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2025年12月9日

共同発表機関のロゴ
母親のPFASばく露と4歳までの子どもの身体の成長との関連について
:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

(環境省記者クラブ、環境記者会、文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会、千葉県政記者クラブ同時配布)

令和7年12月9日(火)
エコチル調査千葉ユニットセンター
千葉大学予防医学センター
 センター長 櫻井 健一
 講師    山本 緑
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
 センター長 山崎 新 
 次長    中山 祥嗣

 エコチル調査千葉ユニットセンター(千葉大学予防医学センター)山本緑講師らの研究チームは、エコチル調査の約23,000組の親子のデータを用いて、母親の妊娠中の血中有機フッ素化合物(PFAS※1)濃度と、生まれた子どもの4歳までの体重、身長、BMIの成長パターンとの関連について解析しました。その結果、母親の妊娠中の血中PFAS濃度が高い場合、子どもの出生時体重が重いパターンや乳児期に体重が急激に増加するパターンが起こりにくいことが示されました。乳幼児期に体重が重いことや急激な体重増加は、将来の肥満に関係する可能性がありますが、本研究における妊娠中の血中PFAS濃度では、将来の肥満リスクが高まることを示す結果は観察されませんでした。また、妊娠中の血中PFAS濃度が高い場合、出生時の身長は小さいが、その後ほぼ標準的な身長まで追いつくパターンや、ずっと身長が小さいパターンが起こりやすいことが示されました。今後さらに4歳以降の成長についても、調査を続けていくことが必要です。
 本研究の成果は、令和7年10月24日付でAmerican Chemical Society(アメリカ化学会)から刊行される環境科学分野の学術誌『Environmental Science & Technology』に掲載されました。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
※本研究に関する補足説明資料を作成しました。以下のURLも併せて確認ください。
 (https://cpms.chiba-u.jp/kodomo/results/pfas_qa.pdf(外部サイトに接続します))

※1 PFAS:有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物を総称して「PFAS」と呼びます。PFASについての詳細は、環境省ホームページ( https://www.env.go.jp/water/pfas.html(外部サイトに接続します))をご参照ください。

1. 発表のポイント

1.エコチル調査に参加している妊婦の血液を用いて28種のPFASを測定し、そのうち、多くの妊婦から検出された8種類のPFASを解析に用いました。 2.これらの妊婦から生まれた子ども約23,000人について、出生から4歳までの体重、身長、BMI(肥満度を表す体格指数)の成長パターンを分類し、妊娠中の血中PFAS濃度との関連を調べました。 3.体重に関しては、妊娠中の血中のPFHxS※2、PFOS※2、あるいはPFOA※2濃度が高い場合に、生後急激に増加するパターンや出生時からずっと重いパターン(将来の肥満につながりやすいと考えられている成長パターン)が起こりにくいことが示されました。 4.身長に関しては、8種類のPFASいずれかの濃度が高い場合に、出生時の身長が小さく、その後追いつくパターンが起こりやすいことが示されました。PFOS濃度が高い場合は、出生時から非常に小さいパターンも起こりやすいことが示されました。

2. 研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露※3が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査※4です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 これまでの国内外の研究では、妊娠中のPFASばく露が出生体重に影響するという報告があります。しかし、子どもが成長するたびに身長や体重を測定して成長パターンを評価した研究は少なく、妊娠中のPFASばく露が子どもの成長パターンに影響するかどうかについて、はっきりしたことはわかっていませんでした。

