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2026年2月12日

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ネットゼロ排出目標は途上国にどれほどの経済的影響を与えるのか?
—京都大学などの研究チームが国際的な負担分担のあり方を定量的に分析—

(京都大学記者クラブ、文部科学記者会、科学記者会、草津市政記者クラブ、筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会、名古屋教育記者会)

2026年2月12日(木)
京都大学
立命館大学
国立環境研究所
名古屋大学

概要

 パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて 2℃を十分に下回り、1.5℃に抑える努力を追求するという長期目標が掲げられています。これを受け、先進国のみならず、途上国を含めた多くの国が今世紀半ばまでに 「ネットゼロ排出(カーボンニュートラル)」を達成する目標を表明しています。しかし、こうしたネットゼロ排出目標が途上国にもたらす経済的影響、またその負担の軽減策はこれまで十分に明らかにされていませんでした。この度、京都大学大学院工学研究科の藤森真一郎教授が率いる京都大学、立命館大学、国立環境研究所、名古屋大学の研究チームは、世界各国のネットゼロ排出目標を対象に分析を行い、ネットゼロ排出目標が途上国に与える経済的負担の大きさ、その負担を軽減するための国際的な選択肢を検討しました。
 3つの代表的な長期将来シナリオを用いた分析の結果、以下の3点が明らかになりました。
(A)ネットゼロ目標:途上国に巨額のマクロ経済的損失をもたらす可能性があること
(B)途上国の排出削減の減免:途上国の排出削減を一部免除し、先進国が代わりに排出削減を担う場合、世界全体で年間約30ギガトン(Gt)のCO2を大気中から回収して貯留する「二酸化炭素除去(CO2除去)」が必要となり、その費用は先進国の家計消費の10%を超える規模に達する (C)資金援助:途上国自身の排出削減はネットゼロ目標で維持しつつ、その経済的負担を国際的な資金援助で補う場合には、年間約2.7兆米ドル(先進地域の家計消費の約5%に相当)の支援が必要であるものの、必要となる二酸化炭素除去が年間約8Gtに留まること  これらの結果から、途上国も着実に排出削減を進めつつ、国際的な資金援助によってその負担を軽減することが、地球規模でネットゼロ排出を達成するための現実的な道筋であることが明らかになりました。
 本研究は2月12日に、Springer Natureの国際研究雑誌「Communications Earth & Environment」で発表されます。

(作成:藤森真一郎、ChatGPT5.2)

1.背景

 パリ協定は気候変動への国際的な対策として、地球全体の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて 2℃を十分に下回り、可能な限り1.5℃未満に抑えることを目標としています。これを受け、日本を含む多くの国が、2030年以降の今世紀半ばの排出削減目標としてネットゼロ排出目標、あるいはカーボンニュートラル目標を掲げています<用語解説>。そのため、先進国のみならず、途上国を含めた各国は温室効果ガス排出を実質ゼロにする取り組みを本格的に進めつつあります。一方で、こうしたネットゼロ目標が途上国にもたらす経済的負担、またその負担の軽減策については、これまで十分に定量的な評価が行われていませんでした。とりわけ、途上国の負担をどのように扱うべきか、は長年にわたり国際的な気候変動政策の重要な論点となってきました。そこで本研究では、数値シミュレーションを用いて、世界全体のネットゼロ排出目標がもたらす経済的影響を評価し、途上国の負担を軽減するための選択肢を検討しました。

2.研究手法

 本研究では、エネルギー、土地利用、経済、そして家計の消費行動を同時に考慮できる統合評価モデル(Integrated Assessment Model; IAM) であるAIM(Asia-Pacific Integrated Model)を用いました。このモデルは、将来の人口や経済成長、エネルギー技術の進展、再生可能エネルギーのコスト、食料の嗜好(しこう)、土地利用政策など、さまざまな社会経済条件を入力することで、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、土地利用の変化、さらには排出削減が経済に与える影響を一体的に分析できるシミュレーションモデルです。本研究ではこれを世界全体に適用しました。また、地球温暖化を約2℃に抑えることを前提とした、次の3つのケースを長期将来シナリオとして分析しました。 (Aネットゼロ目標)
各国がそれぞれ自国内で排出削減を進め、ネットゼロ排出を達成するケース(図1の緑線に相当)
(B途上国の排出削減の減免)
途上国の排出削減を一部免除し、その分を先進国による大規模なCO2除去<用語解説>で補うケース(図1の青線に相当)
(C資金援助)
各国がネットゼロ目標を達成しつつ、先進国から途上国へ資金援助を行うケース(図1の赤(緑)線に相当)

図1 各シナリオのCO2排出量の推移(AとCはほぼ同じ経路で重複している)

モデルシミュレーションから見えてきたのは表1にまとめた数値的情報で、その概要は以下の3点です。
(1) ネットゼロ目標は途上国に相対的に大きな経済的負担をもたらす 各国がネットゼロ目標を自国で達成する場合(ケースA)、2050年時点で、途上国では家計消費<用語解説>が約10%減少する結果となりました。一方、先進国での家計消費の減少は約3%にとどまります。これは、各国がネットゼロ目標を自国で達成する場合、途上国で日常生活に使えるお金が、先進国よりも大きく減少することを意味します。 (2) 排出削減を先進国が肩代わりすると、極めて大規模なCO2除去が必要になります 途上国の排出削減を免除し、その分を先進国がCO2除去で補う場合(ケースB)、途上国の家計消費の損失は最大でも約3%に抑えられます。一方、必要なCO2除去量は年間約30ギガトン(GtCO2)に達します。これは、現在の世界全体の二酸化炭素排出量の約4分の3に相当する非常に大きな規模で、それに伴い先進国では家計消費の損失が最大で12%に達します(期間平均では約8%)。 (3) 途上国がネットゼロ目標を維持しながら、先進国から資金援助を受ける場合(ケースC)、先進国・途上国双方の経済的損失は(2)とほぼ同程度となります。一方、必要となるCO2除去量は最大でも年間約8GtCO₂に抑えられ、大規模なCO2除去への依存を大きく低減できることが示されました。

