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2023年11月9日

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妊娠前からの母親の食事の質と子どものぜん息症状(ぜん鳴)との関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

(環境問題研究会、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)

2023年11月9日(木)
国立研究開発法人 国立環境研究所 
エコチル調査コアセンター
 センター長 山崎新
    次長 中山祥嗣

 

 国立環境研究所エコチル調査コアセンターの大久保公美JSPS特別研究員(RPD)、中山祥嗣次長らは、国立成育医療研究センター・アレルギーセンターの大矢幸弘センター長と共同で、エコチル調査の70,530組の母子を対象に、子どもの1歳から4歳までのぜん(喘)鳴※1の推移パターンによって類型化し、妊娠前からの母親の食事の質と子どものぜん鳴パターンとの関連について解析しました。その結果、子どものぜん鳴パターンは、ほとんど症状のない「症状なし」群(全体の69.1%)、2歳までは症状がなく、その後急増する「幼少期発症」群(6.2%)、2歳をピークにその後症状が消える「一過性」群(16.5%)、そして持続的にぜん鳴症状を示す「持続性」群(8.2%)の大きく4つに分かれました。また、妊娠前からの母親の食事の質と子どものぜん鳴パターンとの関連を調べた結果、母親の食事の質が高いほど、「一過性」群や「持続性」群になるリスクが低いことがわかりました。この結果から、妊娠前から栄養バランスのとれた質の高い食事をとることが、子どもの特定のぜん鳴を緩和する可能性があることがわかりました。
 本研究の成果は、2023年10月18日付でWILEY Online Libraryから刊行されるアレルギーおよび臨床免疫学分野の学術誌『Allergy』に掲載されました。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。

1.発表のポイント

  • 子どもの1歳から4歳までのぜん鳴パターンは4つに大別でき、持続的にぜん鳴を示すパターン(持続性群)が全体の8.2%を占めることがわかりました。
  • 妊娠前からの栄養バランスのとれた質の高い食事は、子どものある特定のぜん鳴を緩和する可能性が明らかになりました。特に、ぜん息※2の発症を引き起こすリスクの高い「持続性」パターンやぜん息と誤って診断され不必要な治療を受ける可能性のある「一過性」パターンは、質の高い母親の食事によって低減される可能性があることがわかりました。
  • 本研究は、妊娠前からの母親の食事の質と子どものぜん鳴パターンとの関連を明らかにした世界で初めての研究です。

2.研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」という。)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 これまでの国内外の研究により、妊娠前および妊娠中の母親の食事は、生まれてきた子どものぜん息症状に関連しているのではないかと考えられてきました。しかし、統一した見解は得られておらず、よくわかっていませんでした。その理由の一つとして、ぜん息は症状が多様で、人によって性質が異なるためと考えられています。特にぜん鳴は、気管支の炎症や細菌感染等のさまざまな原因で発症するため、ぜん息症状との区別が難しいとされています。
 そこで本研究では、子どもの1歳から4歳までのぜん鳴をその症状の推移パターンによって類型化し、妊娠前からの母親の食事の質と関連があるかを調べました。

3.研究内容と成果

 本研究では、エコチル調査への参加者のうち、1歳、2歳、3歳、4歳時における合計4時点のうち、3時点以上のぜん鳴の有無に関するデータを有し、かつ妊娠前の母親の食事やその他解析で使用するデータがそろっている母子70,530組を解析対象としました。保護者の回答による1歳から4歳までのぜん鳴の有無によって、ぜん鳴の推移パターンを類型化しました。妊娠前からの母親の食事の質の評価には、平成17(2005)年に厚生労働省と農林水産省の共同により策定された食事バランスガイド※3で示されている目安範囲の下限値をもとに、食事バランススコア(得点が高いほど、食事の質が高い)を算出しました。このスコアで対象者を4群に分け、子どものぜん鳴パターンとの関連を調べました。
 その結果、1歳から4歳までの間の子どものぜん鳴パターンは4つに大別されました。具体的には、ほとんど症状のない「症状なし」群(全体の69.1%)、2歳までは症状がなく、その後急増する「幼少期発症」群(6.2%)、2歳をピークに4歳までに症状が消える「一過性」群(16.5%)、そして持続的にぜん鳴症状を示す「持続性」群(8.2%)に分類されました。いずれも発作時の症状としては、ぜん息発作との区別は困難で、ゼイゼイ・ヒューヒューという音がするので、数年間経過をみなければどの群に属しているのかはわかりません。
 また、妊娠前の母親の食事の質と子どものぜん鳴パターンとの関連を調べたところ、母親の食事の質が高いほど、「一過性」群と「持続性」群になるリスクが低いことがわかりました。一方、母親の食事の質と「幼少期発症」群との関連は見られませんでした。
 以上の結果より、妊娠前から栄養バランスがとれた質の高い食事は、幼少期における子どもの特定のぜん鳴を緩和する可能性が明らかになりました。特に、ぜん息の発症を引き起こすリスクの高い「持続性」パターンやぜん息と誤って診断され不必要な治療を受ける可能性のある「一過性」パターンは、質の高い母親の食事によって低減される可能性があることがわかりました。

4.今後の展開

 ぜん鳴の推移パターンによって類型化したことにより、母親の食事の質は特定のぜん鳴に関連していることが明らかになりました。「幼少期発症」群との関連が見られなかった理由の一つとしては、2歳以降のぜん鳴が急増していることから、ウイルス性気道感染症など他の要因がより強く関連している可能性が考えられます。なお、本研究は1歳から4歳までのぜん鳴の推移パターンを類型化していますが、それ以降の症状の推移パターンは不明です。そのため、追跡期間を延長してぜん鳴の推移パターンを明らかにするとともに、母親の食事の質との関連を調べていく予定です。

5.参考図

参考図の画像

6.用語解説

※1 ぜん鳴: 気管や気管支が狭くなることで、呼吸時に、ゼーゼーやヒューヒューという音がする状態です。

※2 ぜん息: 気管支の慢性的な炎症が原因で、少しの刺激でも腫れたり、痰(たん)がでたり、周りの筋肉が縮み、気管支が狭くなることで、呼吸が苦しくなる状態を繰り返す病気です。

※3 食事バランスガイド: 望ましい食生活についてのメッセージを示した「食生活指針」を具体的な行動に結びつけるものとして、1日に「何を」「どれだけ」食べたらよいかの目安を分かりやすくイラストで示したものです。厚生労働省と農林水産省の共同により2005年6月に策定されました。

7.発表論文

題名(英語):Periconceptional maternal diet quality and offspring wheeze trajectories: Japan Environment and Children’s Study
著者名(英語):Hitomi Okubo1, Shoji F Nakayama2, Yukihiro Ohya3 and the Japan Environment and Children’s Study Group4
1大久保公美:国立研究開発法人国立環境研究所、日本学術振興会 2中山祥嗣:国立研究開発法人国立環境研究所 3大矢幸弘:国立研究開発法人国立成育医療研究センター 4グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター長、各ユニットセンターから構成
掲載誌:Allergy DOI: 10.1111/all.15916(外部サイトに接続します)

8.問い合わせ先

国立研究開発法人国立環境研究所
環境リスク・健康領域
エコチル調査コアセンター
次長 中山祥嗣
305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
E-mail: jecs-pr(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
企画部広報室
E-mail:kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

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