3. 研究内容と成果

 本研究では、エコチル調査で妊娠中の血中PFAS濃度を測定した母親から生まれた子どもを対象としました。このうち、小さく生まれる傾向がある双子や三つ子を除き、出生から4歳までの間に体重と身長データが収集できた約23,000人の情報をもとに、子どもの体重、身長、BMI(肥満度を表す体格指数)の成長パターンを分類しました。その上で、母親の妊娠中の血中PFAS濃度(8種類のPFAS濃度)やそれらの混合ばく露※5の指標と、子どもの成長パターンとの関連を調べました。
出生時、1か月、0.5歳、1歳、1.5歳、2歳、2.5歳、3歳、3.5歳、4歳の合計10時点の体重と身長のデータが3時点以上そろっている子どもを解析対象としました。体重、身長、BMIは、性別と月齢毎のSDスコア※6に換算し、統計的手法を使って成長パターンを分類しました。その結果、体重、身長、BMIは、5つの成長パターンに分類されました。(参考図、左)
母親の妊娠中の血中PFAS濃度と子どもの成長パターンの関連性を調べた結果、次のことが示されました。(参考図、右)
体重
・血中のPFHxSやPFOS濃度が高い場合、①出生時に重く、急激に増加するパターンと、④出生時に軽く、急激に増加するパターンにはなりにくかった(中程度③と比較してオッズ比※7が低かった)。
・PFOAやPFOS濃度が高い場合、②出生時からずっと重いパターンになりにくかった(中程度③と比較してオッズ比が低かった)。
身長
・8種類のPFASいずれかの濃度が高い場合、④出生時に小さく、その後追いつくパターンになりやすかった(中程度②と比較してオッズ比が高かった)。
・PFOS濃度が高い場合、⑤非常に小さいパターンになりやすかった(中程度②と比較してオッズ比が高かった)。
BMI
・PFOS濃度が高い場合、①出生時に高く、急激に増加するパターンになりにくかった(中程度③と比較してオッズ比が低かった)。

 出生時の体重が重いパターン②や、出生後に急激に体重やBMIが増加するパターン①④は、その後の肥満につながりやすいと考えられています。本研究での妊娠中のPFAS血中濃度は、海外の研究と比べて低いか同程度であり、この量のPFASばく露では、子どもの肥満につながる可能性を示す結果は観察されませんでした。
 8種類のPFASはいずれも胎児期の身長の成長の遅れと関連する可能性が示されました。多くの場合4歳頃までには標準的な身長に追いつくことが多いと考えられますが、PFOSについては幼児期も低い身長が続く可能性が示されました。

4. 今後の展開

 学童期、思春期においても体格の推移は健康の重要な指標となります。本研究において、多くの母親の血液から検出された8種のPFASの血中濃度は比較的低く、これらの濃度では、生まれた子どもの将来の肥満リスクが高まる可能性を示すような結果は観察されませんでした。PFASばく露が子どもたちの体格とどのように関連するかについては、4歳以降も引き続き検証が必要です。

5. 参考図

図 子どもの体格の成長パターン(左)および母親のPFASばく露との関係(右)

6. 用語解説

※2 PFHxS:パーフルオロヘキサンスルホン酸、PFOS:パーフルオロオクタンスルホン酸、PFOA:パーフルオロオクタン酸
※3 ばく露:食べる、触れる、吸い込む等により、化学物質が体内に取り込まれることを言います。
※4 出生コホート研究:母親の妊娠時から親子を追跡調査し、さまざまな要因について妊娠や子どもへの影響を調べる研究です。
※5 混合ばく露:複数の化学物質が一緒に体内に取り込まれることを言います。
※6 SDスコア:子どもの体格が、同じ年齢の子どもの標準値からどの程度離れているかを表した値です。標準値より大きくなるほどスコアの値が大きくなり、標準値より小さくなるほど値が小さく(マイナスに)なります。
※7 オッズ比:この研究の場合、PFASの濃度が増加した場合の各成長パターンの起こりやすさを、「中程度」の成長パターンと比較した値です。「1」より大きいほど、より起こりやすいことを、「1」より小さいほど、より起こりにくいことを示します。
※8 95%信頼区間:100回のうち95回は、真の値がこの範囲に入ることを示します。

7. 発表論文

題名(英語):Association between Maternal Exposure to Per- and Polyfluoroalkyl Substances and Childhood Growth Trajectories up to 4 Years of Age: The Japan Environment and Children’s Study

著者名(英語):Midori Yamamoto1, Akifumi Eguchi1, Kenichi Sakurai1, Shoji F. Nakayama2, Yuki Konno3, Michihiro Kamijima4, and the Japan Environment and Children’s Study Group5

1山本緑、江口哲史、櫻井健一:千葉大学
2中山祥嗣:国立環境研究所
3金野友紀:千葉ろうさい病院
4上島通浩:名古屋市立大学
5グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成

掲載誌:Environmental Science & Technology
DOI: 10.1021/acs.est.5c09583

8. 問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
エコチル調査千葉ユニットセンター(千葉大学予防医学センター 講師) 山本緑

【報道に関する問い合わせ】
千葉大学広報室
koho-press(末尾に“@chiba-u.jp”をつけてください)

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