
妊娠中のビスフェノールA体内取り込みが妊娠経過および出生児に与える影響の解析:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
(文部科学記者会、科学記者会、厚生労働記者会他 名古屋教育医療記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)
本研究における限界は、尿中BPの測定が妊娠前期の1時点のみであることです。また、尿中BPA濃度は採尿時直近のばく露のみを反映するため、低レベルのBPAばく露が母子の健康に及ぼす長期的な影響や、今回の研究では解析対象が生産児に限定されるため解析できなかったBPAと流産・死産との関連については、今後の研究が望まれます。
本研究の成果は、令和7年7月4日付でElsevier社から刊行される環境分野の学術誌『Environment International』に掲載されました。 ※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。 ※本研究に関する補足説明資料を作成しました。以下のURLも併せて確認ください。 https://www.nagoya-cu.ac.jp/press-news/202602101400/
1. 発表のポイント
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エコチル調査参加者のうち4,523人の妊婦の妊娠前期の尿において、BPAは71.5%、BPF, BPS, BPAFは0.0~11.9%の妊婦で検出されました。
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尿中のBPAの濃度と早産、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、胎児発育不全、巨大児、低出生体重児、児の身体的および染色体異常との関連は認めませんでした。
2. 研究の背景
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査(用語解説※4)です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしています。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
妊娠中にBPをはじめとする内分泌かく乱化学物質にさらされると、妊娠経過や生まれた子どもの健康状態に影響を及ぼす可能性が諸外国からの論文を中心にいくつも報告されており、特にBPAによる影響が注目されています。BPAはかつて食品の包装、飲料水の容器、おもちゃなどに世界中で使用されていましたが、日本では2000年代初頭に哺乳瓶や子どもの食器などへの使用が規制され、代わりにBPF, BPS, BPAFを含む代替品が普及しています。
BPAの生殖・妊娠への影響について、人を対象にした調査報告は世界的に多くあり、杉浦教授らは平成17年(2005)年に習慣流産の患者において、血中のBPA濃度が統計学的に高いことを報告しています。しかし、日本においては研究が限られており、影響あり、なしとする研究がともにあって結論が一貫していないことに加え、特に、妊娠初期についての知見が不充分です。そこで本研究では、エコチル調査に参加する4,523組の親子のデータをもとに、妊婦の尿中BPA濃度と妊娠経過、新生児体重および先天異常との関係について調べました。
3. 研究内容と成果
①妊娠前期における尿中BP濃度
妊娠前期に採取された尿中にBPAが検出された妊婦の割合は71.5%で、その濃度の中央値は0.40 µg/Lでした。一方、BPF, BPS, BPAFについて検出された妊婦の割合はそれぞれ1.3%、11.9%、0%でした。したがって、以後の解析は統計学的に意味のあるBPAのみについて行いました。
BPAの推定一日摂取量の中央値は0.008 µg/kg 体重/日でした。研究参加者4,523人のうち86.6%の妊婦の推定摂取量は、欧州食品安全機関(EFSA)が定める耐容一日摂取量(0.0002 µg/体重/日)を越えていました。
②尿中BPA濃度と妊娠経過、新生児体重および先天異常との関係
尿中BPA濃度と早産、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、胎児発育不全、巨大児、低出生体重児、児の身体的および染色体異常との間に関連はみられませんでした。このため、現時点の日本におけるBPAへのばく露量では、解析した健康項目への影響はないだろうと考えられます。ただし、染色体異常については4人(0.1%)と低頻度であり、また、染色体異常が生じやすい受精前後の時期のばく露状況の情報が得られないために、十分な解析ができませんでした。
4. 今後の展開
本研究における限界は、尿中BPの測定が妊娠前期の1時点のみであることです。尿中BPA濃度は採尿時直近のばく露のみを反映するため、妊娠中期・後期におけるBPのばく露の影響については、低レベルのBPAばく露が母子の健康に及ぼす長期的な影響とともに、今後の研究が必要です。また、BPAと流産・死産との関連については、今回の研究では解析対象が生産児に限定されるため解析できませんでした。これについても、今後の研究が望まれます。
5. 用語解説
※1~※3 (冒頭枠内で説明)
※4出生コホート調査:子どもが生まれる前から成長する期間を追跡して調査する疫学手法です。胎児期や小児期のばく露が、子どもの成長と健康にどのように影響しているかなどを調査します。
6. 発表論文
題名(英語):Effect of maternal bisphenol exposure on adverse pregnancy and neonatal outcomes: The Japan Environment and Children’s Study
著者名(英語):Mayumi Sugiura-Ogasawaraa,*, Neeranuch Suwannarinb, Hazuki Tamadac,d, Takeshi Ebarae, Yuki Itoc, Shoji F. Nakayamab, Mai Takagib, Shinji Saitohf, Michihiro Kamijimac, the Japan Environment and Children’s Study Groupg
a杉浦真弓:名古屋市立大学大学院医学研究科産科婦人科分野
bNeeranuch Suwannarin, 中山祥嗣、高木麻衣:国立研究開発法人国立環境研究所
環境リスク・健康領域 エコチル調査コアセンター
c玉田葉月、伊藤由起、上島通浩:名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学分野
d玉田葉月:愛知淑徳大学 食健康科学部 食創造科学科
e榎原 毅:産業医科大学 産業生態科学研究所 人間工学研究室
f齋藤伸治:名古屋市立大学大学院医学研究科 新生児・小児医学分野
gグループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成
掲載誌:Environment International
DOI: 10.1016/j.envint.2025.109663
7. 問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ】
名古屋市立大学
産科婦人科学 教授 杉浦 真弓
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター 次長 中山 祥嗣
【報道に関する問い合わせ】
名古屋市立大学病院管理部経営課経営係
hpkouhou(末尾に“@sec.nagoya-cu.ac.jp” をつけてください)
国立環境研究所企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)


