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2022年12月23日

共同発表機関のロゴマーク
妊娠期の母親の血中元素濃度と3歳までの子どもの体重推移について:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

(環境問題研究会、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配布)

2022年12月23日(金)
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
コアセンター長 山崎新 
     次長 中山祥嗣
 

   国立環境研究所エコチル調査コアセンターの山崎らの研究グループは、エコチル調査の約10万人の子どもを対象に繰り返し測定された体重データを用いて、出生後から3歳までの成長パターンを解析しました。その結果、子どもの成長パターンは5つのグループに大別でき、標準的なグループに比べて小さい成長パターンを示す群が全体の約4.7%を占めることがわかりました。また、母親の妊娠中の血中元素濃度と子どもの成長パターンとの関連を解析した結果、母親の血中鉛濃度及びセレン濃度が高い場合に、子どもの成長パターンが小さくなる可能性が高まることが示唆されました。
   本研究の成果は、2022年12月14日付でNational Institute of Environmental Health Sciences(米国国立環境健康科学研究所)から刊行される環境保健分野の学術誌『Environmental Health Perspectives』に掲載されました。
   ※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
 

1.発表のポイント

・出生から3歳までの間に体重データが収集できた約99,000名の情報をもとに、子どもの成長パターンを類型化しました。 ・追跡期間中に、日本小児内分泌学会が示す平均体重に近い成長パターンは全体の約21.9%でした。その他にも、標準的な体重で生まれてその後小さく成長する群(全体の約31.3%)や、出生時は大きくその後標準的な体重になる群(全体の約28.1%)、出生時に大きくその後も大きく成長する群(全体の約14.0%)、出生時に小さくその後も小さく成長する群(全体の約4.7%)が存在することがわかりました。 ・母親の妊娠中の血中元素類と出生後の子どもの成長パターンとの関連を調べたところ、母親の血中鉛※1濃度やセレン※2濃度が高い場合に、子どもが「出生時に小さくその後も小さく成長する群」となるリスクが高くなることが明らかになりました。 ・母親の血中水銀※3濃度が高いことまたは血中マンガン※4濃度が低いことが子どもの成長パターンに影響することが明らかになりました。 ・本研究では、我が国における子どもの成長パターンを解析した結果、全体の約5%が小さい成長パターンを示すことが明らかになりました。本研究は、妊娠中の母親の血中元素濃度と、子どもの成長パターンとの関連を示した初めての報告です。

2.研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下「エコチル調査」という。)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露※5が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で10万組の親子を対象として開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート※6調査です。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 これまでの国内外の研究では、子どもの体重を出生時の低体重(Low Birth Weight)のみで評価した研究が多く、子どもの成長パターンを大規模な繰り返し調査のデータを基に評価している研究はありませんでした。また、母親の妊娠中の血中元素濃度が、子どもの成長パターンに影響するのかどうかは明らかにされていませんでした。

3.研究内容と成果

 本研究では、エコチル調査の対象者のうち、出生から3歳までの間に体重データが収集できた約99,000名の情報をもとに、子どもの成長パターンを類型化しました。また、約95,000名の母親の妊娠中の血中元素濃度(カドミウム・マンガン・水銀・セレン・鉛)と子どもの成長パターンとの関連性を調べました。
 子どもの体重は、出生時、1か月、0.5歳、1歳、1.5歳、2歳、2.5歳、3歳の合計8時点の体重データのうち、2時点以上データが揃ったものを解析対象者としました。体重データは、性別と月齢毎の体重SDスコア※7に換算し、統計モデルにより成長パターンを類型化しました。母親の血中元素濃度を4グループに分けた上で、子どもの成長パターンとの関連性を分析しました。
 その結果、出生から3歳までの間の子どもの成長パターンは5つに分類できることがわかりました。「標準的な成長」を示した群(全体の約21.9%)、「標準的な体重で生まれてその後小さく成長」を示した群(全体の約31.3%)、「出生時は大きくその後標準的な体重になる成長」を示した群(全体の約28.1%)、「出生時に大きくその後も大きく成長」を示した群(全体の約14.0%)、そして、「出生時に小さくその後も小さく成長」を示した群(全体の約4.7%)が存在することがわかりました。
 母親の血中元素濃度と子どもの成長パターンの関連性を調べた結果、妊娠中の母親血中鉛濃度やセレン濃度が高い場合、子どもが「出生時に小さくその後も小さく成長」を示すリスクが高いことが明らかになりました。また、母親の血中水銀濃度が高いことやマンガン濃度が低いことも子どもの発育パターンに影響することが明らかになりました。
 本研究により、我が国における子どもの成長パターンが明らかになり、「出生時に小さくその後も小さく成長」を示す子どもが全体の約5.0%いることがわかりました。妊娠中の母親の血中元素濃度が、子どもの成長パターンに影響することを示した初めての報告です。

