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2025年5月30日

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胎児期の水銀ばく露と子どもの2歳または4歳のBMIについて:
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、⽂部科学記者会、 科学記者会、松本市政記者クラブ、⻑野市政記者クラブ同時配付)

令和7(2025)年5月30日(金)
国立大学法人信州大学
エコチル調査甲信ユニットセンター
(信州大学)
 教授     野見山 哲生
 助教     長谷川 航平
 大学院生   黒河内 大輔
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
 センター長  山崎 新
 次長     中山 祥嗣

 エコチル調査甲信ユニットセンター(信州大学)教授の野見山らの研究チームは、エコチル調査詳細調査の約5千組の母子データを対象として、胎児期の水銀ばく露と子どもの2歳または4歳のBMI※1との関連について解析しました。その結果、さい帯血中無機水銀濃度と子どもの2歳または4歳のBMIとの間に正の関連が見られましたが、メチル水銀では関連は見られませんでした。
 本研究の成果は、令和7年5月1日付でElsevierから刊行される学術誌『International Journal of Hygiene and Environmental Health』に掲載されました。
 ※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。

1.発表のポイント

  • さい帯血中無機水銀濃度と子どもの2歳または4歳のBMIとの間にわずかな正の関連がみられました。
  • さい帯血中メチル水銀濃度と子どもの2歳または4歳のBMIとの間に関連は見られませんでした。
  • 無機水銀・メチル水銀の両方で、過体重または肥満と関連は見られませんでした。

2.研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露※2が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 過去の研究から、母親の水銀※3へのばく露と子どもの2歳または4歳のBMIとの関連が示唆されていましたが、結果は一致していませんでした。また、水銀の種別による関連の違いは調べられていませんでした。そこで本研究は、胎児期の水銀ばく露と子どもの2歳または4歳のBMIとの関連を疫学的な手法を用いて調べることにしました。

3.研究内容と成果

 本研究では、約10万人の妊婦のうち、詳細調査に参加していた約5千組の母子のデータを使用しました。その中から、子どもに重大な先天異常の診断、妊婦の水銀の濃度が欠測、子どもの2歳または4歳のBMIが欠測、に該当する妊婦を除いた3,051組の母子のデータを分析に使用しました。
 子どもの2歳または4歳のBMIについては、詳細調査の結果を用いました。水銀については、さい帯血中の無機水銀およびメチル水銀を分析対象としました。関連因子として考えられている母親の年齢、妊娠前BMI、妊娠回数、喫煙習慣、飲酒習慣、年収、教育歴および海産物の消費量の影響も考慮した上で、胎児期の水銀濃度と子どもの2歳または4歳のBMIとの関連について線形回帰分析※4で検討を行いました。また、子どものBMIが上位85%以上のものを過体重または肥満とし、胎児期の水銀ばく露との関連について検討を行いました。
 検討の結果、さい帯血中の無機水銀濃度と子どもの2歳または4歳のBMIとの間にわずかな増加が見られましたが、メチル水銀ではそのような関連は見られませんでした。また、無機水銀・メチル水銀の両方で過体重または肥満との関連が見られませんでした。

4.今後の展開

 本研究では、胎児期の無機水銀ばく露と子どもの2歳または4歳のBMIとの間に正の関連が見られましたが、メチル水銀では関連は見られませんでした。本研究における限界として、考慮していない因子の影響の可能性があった点、日本の住民のみを対象としていた点などがありました。これらの点はエコチル調査では検討ができないため、今後、エコチル調査外でのさらなる検討が期待されます。

5.用語解説

※1 BMI(body mass index):肥満度を表す国際的な体格指数です。[体重(kg)/身長(m)の二乗]で計算されます。 ※2 ばく露:食べたり、触れたり、吸い込むことで化学物質が体内に取り込まれることを言います。 ※3 水銀:水銀は重金属の一つです。主に大型魚の摂取を介して低濃度のばく露があり、胎児期のばく露により、子どもの発達などへの影響が懸念されている物質です。また水銀は、化学形態に応じて、無機水銀と有機水銀に分けられます。有機水銀のうち、最も毒性が懸念されているのがメチル水銀になります。無機水銀と有機水銀の総和を総水銀としています。 ※4 線形回帰分析:複数の要因の影響を同時に考慮した上で関連を検討するための解析手法です。

6.発表論文

題名(英語):Prenatal mercury exposure and body mass index at 2 and 4 years: The Japan Environment and Children's Study
著者名(英語):Daisuke Kurogochi1,2, Kohei Hasegawa2, Yuji Inaba3,4,5, Takumi Shibazaki6, Miyuki Iwai-Shimada7, Shin Yamazaki7, Michihiro Kamijima8, Teruomi Tsukahara9,1,2, TetsuoNomiyama1,2,9 and the Japan Environment and Children’s Study (JECS) Group10
1 黒河内大輔:信州大学医学部運動機能学教室 2 長谷川航平、塚原照臣、野見山哲生:信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室 3 稲葉雄二:信州大学医学部 小児環境保健疫学研究センター 4 稲葉雄二:長野県立こども病院神経小児科 5 稲葉雄二:長野県立こども病院生命科学研究センター 6 柴崎拓実:信州大学医学部小児医学教室 7 岩井美幸、山崎新:国立環境研究所エコチル調査コアセンター 8 上島通浩:名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学分野 9 塚原照臣、野見山哲生:信州大学医学部産業衛生学講座 10 グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成
掲載誌:International Journal of Hygiene and Environmental Health
DOI:10.1016/j.ijheh.2025.114566(外部サイトに接続します)

7.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室
助教 長谷川航平
電子メール:koheih+20250501(末尾に@shinshu-u.ac.jpをつけてください)

【報道に関する問い合わせ】
信州大学総務部総務課広報室
電子メール:shinhp(末尾に@shinshu-u.ac.jpをつけてください)

国立研究開発法人国立環境研究所企画部広報室
電子メール:kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

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