エコチル調査の研究成果論文が医学論文誌(Journal of the American Heart Association)で評価され、
巻頭辞(Editorial)で取り上げられました
(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付同時配付)
この研究は、妊娠前からの食事の質が「妊娠高血圧症候群※1」の発症にどのように影響するかを調査したものです。結果として、野菜や果物、魚、全粒穀物、低脂肪乳製品を多く摂取し、肉類や砂糖入り飲料を控えた健康的な食事をしている女性は、妊娠高血圧症候群の発症リスクが低いことが示されました。
巻頭辞では、この研究が妊娠前からの食生活を評価した点、さらに約8万人の日本人妊娠女性を対象にした大規模調査によって、妊娠前からの食生活が妊娠中の健康に及ぼす影響を明らかにした点が高く評価されています。特に、早い段階での食事改善が効果的かつ低コストの予防策となる可能性があり、妊娠を計画している女性にとって有益な情報とされています。そして、若い女性が妊娠前から食事に対して意識を高めることの重要性が強調されています。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
1.発表のポイント
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エコチル調査の研究成果論文「妊娠前からの母親の食事の質と妊娠高血圧症候群発症との関連」が、医学論文誌(Journal of the American Heart Association)の巻頭辞(Editorial)で取り上げられました。
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この研究は、妊娠高血圧症候群の予防における妊娠前からの食事の重要性を示したもので、今後の研究や議論に大きな影響を与える成果として注目されました。
2.背景
妊娠高血圧症候群は、妊娠中や出産時の合併症リスクを高め、母子の命にかかわるだけでなく、胎児の発育不全や低出生体重など、子どもの健康にも深刻な影響を与える可能性があります。さらに妊娠高血圧症候群を経験した母親とその子どもは、将来、心臓病などのリスクが高まることがわかっています。このように、妊娠高血圧症候群は母親や子どもの生涯にわたる健康に影響を与えるため、その予防に役立つ要因を特定することが非常に重要です。
その中でも食生活が母親や子どもの健康にとって重要なことはよく知られていますが、成人向けに推奨されている健康的な食事が妊娠高血圧症候群の予防にも関連しているかどうかは、これまで十分にわかっていませんでした。妊娠高血圧症候群は世界的に妊娠女性の5–10%に発症することから、妊娠前からの食事の質と妊娠高血圧症候群との関連を調べた今回の研究結果は、妊娠を考えているすべての女性が知っておくべき重要な情報といえます。
3.紹介内容
この研究では、エコチル調査のデータのうち、単胎妊娠であり、循環器疾患、糖尿病、高血圧および腎疾患の既往歴がなく、妊娠前の食事および産科・分娩合併症のデータを有する81,113名を対象としました。食事の質の評価には、食事バランスガイド※2をもとに算出した食事バランススコアと高血圧の治療・管理を目的としたDietary Approaches to Stop Hypertension(DASH)※3食スコアの2種類の食事の質スコアを用いました。
対象者のうち2,383人(2.9%)の女性が妊娠高血圧症候群を発症していました。解析の結果、食事バランススコアおよびDASH食スコアともに、食事の質スコアが高くなるほど妊娠高血圧症候群の発症リスクが低くなりました。つまり、成人向けの生活習慣病予防として推奨される、野菜、果物、全粒穀物、豆類、魚、低脂肪乳製品の摂取量が多く、肉類や砂糖入り飲料の摂取量を控えた健康的な食事を妊娠前から取り入れることで、妊娠高血圧症候群の予防に寄与する可能性が高いことが示されました。
巻頭辞では、この研究の優れた点として、多くの日本人妊娠女性を対象にしていること、妊娠前からの食事の影響を調べていることが挙げられています。異なる食生活を持つ様々な集団で食事の影響を調べることで、妊娠高血圧症候群と食事の関連についてより深く理解することができます。また、妊娠前の早い段階から、自身で管理できる食事に注意を払うことで妊娠高血圧症候群の発症リスクを減らすことができれば、効果的で実践しやすい予防策になるといえます。多くの女性は、妊娠が確認されるまで専門医の診察を受けないことが一般的であるため、食事が母親と胎児の健康に与える影響を理解するのが遅れる可能性があります。そのため、妊娠前から、様々な人々に対して妊娠中の高血圧や心臓病に関する食事やリスク要因についての教育を行うことが重要です。予防策として必要な情報やツールを提供することは、妊娠高血圧症候群の発症リスクを減らし、母子の心血管系の健康を増進させることが期待されます。
4.補足
「子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)」は、胎児期から小児期にかけての化学物質へのばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査※4です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている世界的にも注目されている調査です。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを置いています。また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された全国15の大学等に調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と各関係機関が協働して実施しています。
5.用語解説
- ※1 妊娠高血圧症候群:妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧がみられる状態をさします。
- ※2 食事バランスガイド:望ましい食生活についてのメッセージを示した「食生活指針」を具体的な行動に結びつけるものとして、1日に「何を」「どれだけ」食べたらよいかの目安を分かりやすくイラストで示したものです。厚生労働省と農林水産省の共同により2005年6月に策定されました。
- ※3 Dietary Approaches to Stop Hypertension(DASH):アメリカで開発された高血圧の予防・治療を目的とした食事療法のことです。
- ※4 出生コホート調査:子どもが生まれる前から成長する期間を追跡して調査する疫学手法です。胎児期や小児期の環境因子が、子どもの成長と健康にどのように影響しているかを調査します。大人になるまで追跡する場合もあります。
6.発表論文
巻頭辞(Editorial) 題名(英語):The Role of Diet in Preventing Hypertensive Disorders of Pregnancy 掲載誌:Journal of American Heart Association Volume 13, Number 18 DOI:https://doi.org/10.1161/JAHA.124.036369 原著論文 題名(英語):Association Between Periconceptional Diet Quality and Hypertensive Disorders of Pregnancy: The Japan Environment and Children's Study 著者名(英語):Hitomi Okubo1,2, Shoji F. Nakayama1, Asako Mito3, Naoko Arata3, and the Japan Environment and Children’s Study (JECS) Group4 1 大久保公美、中山祥嗣:国立環境研究所エコチル調査コアセンター 2 大久保公美:東京大学大学院医学系研究科 栄養疫学・行動栄養学 3 三戸麻子、荒田尚子:国立成育医療研究センター 女性総合診療センター 女性内科 4 グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成 掲載誌:Journal of American Heart Association Volume 13, Number 18, e033702 DOI:https://doi.org/10.1161/JAHA.123.033702
7.問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター次長 中山祥嗣
【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)