4.今後の展開

 本研究では、出生時から3歳までの子どもの体重の推移を調べたことで、全体の約4.7%が「出生時に小さくその後も小さく成長」を示すことがわかりました。また、全体の約31.3%が「標準的な体重で生まれてその後小さく成長」を示し、本研究対象者の3人に1人は標準的なグループに比べて小さく成長するパターンを示すことがわかりました。出生以降に低水準で成長する子どもに対する介入や対策の構築は、公衆衛生上重要な課題です。また、小児期を通じて体重が小さく推移する子どもにどのような健康事象が発生しやすいのかは、今後の研究課題です。さらに、小学校に入学するまでの幼児期や、学童期、思春期においても体重の変化は健康管理の重要な指標になるため、追跡期間を延長して体重の変化パターンを明らかにすることも今後の検討課題です。
 なお、セレンは生命を維持するために必要な元素(必須微量元素)であり※2、適切な量を摂取することが必要です。

5.参考図

子どもの成長パターンと母親の鉛濃度と子どもの成長パターンとの関連性の図

6.用語解説

※1 鉛:職業や環境汚染により体内に取り込まれることがある重金属です。高濃度の鉛ばく露があった場合に、造血系、中枢・末梢神経系などに障害がでることがあります。近年では、低濃度鉛ばく露と子どもの精神神経発達への影響が懸念されています。
※2 セレン:土壌や水、さまざまな食品に含まれる必須微量元素です。水銀を解毒する可能性も報告されています。不足した場合は、心不全、四肢の筋肉痛、筋力低下がみられます。過剰摂取では、下痢、頭痛、しびれ、神経過敏などの症状がみられます。
※3 水銀:魚介類の摂取や環境汚染により体内に取り込まれることがある重金属です。低濃度の水銀ばく露と子どもの精神神経発達への影響が懸念されています。
※4 マンガン:土壌や水、さまざまな食品に含まれる必須微量元素です。不足した場合は、糖代謝異常や生殖機能が低下する可能性があります。中毒症状としては、中枢神経系障害、マンガン肺炎などが起こる可能性があります。
※5 ばく露:化学物質などの環境要因にさらされることを指します。
※6 出生コホート調査:子どもが生まれる前から成長する期間を追跡して調査する疫学手法です。
※7 体重SDスコア:子どもの体重が、同じ年齢の子どもの標準値からどの程度離れているかを表したスコアで、標準値より重くなるほど数字が大きくなり、標準値より軽くなるほど数字が小さく(マイナスに)なります。

7.発表論文

題名(英語):Maternal metals exposure and infant weight trajectory: the Japan Environment and Children’s Study (JECS)

著者名(英語):Yu Taniguchi1, Shin Yamazaki1, Shoji F. Nakayama1, Makiko Sekiyama1, Takehiro Michikawa2, Tomohiko Isobe1, Miyuki Iwai-Shimada1, Yayoi Kobayashi1, Hiroshi Nitta1, Mari Oba2, Michihiro Kamijima3, and the Japan Environment and Children’s Study Group4
1谷口優、山崎新、中山祥嗣、関山牧子、磯部友彦、岩井美幸、小林弥生、新田裕史、:国立環境研究所
2道川武紘、大庭真梨:東邦大学
3上島通浩:名古屋市立大学
4グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成

掲載誌:Environmental Health Perspectives

DOI:10.1289/EHP10321

8.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立環境研究所 
環境リスク・健康領域 主任研究員 谷口優

【報道に関する問い合わせ】
国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

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