuhei So1, Fumiko Tawara2, Yu Taniguchi3, Naohiro Kanayama4, and the Japan Environment and Children’s Study Group5 1宗修平:浜松医科大学 生殖周産期医学講座 2俵史子:俵IVFクリニック 3谷口優:国立研究開発法人国立環境研究所 4金山尚裕:浜松医科大学 産科婦人科 5グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成 掲載誌:PLOS ONE DOI: 10.1371/journal.pone.0287752

8. 問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
浜松医科大学 生殖周産期医学講座
特任講師 宗修平
so(末尾に”@hama-med.ac.jp”をつけてください)

【報道に関する問い合わせ】
浜松医科大学総務課広報室
koho(末尾に”@hama-med.ac.jp”をつけてください)

国立研究開発法人国立環境研究所
企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

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