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2021年3月23日

環境保全にもお金を!
クラウドファンディングを成功に導く

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配布)

2021年3月23日(火)
国立研究開発法人国立環境研究所
生物・生態系環境研究センター
 主任研究員  久保 雄広
 高度技能専門員  瓜生 真也
 

   環境保全・管理における資金不足は世界各地で自然環境の消失を引き起こしています。国立環境研究所・久保雄広主任研究員等の研究グループは、約500件の環境保全に関するクラウドファンディング(以下、CF)プロジェクトを分析し、資金調達の成功要因を明らかにしました。分析の結果、ペット管理や動物福祉に関するCFは景観保全や持続的な資源利用を目的とした他の環境保全CFよりも資金獲得に成功していることが分かりました。また、CFの成功にはSNS等を通じた社会的な繋がりが寄与していること、さらには環境保全CFを通じた資金調達はCF同士で競合し、一部の環境保全のみに資金が集中してしまう可能性を示しました。
   今回の研究は環境保全・管理における資金不足解消に貢献するのみならず、ビジネス・マーケティングの知見を通じた環境保全・管理の構築に広く貢献することが期待されます。
   本成果は2021年3月23日付でAmbio誌(https://doi.org/10.1007/s13280-021-01522-0)に掲載されます【外部サイトに接続します】。
 

1.背景と目的

 環境保全・管理における資金不足は世界各地で自然環境の消失を引き起こしています。資金不足解消の新たな手段として、クラウドファンディング(CF)が注目を集めていますが、現実にはプロジェクトの多くが失敗し、資金調達に至っていません。そればかりか、「成功事例」だけが注目を集め、実際の資金調達に至る過程を誤って理解している可能性があります。
 本研究では、「失敗事例」も含めた環境保全・管理に関わる約500件のCFプロジェクトを分析し、資金調達の成功要因を解明しました。

2.方法

 本研究では、日本最大規模のCFプラットフォーム「Readyfor」において、2013年から2019年の間に行われた環境保全・管理に関わるCFプロジェクトのデータ473件を対象とし、CFプロジェクトの内容に着目した内容分析と、CFの成功メカニズムに着目した回帰分析を組み合わせた混合研究法(Mixed Methods Approach)を適用して解析しました。

3.結果と考察

 対象プロジェクトを分析した結果、6割(295件)が目標金額に到達し、約7年間で計4億円以上の資金調達に成功していることが分かりました。一方、対象としたプロジェクトの大半がAll-or-Nothing方式(※1)であったため、目標金額に到達できなかった残りのプロジェクトで集めたお金(約3600万円)は寄付者に返金されていました。また、多様な内容のプロジェクトがある中で、資金調達に成功したものと失敗したものでは内容(キーワード)に差があることが示されました(図1)。このことは「成功事例」だけに着目した分析では得られる知見に大きな偏りが生じることを示しています。

頻出キーワード30個が成功/失敗プロジェクトで現れる割合を示した図。クリックすると拡大画像が表示されます。
図1.頻出キーワード30個が成功/失敗プロジェクトで現れる割合を示した図
(扱う内容によって成功失敗が異なることが示唆された。例えばネコを扱うプロジェクトの約8割は成功しているものの、農業を扱うプロジェクトの約4割は失敗している。)

 特に資金調達率(獲得した金額を目標金額で割ったもの)はプロジェクトの内容で異なっており、ペット管理や動物福祉CFは景観保全CFや持続的な資源利用CFよりも資金調達に成功していることが分かりました(図2)。
 また、CFプロジェクトの成功要因について検証を進めた結果、SNS等を通じた社会的な繋がり(Facebookシェア数や検索タグ数等)が資金調達の成功に寄与している可能性が示されました。一方で、同時期にWEBに掲載されるプロジェクト同士で資金調達が競合してしまい、たとえ資金調達に優れた内容であっても資金を調達できない、もしくは、一部の環境保全のみに資金が集中してしまう可能性を示しました。

プロジェクト内容ごとの資金調達率を表した図。クリックすると拡大画像が表示されます。
図2.プロジェクト内容ごとの資金調達率(獲得金額÷目標金額)
(各点は各プロジェクトを示しており、資金調達率が1(赤線)を超えたプロジェクトは成功していることを示唆している。平均的にはペット管理CFは景観保全や持続的な資源利用よりも高い資金調達率を達成している。)

4.今後の展望

 環境保全や管理はタダではありません。自然環境の価値を広く認識するとともに、実際に必要な資金の調達が求められます。CFをはじめ、最新の資金調達手段を通じて、自然環境の保全・管理が効果的に進んでいくことが期待されています。
 また、今後は資金調達メカニズムのさらなる理解とともに、それぞれのプロジェクトがどれだけ実際の自然環境保全・管理に寄与しているのか、多面的に評価する枠組みの構築が求められていくことでしょう。

5.用語解説

※1 All-or-Nothing方式:CFプロジェクトが目標金額を達成した場合のみ主催者が支援金を受け取ることができる方式のことを言います。対象的なものとして、CFプロジェクトが目標金額を達成せずに終了した場合でも主催者は集まった分だけ支援金を受け取れるAll-in方式も知られています。

6.研究助成

 本研究は、日本学術振興会(海外特別研究員制度)の支援を受けて実施されました。

7.発表論文

【タイトル】What determines the success and failure of environmental crowdfunding?
【著者】Takahiro Kubo , Diogo Veríssimo, Shinya Uryu, Taro Mieno, Douglas MacMillan
【雑誌】Ambio
【DOI】10.1007/s13280-021-01522-0
【URL】https://doi.org/10.1007/s13280-021-01522-0【外部サイトに接続します】
※下線で示した著者が国立環境研究所所属です。

8.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
国立研究開発法人 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター
生物多様性保全計画研究室 主任研究員 久保雄広
 E-mail:kubo.takahiro(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

【報道に関する問い合わせ】
国立研究開発法人 国立環境研究所 企画部広報室
 E-mail:kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
 TEL:029-850-2308

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