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2026年1月23日

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現行の生態毒性試験は野生生物の個体群への影響をどこまで捉えられるか
—生活史解析で見えてきた可能性—

(大学記者会(東京大学)、文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会)

2026年1月23日(金)
国立大学法人東京大学
国立研究開発法人国立環境研究所

発表のポイント

  • 化学物質が鳥類、魚類、陸生無脊椎動物、水棲無脊椎動物をはじめとする野生生物の個体数減少を引き起こすリスクを、既存の生態毒性試験でどの程度有効に捉えられるのかを評価した。
  • その結果、複数の分類群の中でも、特に陸生無脊椎動物を対象とした試験で有効性が低いことが示唆された。
  • 本研究は、今後のリスク評価の高度化に役立つことが期待される。
化学物質の影響によって個体数のトレンドが変化するイメージ図

発表内容

 東京大学大学院農学生命研究科の都築洋一助教と、国立環境研究所環境リスク・健康領域の横溝裕行主幹研究員は、化学物質が生態系に与える影響を評価するために用いられている「生態毒性試験」の有効性を検証し、その課題を明らかにしました。
 私たちの生活では多くの化学物質が使用されています。化学物質が自然界に与える影響を適切に評価し規制するため、国際的に標準化された「生態毒性試験」が広く利用されています。生態毒性試験は、試験生物に化学物質をばく露して、生存率や繁殖率等の変化を調べるリスク評価手法であり、対象とする生物種(藻類、ミジンコ、メダカ等)や評価項目(生存率、産子数等)が異なる多様なプロトコルが存在します。しかし、現行の試験の多くは、生活史(注1)の全体ではなく、特定の生育段階のみを対象にしています。個体群動態(注2)の予測に必要な一生涯の生存・繁殖データが得られないため、個体数減少を引き起こすリスクを直接評価することが難しいという課題がありました(図1)。

図1:生態毒性試験と個体群レベルのリスク評価とのギャップのイメージ
現行の生態毒性試験の多くは、対象生物の生活史の一部のみを評価対象として、個体の生存や繁殖に対する影響を評価している。個体群動態への影響を予測するには、生まれてから死ぬまでの生活史全体における化学物質の影響を知る必要がある。

 本研究では、OECD(経済協力開発機構)が定める化学品テストガイドラインを対象に、化学物質へのばく露条件下で実施される試験において得られる部分的な生活史情報が個体群レベルのリスク評価にどれほど有効かを評価しました。試験の対象生物の生活史全体を文献から調べ、試験で測定されるパラメータ(生存率や繁殖率)および試験では測定されない生活史パラメータにおけるばく露による変化が、個体群成長率(注3)にどれほど影響するかを示す「弾性度」を求めました。弾性度は、全てのパラメータについて合計すると1になるように定義されているため、その内訳から、試験で測定対象と測定対象でないパラメータの相対的な重要性を比較できます。そこで、測定対象パラメータの弾性度が占める割合を、0(個体群成長率への影響を全く検出できない)~1(すべて検出できる)の範囲をとる「個体群レベルの有効性」として、算出しました。
 その結果、ほとんどの試験で有効性スコアは0.4未満であり、測定されていない生活史段階の方が相対的に個体群動態に強く影響することが示されました(図2)。特に、陸生無脊椎動物(ミミズやトビムシ)を対象とした試験は有効性が低く、現行の試験では個体群レベルのリスクを十分捉えられない可能性がわかりました。一方で、魚類や鳥類を対象とした試験では、個々の試験法の有効性は低くても、生活史の異なる部分を測定している複数の試験法の結果を相補的に組み合わせることで有効性が向上する傾向が見られました(図3)。
 本研究は、化学物質が野生生物の個体数減少を引き起こすリスクを、既存の生態毒性試験でどの程度捉えられるのかを初めて定量的に示しました。本知見は、今後の試験法改訂や新しい評価手法の開発に寄与することが期待されます。

図2:各生態毒性試験法(化学品テストガイドライン)の個体群レベルの有効性
図中の幅は評価結果の分布を表しており、太い部分ほど多くの試験結果がその値付近に集まっていること、つまり多くの試験で共通して見られた代表的な値の範囲を表している。多くの試験で有効性スコアが0.4未満の範囲に集中しており、試験で測定されていない生活史段階の寄与が相対的に大きいことが分かる。
図3:試験対象種の分類群ごとの有効性スコア
図中の幅は評価結果の分布を表しており、太い部分ほど多くの試験結果がその値付近に集まっていること、つまり多くの試験で共通して見られた代表的な値の範囲を表している。魚類や鳥類を対象とする試験では、複数試験を組み合わせると有効性が高まる傾向があった。一方、陸生無脊椎動物を対象とする試験では一貫して有効性が低い傾向が見られた。

発表者・研究者等情報

東京大学大学院農学生命科学研究科
 都築 洋一 助教

国立環境研究所環境リスク・健康領域
 横溝 裕行 主幹研究員

論文情報

雑誌名:Environmental Toxicology and Chemistry
題 名:Evaluating the overall population-level relevance of the current ecotoxicological tests using demographic model analysis 著者名:Yoichi Tsuzuki and Hiroyuki Yokomizo
DOI:10.1093/etojnl/vgag005

研究助成

本研究は、環境省・(独)環境再生保全機構の環境総合推進費(JPMEERF20225005)の支援を受けて実施された。

用語解説

(注1)生活史
生物が生まれてから死ぬまでに経験する成長、繁殖、老化などの一連の過程を指します。例えば、卵から幼体、成体へと成長し、繁殖して寿命を迎えるまでの流れです。

(注2)個体群動態
ある地域に生息する同じ種の個体群の数が、時間とともにどのように変化するかを示す概念です。出生、死亡、移入、移出などの要因によって個体数は変化していきます。

(注3)個体群成長率
個体群の大きさが単位時間あたりに何倍に増えるか、または減るかを示す変化率です。1より大きければ個体群は増加し、1未満なら減少します。

問合せ先

<研究内容について>
東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
助教 都築 洋一(つづき よういち)

国立環境研究所環境リスク・健康領域
主幹研究員 横溝 裕行(よこみぞ ひろゆき)

<機関窓口>
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部総務課広報情報担当
koho.a(末尾に“@gs.mail.u-tokyo.ac.jp”をつけてください)

国立環境研究所
企画部広報室
kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)

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