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2024年10月11日

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母親の血中およびさい帯血水銀濃度と出生児の性別との関連について:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会、文部科学記者会、 科学記者会、松本市政記者クラブ、長野市政記者クラブ同時配付)

2024年10月11日(金)
国立大学法人信州大学
エコチル調査甲信ユニットセンター
(信州大学)
教授    野見山 哲生
助教    長谷川 航平
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
センター長 山崎 新
   次長 中山 祥嗣
 

 エコチル調査甲信ユニットセンター(信州大学)教授の野見山らの研究チームは、エコチル調査の約4千人のデータを対象として、胎児期の水銀濃度と子どもの性別との関連について解析しました。その結果、妊娠中の母親血中水銀濃度と子どもの性別に関連は見られませんでした。その一方、男児においては、さい帯血中水銀濃度が高い傾向がありました。
 本研究の成果は、2024年8月9日付でElsevierから刊行される学術誌『Reproductive Toxicology』に掲載されました。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。

1.発表のポイント

  • 妊娠中の母親血中水銀濃度と子どもの性別に関連は見られませんでした。
  • 男児においては、さい帯血中水銀濃度が高い傾向がありました。

2.研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露※1が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 過去の研究から、胎児期の水銀※2へのばく露と子どもの性別との関連が示唆されていましたが、結果は一致していませんでした。そこで本研究は、胎児期の水銀ばく露と子どもの性別との関連を疫学的な手法を用いて調べることにしました。

3.研究内容と成果

 本研究では、約10万人の母親のうち、詳細調査にご協力いただいた約5千組の母子を対象としました。その中から、母親の年齢、分娩回数に欠測がある母親を除き、さらに妊娠中の母親の総水銀濃度、さい帯血中の総水銀、メチル水銀、無機水銀濃度が測定された3,698人のデータを分析に使用しました。
 子どもの性別については、診療録の転記を用いました。水銀については、妊娠中の母親血中の総水銀、さい帯血中の総水銀、無機水銀、メチル水銀を分析対象としました。関連因子として考えられている母親の年齢および出生回数の影響も考慮した上で、胎児期の水銀濃度と子どもの性別との関連についてロジスティック回帰分析※3で検討を行いました。
 検討の結果、妊娠中の母親血中の総水銀濃度と子どもの性別との間に明確な関連は見られませんでした。その一方、男児においてはさい帯血中の総水銀、無機水銀、メチル水銀濃度が高い傾向がありました。

4.今後の展開

 本研究では、妊娠中の母親血中水銀濃度と子どもの性別との間に明確な関連は見られませんでしたが、男児においては、さい帯血中水銀濃度が高い傾向がありました。金属類が性比に与える影響を解明するためには、妊娠前の段階で金属濃度を測定しておくことや、妊娠後に流産や死産した胎児の性別を含めて検討する必要があります。これらの点はエコチル調査では検討ができないため、今後、エコチル調査外でのさらなる検討が期待されます。

5.用語解説

  • ※1 ばく露:食べたり、触れたり、吸い込むことで化学物質が体内に取り込まれることを言います。本研究の場合は、胎児がさい帯血を通じて母体から化学物質を体内に取り込むことを指します。
  • ※2 水銀:水銀は重金属の一つです。主に大型魚の摂取を介して低濃度のばく露があり、胎児期のばく露により、子どもの発達などへの影響が懸念されている物質です。また、水銀は、化学形態に応じて、無機水銀と有機水銀に分けられます。有機水銀のうち、最も毒性が懸念されているのがメチル水銀になります。無機水銀と有機水銀の総和を総水銀としています。
  • ※3 ロジスティック回帰分析:複数の要因の影響を同時に考慮した上で関連を検討するための解析手法です。

6.発表論文

題名(英語):Prenatal mercury exposure and the secondary sex ratio: The Japan Environment and Children's Study 著者名(英語): Kohei Hasegawa1, Yuji Inaba2,3,4, Hirokazu Toubou1, Takumi Shibazaki5, Miyuki Iwai-Shimada6, Shin Yamazaki6, Michihiro Kamijima7, Teruomi Tsukahara8,1,2, TetsuoNomiyama1,2,8 and the Japan Environment and Children’s Study (JECS) Group9 1 長谷川航平、當房浩一、塚原照臣、野見山哲生:信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室 2 稲葉雄二:信州大学医学部 小児環境保健疫学研究センター 3 稲葉雄二:長野県立こども病院神経小児科 4 稲葉雄二:長野県立こども病院生命科学研究センター 5 柴崎拓実:信州大学医学部小児医学教室 6 岩井美幸、山崎新:国立環境研究所エコチル調査コアセンター 7 上島通浩:名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学分野 8 塚原照臣、野見山哲生:信州大学医学部産業衛生学講座 9 グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成
掲載誌:Reproductive Toxicology
DOI:10.1016/j.reprotox.2024.108685(外部サイトに接続します)

7.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
信州大学医学部衛生学公衆衛生学教室
助教 長谷川航平
電子メール:koheih+20240808(末尾に@shinshu-u.ac.jpをつけてください)

【報道に関する問い合わせ】
国立大学法人信州大学 総務部総務課広報室
電子メール:shinhp(末尾に@shinshu-u.ac.jpをつけてください)

国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

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