
「母親のPFASばく露と母体血・さい帯血中の脂質との関連について:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に関する研究論文の発表について
(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、文部科学記者会、 科学記者会、松本市政記者クラブ、長野市政記者クラブ同時配付)
1.発表のポイント
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母体血中PFOA、PFNA、PFDA、PFUnA、PFTrDA、PFOS濃度と母体血中の総コレステロールとの間に正の相関が見られ、母体血中PFDA、PFUnA、PFTrDA濃度と母体血中の中性脂肪との間に負の相関が見られました。また、母体血中PFOS濃度と母体血中のLDLコレステロールとの間に負の相関が見られました。一方、母体血中PFOA、PFNA、PFDA、PFUnA、PFTrDA、PFOS濃度と母体血中のHDLコレステロールとの間に正の相関が見られました。
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母体血中PFOA、PFNA、PFDA、PFUnA、PFTrDA、PFHxS、PFOSのいずれにおいても、さい帯血中の総コレステロールとの間に関連は見られませんでした。また、母体血中PFOA、PFNA、PFHxS、PFOS濃度とさい帯血中の中性脂肪との間に正の関連が見られました。一方、母体血中PFTrDA濃度とさい帯血中の中性脂肪との間に負の関連が見られました。
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PFASは血中の脂質になんらかの関連性があるという結果となりました。
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これらの結果は、おおむね過去の文献から予想される結果と一致していました。
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今後、疾病の発症(脂質異常症、心血管疾患、脳血管疾患など)や子どもの成長への影響を明らかにしていく研究が必要です。
2.研究の背景
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)」は、胎児期から小児期にかけての化学物質へのばく露(※5)が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査(※6)です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との影響を明らかにしている世界的にも注目されている調査です。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを置いています。また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された全国15の大学等に調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と各関係機関が協働して実施しています。
近年、PFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称)の脂質代謝への影響が研究されていますが、妊婦における上記の影響は完全にはわかっていませんでした。そこで本研究では、妊娠した母親の妊娠前期の血中PFAS濃度が母体血中の脂質にどう影響を与えるのか、また出産時に採取したさい帯血を使い、さい帯血中の脂質との影響を疫学的な手法を用いて調べることにしました。
3.研究内容と成果
本研究では、エコチル調査に参加している約10万人の妊婦のうち、血中PFAS濃度を調べられた約25,000人のデータの中から、脂質データが欠測している妊婦を除いた20,960人のデータを分析に使用しました。
脂質については、妊娠前期の母体血中の脂質(総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロール)、出生時のさい帯血の総コレステロールおよび中性脂肪を調べました。PFASについては、7種類の個別の合算でないPFAS(PFOA、PFNA、PFDA、PFUnA、PFTrDA、PFHxSおよびPFOS(※7))を分析対象としました。関連因子として考えられている母親の年齢等の影響も考慮した上で、母体血中のPFAS濃度と脂質との関連について多重線形回帰分析(※8)で検討を行いました。
検討の結果、母体血中のPFOA、PFNA、PFDA、PFUnA、PFTrDA、PFOS濃度と母体血中の総コレステロールとの間に正の相関が見られましたが、さい帯血中の総コレステロールとの間に関連は見られませんでした。また、母体血中のPFDA、PFUnA、PFTrDA濃度と母体血中の中性脂肪との間に負の相関が見られましたが、さい帯血中の中性脂肪との間にはPFOA、PFNA、PFHxS、PFOSで正の相関が見られました。一方、PFTrDAで負の相関が見られました。加えて、母体血中のPFOS濃度と母体血中のLDLコレステロールとの間に負の相関が見られ、母体血中PFOA、PFNA、PFDA、PFUnA、PFTrDA、PFOS濃度と母体血中のHDLコレステロールとの間に正の相関が見られました。これらの結果は、おおむね過去の文献から予想される結果と一致していました。
4.今後の展開
本研究によって、妊娠前期の母体血の一部のPFASと、妊娠前期の母体血および出生時のさい帯血の脂質との間に関連性が示唆されました。今後、妊娠中のPFAS濃度による脂質の変化が疾病の発症(脂質異常症、心血管疾患、脳血管疾患など)や子どもの成長への影響を明らかにしていく研究が必要です。
5.用語解説
※5 ばく露:食べること、触れること、吸い込むこと等により化学物質が体内に取り込まれることを言います。 ※6 出生コホート研究:母親の妊娠届時から親子を追跡調査し、さまざまな要因の妊娠や子どもへの影響を調べる研究です。 ※7 PFOA:ペルフルオロオクタン酸、PFNA:ペルフルオロノナン酸、PFDA:ペルフルオロデカン酸、PFUnA:ペルフルオロウンデカン酸、PFTrDA:ペルフルオロトリデカン酸、PFHxS:ペルフルオロヘキサンスルホン酸、PFOS:ペルフルオロオクタンスルホン酸 ※8 多重線形回帰分析:複数の要因の影響を同時に考慮した上で影響を検討するための解析手法です。
6.発表論文
題名(英語):Associations between maternal per- and polyfluoroalkyl substances exposure and lipid levels in maternal and cord blood: The Japan Environment and Children's Study 著者名(英語):Kohei Hasegawa1, Yuji Inaba2,3,4, Shoji Saito5, Takumi Shibazaki5, Shoji F. Nakayama6, Michihiro Kamijima7, Teruomi Tsukahara8,1, Tetsuo Nomiyama1,8 and the Japan Environment and Children’s Study (JECS) Group9 1 長谷川航平、塚原照臣、野見山哲生:信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室 2 稲葉雄二:信州大学医学部 小児環境保健疫学研究センター 3 稲葉雄二:長野県立こども病院神経小児科 4 稲葉雄二:長野県立こども病院生命科学研究センター 5 齋藤章治、柴崎拓実:信州大学医学部小児医学教室 6 中山祥嗣:国立環境研究所エコチル調査コアセンター 7 上島通浩:名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学分野 8 塚原照臣、野見山哲生:信州大学医学部産業衛生学講座 9 グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成 掲載誌:Environmental Research DOI:10.1016/j.envres.2024.120217(外部サイトに接続します) URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0013935124021248(外部サイトに接続します)
7.問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ】
信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室
助教 長谷川航平
【報道に関する問い合わせ】
信州大学総務部総務課広報室
電子メール:shinhp(末尾に@shinshu-u.ac.jpをつけてください)
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