広く社会に貢献する環境研究の継承と展開
理事 森口 祐一
本年4月から、国立環境研究所(以下、国環研)は第5期中長期計画期間に入りました。5年間を区切りとする計画を業務の骨格とする独立行政法人化からちょうど20年、人間にたとえるなら、成人式を迎えた勘定になります。中長期計画の概要は前号でも紹介されていますが、ここでは、計画の背景、第4期と対比した特徴、新たな組織について紹介します。
中長期計画は、主務官庁の環境省から示される中長期目標の達成のための計画として策定します。中長期目標の冒頭には、国の政策体系上の国環研の位置付けに続き、国環研の役割(ミッション)が示されています。「国民経済の健全な発展その他の公益に資するため研究開発の最大限の成果の確保」という国立研究開発法人としてのミッションには「公益」という語が使われており、国環研の憲章の前半部を締めくくる「広く社会に貢献」という言葉の重みと深みを改めて受け止めています。
一方、環境大臣の諮問機関である中央環境審議会で策定される「環境研究・環境技術の推進戦略(以下、推進戦略)」においても、環境研究の中核機関としての国環研の役割が示されています。そこでは、新たな研究テーマの先導、社会的な要請の特に強い課題への対応、国立研究開発法人としての環境省や関係省庁との連携強化と社会への貢献、他の国立研究開発法人・地域の環境研究拠点との連携強化、国際的な連携の推進などの重要性が示されています。
こうした背景のもとで策定した第5期計画は、国立環境研究所法の規定に沿って、「環境研究に関する業務」、「環境情報の収集、整理及び提供等に関する業務」、「気候変動適応に関する業務」を主要な事業のまとまりとして構成されています。第5期計画では、環境情報の収集・整理・提供には、研究成果の普及を含むことを明示しました。気候変動適応法のもとで新たに重要なミッションとなった気候変動適応に関する業務は、以下に示す環境研究に関する業務と同列の調査研究・技術開発と、気候変動適応推進に関する技術的援助から構成されます。
環境研究に関する業務については、まず、環境研究の柱となる6つの分野と長期的に体系化を目指す2つの分野を挙げ、創立以来培われてきた専門分野を継承しつつ、新たな要請に応えるための骨組みを示したうえで、重点的に取り組む項目を以下の4項目にまとめました。
(1)重点的に取り組むべき課題への統合的な研究の推進
(2)環境研究の各分野における科学的知見の創出等の推進
(3)国の計画に基づき中長期計画期間を超えて実施する事業の着実な推進
(4)国内外機関との連携及び政策貢献を含む社会実装の推進
項目(1)の表題は第4期計画を継承したもので、5年という年限での達成目標を強く意識し、分野を超えて統合的に取り組むものです。第4期には推進戦略に掲げられた重点5分野と直接対応する課題解決型プログラム5課題と災害環境研究プログラム3課題から構成されていたのに対し、第5期は、地球規模の持続可能性と、地域における環境・社会・経済の統合的向上の同時実現に向けた課題を解決すべく、統合的・分野横断的なアプローチで取り組む「戦略的研究プログラム」8課題に再編しました。特に喫緊の課題である気候危機問題に関しては、連携して一体的に推進するため、4つの関係プログラムで構成する「気候危機対応研究イニシアティブ」を設定しました。
項目(2)は環境問題の解決のための源泉となるべき科学的知見の創出のために基礎・基盤的な業務に着実に取り組むもので、創造的・先端的な科学の探究を基礎とする「先見的・先端的な基礎研究」、政策のニーズに対応した実践的研究である「政策対応研究」、長期間継続してきた地球環境モニタリングなど、学術・政策を支援する「知的研究基盤整備」の3項目で構成しています。分野ごとのこれらの取り組みが、研究力を高め、環境政策に科学的、技術的基盤を提供するうえで重要・不可欠であることは言うまでもありません。
項目(3)は第4期に研究事業という区分に位置付けて実施していた事業のうち、特に規模が大きい衛星観測に関する事業と子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の2事業で、これらは、中長期計画とは別に定められた国の計画に沿って、実施組織の中で中核的な役割を担うこととされているものです。