表1 各ケースの主要な結果
  先進国の
最大経済損失
 途上国の
最大経済損失
 世界全体の
最大CO2除去量
 (Aネットゼロ目標)  3%  9%  8GtCO2/年
 (B途上国の排出量減免)  12%  3%  30GtCO2/年
 (C資金援助)  7%  3%  8GtCO2/年
経済損失は家計消費損失率で、脱炭素化をしない場合と比較した時の%変化

3.波及効果、今後の予定

 本研究は、途上国も排出削減を着実に進めつつ、その経済的負担を国際的な資金援助によって軽減することが、持続可能な形で地球規模のネットゼロ排出目標を達成するための現実的な道筋であることを示しています。今回の研究ではネットゼロ目標をベースに研究を行い、ネットゼロ達成後は2℃目標程度で気候安定化を留めるという想定をしましたが、今後は1.5℃目標に相当する気候安定化でどのような状況となるのか、といったことを検討することが期待されます。1.5℃目標となるとネットゼロではとどまらず、CO2除去を大規模に行わないといけません。どの国でどの程度分担するのかという議論が必要になり、未解決の問題に対応していくことが求められると思われます。

4.研究プロジェクトについて

 本研究は独立行政法人環境再生保全機構環境研究総合推進費課題1-2401(世界全域を対象とした技術・経済・社会的な実現可能性を考慮した脱炭素社会への道筋に関する研究)、科研費23K26231(世界モデルを用いた脱炭素と貧困・飢餓・エネルギー貧困撲滅の同時達成の可能性の検討)、公益財団法人住友電工グループ社会貢献基金の支援を受けて実施されました。

用語解説

  • ネットゼロ排出目標(Net Zero Emissions Target)
    温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きで「実質ゼロ」にすることを目指す目標です。排出をできる限り減らしたうえで、残った分を森林や二酸化炭素除去技術などで吸収することで、地球温暖化をこれ以上進めないことを目的としています。
  • 二酸化炭素除去(CO2除去:Carbon Dioxide Removal)
    大気中にすでに放出された二酸化炭素を、森林の吸収や空気直接回収(DAC:Direct Air Capture)などの技術的な方法によって回収・削減する取り組みのことです。温室効果ガスの排出を減らすだけでなく、過去に排出された二酸化炭素を取り除く手段として注目されています。一方、大規模に実施するには多くのエネルギーや費用が必要となり、植林などの方法では土地利用の制約も伴うため、その持続可能性に課題があるとされています。
  • 家計消費損失
    気候変動対策に必要となる追加的な脱炭素化投資やエネルギー価格の変化などにより、家庭が使えるお金が減り、日常の消費が抑えられる影響を指します。たとえば、電気代や食料品の価格上昇によって、家計の負担が増えることがこれにあたります。

研究者のコメント

気候変動問題をめぐる国際的な取り組みは、現在さまざまな要因が重なり、必ずしも一枚岩とは言えない状況にあります。米国のパリ協定からの離脱や、ウクライナ情勢を背景とした欧州の政策動向などにより、国際的な議論の進み方には揺らぎが生じています。しかし、過去数十年にわたって続いてきた本質的な課題、すなわち「途上国にどのように気候変動対策に取り組んでもらい、同時にその負担に配慮するのか」という問題は、依然として解決されていません。本研究は、ネットゼロ目標が途上国に与える経済的影響を定量的に示し、国際的な資金援助の重要性を明らかにしました。本研究の成果が、より現実的で公平な国際的気候政策の議論を前進させる一助となることを期待しています。(藤森 真一郎)

論文タイトルと著者

タイトル:International financial support to achieve the net-zero emissions goal could help resolve equity trade-off between developing and developed countries (ネットゼロ排出目標達成に向けた途上国に対する資金援助の可能性)   著者:Shinichiro Fujimori, Limeng Fan, Shiya Zhao, Shinichiro Asayama, Tomoko Hasegawa, Osamu Nishiura, Hiroto Shiraki, Kiyoshi Takahashi  掲載誌:Communications Earth & Environment   DOI:https://doi.org/10.1038/s43247-026-03208-5

研究に関するお問い合わせ先

藤森 真一郎(ふじもり しんいちろう)
京都大学大学院工学研究科 都市環境工学専攻 大気熱環境工学分野 教授
Tel:075-383-3367
E-mail: fujimori.shinichiro.8a(末尾に“@kyoto-u.ac.jp”をつけてください)
Twitter : @sfujimori1122, @Fujimorilabo_KU
Facebook :https://www.facebook.com/fujimorilab.ku/

報道に関するお問い合わせ先

京都大学広報室国際広報室
E-mail:comms(末尾に“@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp”をつけてください)

立命館大学広報課
E-mail:r-koho(末尾に“@st.ritsumei.ac.jp”をつけてください)

国立環境研究所 企画部広報室
E-mail:kouhou0(末尾に“@nies.go.jp”をつけてください)

名古屋大学 総務部広報課
E-mail:nu_research(末尾に“@t.mail.nagoya-u.ac.jp”をつけてください)

参考資料

表 2050年の経済損失と二酸化炭素除去
  先進国の
最大経済損失
 途上国の
最大経済損失
 世界全体の
最大CO2除去量
 (Aネットゼロ目標)  3%  7%  6GtCO2/年
 (B途上国の排出量減免)  6%  2%  11GtCO2/年
 (C資金援助)  6%  1%  6GtCO2/年

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