
「妊婦の血中金属類濃度と前置胎盤・癒着胎盤との関係(エコチル調査)」について
(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、北九州市政記者会同時配付)
令和元年6月13日(木) 産業医科大学医学部 教授 辻 真弓 名誉教授 川本俊弘 エコチル調査福岡ユニットセンター 産業医科大学サブユニットセンター センター長 楠原浩一 国立研究開発法人国立環境研究所 エコチル調査コアセンター コアセンター長 山崎 新 次長 中山祥嗣 |
環境省及び国立環境研究所では、全国15箇所のユニットセンターと協働して、子どもの成長や健康に影響を与える化学物質等の環境要因を明らかにし、次世代の子どもたちが健やかに育つことのできる環境の実現を図ることを目的として、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を行っています。
今回、福岡ユニットセンター(産業医科大学)が中心となって取りまとめ、平成28年4月に固定が終了した約2万人の調査データを分析した論文が、令和元年6月7日《衛生・公衆衛生学》の専門誌である《Environmental Health and Preventive Medicine》に掲載されました。引き続き、子どもの成長や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待されます。
今回の論文の主な意義
(本研究に示された見解は著者ら自らのものであり、環境省の見解ではありません。)
1.エコチル調査について
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」という)は、子どもの健康に化学物質等の環境要因がどのように影響するのかを明らかにし、「子どもたちが安心して健やかに育つ環境をつくる」ことを目的に2010年度(平成22年度)に開始された大規模かつ長期に渡る疫学調査です。妊娠期の母親の体内にいる胎児期から、出生後の子どもが13歳になるまでの健康状態や生活習慣を2032年度まで追跡して調べることとしています。
エコチル調査は、研究の中心機関として国立環境研究所にコアセンターを設置し、国立成育医療研究センターに医療面からサポートを受けるためのメディカルサポートセンターを設置し、また、日本の各地域で調査を行うために、公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して行われています。
2.研究の背景について
前置胎盤や癒着胎盤は分娩時の大量出血の原因になることがあります。近年、妊娠期の環境中化学物質ばく露と前置胎盤・癒着胎盤との関連性が指摘されていますが、現在までの国内外の研究においてはまだ十分に検討されていません。そこで、大規模コホート調査の結果を用いて環境中化学物質のひとつである金属類の血中濃度と前置胎盤・癒着胎盤との関係を調べることにしました。
このような大規模コホート調査の結果を用いて複数の金属類と前置胎盤・癒着胎盤との関係を検証した研究は世界で初めてであり、画期的な研究といえます。
前置胎盤とは
胎盤が正常より低い位置(膣に近い側)に付着してしまい、そのために胎盤が子宮の出口の一部または全部を覆っている状態をいいます。
癒着胎盤とは
胎盤が母体の子宮に癒着して剥がれない状態をいいます。
使用したデータ:平成28年4月に確定した妊娠~出産時までのデータ及び平成29年4月に確定した妊婦約2万人に関する金属類の分析データを使用しています。解析対象者は単胎妊娠母親のうち、生産(死産を含まない)に限定しており、本論文に使用した最終解析対象者は17,414名です。解析には多変量ロジスティック回帰分析を使用しました。補正した因子は年齢、喫煙歴(本人、配偶者)、飲酒歴、妊娠回数、出産回数、子宮の手術歴、居住地域の8因子です。
血中金属類濃度:解析対象者を血中金属類濃度のレベルにより4つのグループ(金属類の濃度:低い、やや低い、やや高い、高い)に分けて解析しました。このとき、各グループの人数がおおよそ同数になるように各グループの金属類濃度のレベルを設定しました。
3.主な結果
各金属グループの血中濃度は以下の通りです。(低い、やや低い、やや高い、高いの順)
カドミウム ≦0.496 ng/g, 0.497-0.661 ng/g, 0.662-0.904 ng/g, ≧0.905 ng/g
鉛 ≦4.79 ng/g, 4.80-5.95 ng/g, 5.96-7.44 ng/g, ≧7.45 ng/g
●金属濃度と前置胎盤


●金属濃度と癒着胎盤
血中金属類濃度(カドミウム、鉛、水銀、セレン、マンガン)と癒着胎盤へのなりやすさの間には統計学的に有意な関係は認められませんでした。
4.考察および今後の展望について
今回は2万人弱のデータを使用しての解析でした。これから10万人のデータを解析して、再度検討を行う予定です。
引き続き、子どもの成長や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかになることが期待されます。
なお、本研究に示された見解は著者ら自らのものであり、環境省の見解ではありません。
5.発表論文
著者:
辻 真弓、柴田 英治、David J Askew、諸隈 誠一、愛甲 悠希代、千手 絢子、荒木 俊介、實藤 雅文、石原 康宏、田中 里枝、楠原 浩一、川本 俊弘、JECSグループ
タイトル:
Associations between metal concentrations in whole blood and placenta previa and placenta accreta: the Japan Environment and Children’s Study (JECS)
掲載雑誌:Environmental Health and Preventive Medicine
6.問い合わせ先
国立研究開発法人国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター
エコチル調査コアセンター
jecscore(末尾に@nies.go.jpをつけてください)(担当:中山祥嗣)