項目(4)は推進戦略で強調された「連携」、科学技術基本計画のもとで国立研究開発法人に求められる「社会実装」というキーワードに呼応したものです。第4期に実施したステークホルダーとの対話による助言も参考に、研究開発成果の社会実装・社会貢献を推進するための連携支援機能の強化として、連携推進部を新たに設置しました。第4期に始めた対話オフィスの活動は、連携推進部社会対話・協働推進室のもとで継承します。なお、企画部、総務部、環境情報部はこれまで企画・管理・情報部門(略して管理部門)と呼んでいましたが、連携推進部も含めて企画・支援部門という総称に改めました。福島支部を福島地域協働研究拠点と改称したことは、さまざまな主体との協働による地域社会への貢献の意志をより明確に示そうとするものです。
研究実施部門と企画・支援部門との協働、多様な主体とのさらなる連携が、憲章にうたわれた、国環研で働くことへの誇りとその責任の自覚をさらに高め、高い水準の研究につながるものと考えています。皆様の一層のご理解とご支援をお願いいたします。
期 | 期間 | 体制 | 研究業務の構成 | ||||||
研究実施部門 | 企画・支援部門(旧企画・管理・情報部門) | 研究プログラム | 政策対応 型研究 |
基盤的 調査研究 |
研究基盤整備 | 研究に関連 する事業 |
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第1期 中期計画 |
2001年4月~2006年3月 | 独立行政法人 | 6研究領域、 3研究センター、環境研究基盤技術ラボ |
主任研究企画官室 総務部 環境情報センター |
6重点研究プログラム:温暖化、成層圏オゾン、化学物質、生物多様性、東アジア、大気汚染 | 2政策対応型調査・研究:循環型社会・廃棄物、化学物質環境リスク | 6研究領域 | 知的研究基盤 (環境標準試料等) |
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第2期 中期計画 |
2006年4月~2011年3月 | 独立行政法人 (非公務員型へ) |
6研究領域、3研究センター+1研究グループ、環境研究基盤技術ラボ | 企画部 総務部 環境情報センター |
4重点研究プログラム:温暖化、循環型社会、環境リスク、アジア自然共生 | 6研究領域 | 知的研究基盤 (環境標準試料等) |
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第3期 中期計画 |
2011年4月~2016年3月 | 独立行政法人(2015年4月より国立研究開発法人) | 8研究センター | 企画部 総務部 環境情報部 |
課題対応型研究プログラム:5重点研究プログラム:温暖化、循環型社会、 化学物質管理、東アジア、生物多様性、5先導研究プログラム |
災害環境研究(2013年3月に中期計画に位置づけ) | 8研究分野 | 基盤整備(GOSAT、エコチル調査、タイムカプセル他) | |
第4期 中長期計画 |
2016年4月~2021年3月 | 国立研究開発法人 | 7研究センター、福島支部、適応センター(2018.12~) | 企画部 総務部 環境情報部 |
課題解決型研究プログラム:低炭素、資源循環、自然共生、安全確保、統合 災害環境研究プログラム:環境回復、環境創生、災害環境マネジメント |
8研究分野+災害環境分野 | 基盤整備(地球観測、タイムカプセル他) | 研究事業 GOSAT、エコチル調査、化学物質リスク、観測・適応、災害廃棄物、社会対話 |
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第5期 中長期計画 |
2021年4月~2026年3月 | 国立研究開発法人 | 6領域、適応センター、 福島拠点 |
企画部 連携推進部 総務部 環境情報部 |
戦略的研究プログラム:気候変動・大気質、物質フロー革新、包括環境リスク、自然共生、脱炭素・持続社会、持続可能地域共創、災害環境、気候変動適応 | 基礎・基盤的取組 8研究分野+基盤計測 |
二大事業 GOSAT、 エコチル調査 |
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先見的・先端的な基礎研究 | 政策対応研究 | 知的研究基盤(地球観測、試料・生物の保存・提供他) |
執筆者プロフィール

前回の寄稿で、都内への通勤生活から職住近接への転換による運動不足への懸念について書いていましたが、COVID-19により県外へ出向く回数がさらに減りました。実は多少「鉄分高め」なのですが、高輪ゲートウェイ駅も虎ノ門ヒルズ駅もまだ見ていないことに今頃になって気づきました。