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2023年9月14日

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日本がリードする、メダカを用いた内分泌かく乱化学物質の検出手法の国際標準化
—日本が取りまとめたOECD文書が採択・公表されました—

(筑波研究学園都市記者会)

2023年9月14日(木)
国立研究開発法人国立環境研究所
環境リスク・健康領域
 

 国立環境研究所環境リスク・健康領域では、環境省プログラム「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応-EXTEND2022-」の一環として、メダカを用いた化学物質の内分泌かく乱作用を検出する手法の国際標準化を進めています。このたび、日本が中心になって取りまとめた2つの検出手法に関する提案書が、2023年4月の経済協力開発機構(以下「OECD」という。)の会議で採択され、同年7月に公表されました。
 1つは国立環境研究所と米国環境保護庁が共同で開発した、メダカに対する内分泌かく乱物質の影響を3世代にわたって調べる「メダカ拡張1世代繁殖試験(OECD化学品テストガイドラインNo. 240)の一部を改善した試験法です。
 もう1つは、国立環境研究所が開発した、4週間にわたってメダカに化学物質をばく露し、抗アンドロゲン作用を示す物質を検出する手法である「幼若メダカ抗アンドロゲン作用検出試験法」です。検出手法とその検証結果レポートがそれぞれガイダンス文書No. 379および380として公表されました。

1. 試験法開発の目的とOECD文書の採択・公表の経緯

工業化学物質や農薬などの化学品の安全性評価では、日本人にとって身近なメダカがゼブラフィッシュなどと並び試験魚として利用され、国際的に広く受け入れられています。近年の分子生物学の発展に伴い、メダカの性決定遺伝子が確認されたことが契機となり、魚の見た目や組織(たとえば、尻びれの形状や生殖腺など)による性別判定だけでなく、遺伝子解析による判定も可能になりました。これにより、オスのメダカが内分泌かく乱化学物質によってメスの見た目や組織に変化したことが遺伝子的に分かるようになっています。国立環境研究所環境リスク・健康領域では、このようなメダカの試験魚としての優位性を活かし、化学物質の内分泌かく乱作用に関する環境省のプログラム(現在は「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応-EXTEND2022-」)の一環として、メダカを用いた化学物質の内分泌かく乱作用を検出する手法の開発と国際標準化を進めています。
これまで、メダカを3世代にわたって調査し、メダカの繁殖や性決定などに対する内分泌かく乱化学物質の影響を確認する方法として、「メダカ多世代試験(後にメダカ拡張1世代繁殖試験(Medaka One-Generation Reproduction Test: MEOGRT))」を環境省請負業務として国立環境研究所が米国環境保護庁とともに開発・検証し、国際標準化を行うOECDの化学品テストガイドラインNo. 240(以下、「OECD TG240」という。)として2015年に採択されました。このOECD TG240は、化学物質の内分泌かく乱作用に基づく繁殖への影響を把握するための確定試験法として、世界各国での化学物質の安全性評価や規制に広く利用されています。このたび、上記試験法の改善のため、統計方法に関する記述や一部の試験手順を修正・追加した提案書を米国環境保護庁とともに提出し、OECD専門家との議論を踏まえて、2023年4月のOECD会議で採択、同年7月に公表されました。
一方で、TG240よりも短期に内分泌かく乱物質の影響を検出する方法として、女性ホルモンあるいは男性ホルモンと同じような作用を持つ(あるいはその作用を妨げる)物質が成魚の産卵数に与える影響を21日間かけて調べる「魚類短期繁殖毒性試験(OECD化学品テストガイドラインNo.229、以下「OECD TG229」という。)」が利用されてきました。ところが、このOECD TG229では、雌雄の特徴が表れてから後に化学物質をばく露するため、男性ホルモン(「アンドロゲン」ともいう。)のはたらきを妨げる物質(以下「抗男性ホルモン物質」という。)については、検出できないことが課題となっていました。そこで、メダカのオスに特徴的な二次性徴である尻びれの突起(乳頭状小突起)に着目し、OECD TG229よりも日齢の若い幼魚に化学物質を28日間ばく露することで、抗男性ホルモン物質を検出する手法を開発し、2016年にOECDに提案しました。この試験法は、「幼若メダカ抗アンドロゲン作用検出試験法(Juvenile Medaka Anti-androgen Screening Assay: JMASA)」と命名され、国立環境研究所を含めた国内3機関で、延べ20以上の検証試験を行い、OECDの各国の専門家と議論を重ねて、修正を行ってきました。試験法や検証試験結果をまとめたレポートは、2023年4月のOECD会議で採択され、それぞれガイダンス文書No. 379および380として7月に公表されました。

