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2022年6月24日

発表機関のロゴマーク
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
胎児期のカドミウムばく露が子どもの発達に与える影響について

(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、⽶⼦市政記者クラブ同時配付)

2022年6月24日(金)
鳥取大学医学部社会医学講座
健康政策医学分野
 助教     増本 年男
エコチル調査鳥取ユニットセンター
 センター長  中村 廣繁
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
コアセンター長 山崎 新
     次長 中山 祥嗣
 

   鳥取大学医学部の増本助教らの研究チームは、国立研究開発法人国立環境研究所(以下「国立環境研究所」という。)と共同で、エコチル調査の約10万人のデータを用い、胎児期のカドミウムばく露と3歳までの子どもの発達の関連について解析しました。その結果、6ヶ月時点から1歳半時点までの子どもの発達の遅れとの関連が見られました。しかし、遅れていた子どもでも2歳以降では発達の遅れが見られなくなり、その関連は消失しました。

   本研究の成果は、令和4年5月28日付でエルゼビア社から刊行される環境衛生分野の学術誌「International Journal of Hygiene and Environmental Health」に掲載されました。

※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
 

1.発表のポイント

・妊娠中に採取した母親の血液中のカドミウム濃度と6ヶ月時点から3歳時点までの子どもの発達(ASQ-3)との関連を調べました。
・妊娠中の母親の血中カドミウム濃度と子どもの6ヶ月時点から1歳半時点までの発達の遅れとの間に関連が見られました。
・その関連は2歳以降、3歳までの発達では観察されませんでした。

2.研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査*1です。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 カドミウム*2は自然界にありふれている重金属元素です。日本人にとっては、イタイイタイ病の原因となった重金属元素として有名です。現在の日本人の血中カドミウム濃度はイタイイタイ病を起こす濃度よりはるかに低いですが、血中カドミウム濃度が低い場合でもヒトの健康に影響を与える可能性があります。近年、動物実験にてカドミウムばく露が神経の発達に影響を与えることが報告されています。しかし、人間において、カドミウムばく露が神経発達にどのような影響を与えるのかはよく分かっていません。そこで、本研究では、エコチル調査のデータを用いて、胎児期のカドミウムばく露*3と3歳までの発達との関連について、疫学的手法を用いて調べることにしました。

3.研究内容と成果

 本研究では、全国約10万組の参加者のうち、死産と妊婦の血中カドミウムの分析ができなかった母子を除いて96,165組の母子を解析対象としました。子どもの神経発達を評価には、養育者が記入したAges and Stages Questionnaire 3rd edition (ASQ-3) *4を用い、出生後半年ごとに評価しました。
ASQ-3は発達の指標として、コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人-社会の5つの領域でそれぞれの値を算出します。胎児期のカドミウムばく露の指標として、母体血(妊娠中期または妊娠末期)中のカドミウム濃度を測定しました。カドミウム濃度別に4つのグループに分け、以降の解析に用いました。
 妊娠中の喫煙状況、妊娠中の水銀や鉛といった他の重金属ばく露等を考慮して、胎児期のカドミウムばく露と子どもの発達について、母親の出産時の年齢や社会経済状況、既往歴などの影響を制御した解析方法を用いて検討しました。さらに、先に示したASQ-3の5つの領域について、各年齢時点で、遅延している領域の数とカドミウム濃度との関連性も検討しました。
 その結果、全体の解析では、胎児期のカドミウムばく露の指標とした母体血中のカドミウム濃度と6ヶ月時点、1歳時点、1歳半時点での発達遅延とに関連がみられました。さらに、カドミウムばく露が、どの遅延している領域と関連しているのかについて調べてみると、微細運動および問題解決との関連が見られ、単一ではなく複数の領域での遅延と関連があることがわかりました。そして、これらの関連は2歳〜3歳では見られなかったことから、カドミウムばく露による発達への影響は消失したと考えられます。

4.今後の展開

 本研究は、96,165組の母子データを用いて、胎児期のカドミウムばく露とその後の子どもの発達との関連について解析を行いました。その結果、胎児期のカドミウムばく露によって1歳半までの子どもの発達には影響があり、2歳〜3歳については影響が見られないといった興味深い結果が見られました。一方で、本研究では以下のような問題点があります。1)子どもが出生後に受けたカドミウムばく露は考慮に入れておらず、その影響は制御できていないこと、2)胎児期のトータルとしてのばく露量ではなく、その期間中のある一時点で測定した母体血中濃度を指標としているので、胎児の受けた実際のカドミウムばく露量との関連性を評価したことにはならないこと、3)ASQ-3は母親の目から見た発達の評価であるので、評価基準にばらつきがある可能性があること、4)ASQ-3の評価結果が得られなかった参加者の情報が反映されていないことが挙げられます。エコチル調査では、カドミウム以外にも様々な化学物質を測定しています。引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因について調査します。

5.用語解説

※1 出生コホート:子どもが生まれる前から成長する期間を追跡して調査する疫学手法です。胎児期や小児期のばく露が、子どもの成長と健康にどのように影響しているか等を調査します。

※2 カドミウム:カドミウムは自然環境に広く存在する重金属元素です。自然に、また産業活動の結果として環境中に排出されたカドミウムは、土や水等から動植物に取り込まれるため、農畜水産物等の食品やタバコに含まれることがあります。食品、喫煙等を通じてヒトの体の中に入ることで、ヒトの健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

※3 ばく露:化学物質等の環境要因にさらされることをいいます。

※4 Ages and Stages Questionnaire 3rd edition (ASQ-3):子どもの発達を測る指標です。コミュニケーション(言語の発達と他者との意思伝達能力)、粗大運動(歩行や階段の上り下りなど体の運動能力)、微細運動(小さな物を掴む・物を投げるなど手足の能力)、問題解決(簡単な課題解決能力)、個人-社会(社会との関わりに関する能力)の5つの領域がそれぞれ算出されます。それぞれの領域ごとに基準となる点数が存在し、その点数を下回ると専門家での診断が推奨されます。

6.用語解説

題名(英語):Association between prenatal cadmium exposure and child development: the Japan Environment and Children’s Study

著者名(英語):Toshio Masumoto1, Hiroki Amano1, Shinji Otani2, Michihiro Kamijima3, Shin Yamazaki4, Yayoi Kobayashi4, Youichi Kurozawa1 and the Japan Environment and Children’s Study Group5

1増本年男、天野宏紀、大谷眞二、黒沢洋一:鳥取大学医学部
2大谷眞二:鳥取大学国際乾燥地研究教育機構
3上島通浩:名古屋市立大学
4山崎新、小林弥生:国立環境研究所
5グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成

掲載誌:International Journal of Hygiene and Environmental Health
DOI: 10.1016/j.ijheh.2022.113989

7.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
鳥取大学 医学部 社会医学講座 健康政策医学分野
助教 増本年男
tmasumoto@tottori-u.ac.jp
0859-38-6113

【報道に関する問い合わせ】
⿃取大学 米子地区事務部総務課広報係
me-kouhou@adm.tottori-u.ac.jp
0859-38-7037