2. 採択・公開されたOECD文書の概要

OECD TG240の改定版

OECD TG240は図1のとおり、メダカの成魚の繁殖に始まり、生まれた2世代目の胚のふ化や生存、成長や性成熟、成魚における繁殖、さらに3世代目の胚のふ化まで確認する3世代、6か月にもわたる試験です。このたび、統計手法に関する記述の修正、近年重要な課題とされる動物福祉の課題への対応、試験に利用可能なメダカ系統やその入手先など、OECD加盟各国からの意見に基づき情報を追加するなどの改定を行いました。

図1
図1 OECD TG240(MEOGRT)の一連の手順の概要(環境省ホームページ「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応—EXTEND2022—」より引用)

幼若メダカ抗アンドロゲン作用検出試験法(JMASA)

JMASAは、図2に示すようにメダカのオス特有の二次性徴の一つである尻びれの乳頭状小突起に着目し、外見的な性別が不明な幼魚(6週齢)から性成熟が進むまでの4週間にわたって化学物質にばく露することで、抗男性ホルモン作用を有する物質を検出する手法です。抗男性ホルモン物質やそれ以外の多様な化学物質を用いた検証試験や、国内外の複数機関での試験実施可能性を考慮した検討を6年以上にわたって実施した結果、OECD会議においてその検証結果をまとめたレポートとともに採択され、OECDガイダンス文書No. 379および380として2023年7月に公開されました。

図2
図2 JMASAの一連の手順の概要(環境省ホームページ「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応—EXTEND2022—より引用)

3. 今後の展望

OECD TG240、JMASAはともに、内分泌かく乱化学物質の標準試験法ガイドラインに関するOECDガイダンス文書No. 150において、それぞれLevel 5(生物のライフサイクルの全体を網羅した有害影響に関するより包括的なデータを提供する試験)およびLevel 3(特異的な内分泌かく乱作用の検出試験)の試験として位置づけられており、OECD TG240は既に世界各国で内分泌かく乱化学物質の確認や化学物質の安全性評価に広く利用されています。JMASAは、環境省が進める「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応-EXTEND2022-」において、OECD TG229とともに第一段階生物試験として利用され、一連のメダカを試験生物種とした性ホルモンかく乱を評価する試験のフレームワークを形成しました。このフレームワークに基づいた評価の加速化が進むことが期待されます。

4. 公表された試験法

OECD TG240 (MEOGRT)の改訂版

【タイトル】OECD Guidelines for the Testing of Chemicals No. 240: Medaka Extended One Generation Reproduction Test(MEOGRT) 【URL】https://www.oecd-ilibrary.org/environment/test-no-240-medaka-extended-one-generation-reproduction-test-meogrt_9789264242258-en(外部サイトに接続します)

幼若メダカ抗アンドロゲン作用検出試験法(JMASA)

【タイトル】OECD Series on Testing and Assessment No. 379: Guidance Document on a Juvenile Medaka anti-androgen screening assay (JMASA)
  OECD Series on Testing and Assessment No. 380: Validation of the Juvenile Medaka anti-androgen screening assay (JMASA)
【URL】https://www.oecd.org/chemicalsafety/testing/series-testing-assessment-publications-number.htm(外部サイトに接続します)

参考資料:策定・改定されたOECD魚類試験法の概要

5. 環境省の報道発表

【URL】https://www.env.go.jp/press/press_02131.html(外部サイトに接続します)

6. 発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。
国立環境研究所
環境リスク・健康領域生態毒性研究室
 室長 山本裕史
 主任研究員 渡部春奈
環境リスク・健康領域環境リスク科学研究推進室
 主任研究員 山岸隆博

7. 問合せ先

【試験法に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 環境リスク・健康領域
副領域長 山本裕史

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

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