九州北部地域における光化学越境大気汚染の実態解明のための前駆体観測とモデル解析(特別研究)
平成20〜22年度
国立環境研究所特別研究報告 SR-95-2011
光化学オキシダントとは、工場や自動車の排気ガスなどに含まれる炭化水素と窒素酸化物の光化学反応によって発生するオゾンや他の酸化性物質のことを指し、1970年代に日本各地において深刻な健康問題を引き起こしました。その後、排気ガスの規制などが功を奏し、その発生数は減少していましたが、1985年頃から再び全国的に注意報発令数が増えています。2007年5月には、九州から西日本の広い範囲で高濃度の光化学オゾンが観測されて、大きな社会問題となりました。この原因として、中国で排出されたオゾン前駆物質(オゾン生成の原因となる物質)の反応によって生成される光化学オゾンの越境輸送の影響が大きいことが示唆されています。しかしながら、越境汚染については、観測も限られており、科学的に不明な点が多々あります。
そこで、本研究では、中国大陸の影響を観測するのに適した立地である長崎県福江島において、光化学オゾン前駆物質である非メタン炭化水素類、窒素酸化物、および二次生成粒子の長期連続・集中観測をモデル解析と連携して実施しました。非メタン炭化水素については、ベンゼン、エタンなど個別の炭化水素組成を毎時間自動分析し、窒素酸化物については、一酸化窒素、二酸化窒素に加えて全窒素酸化物濃度を、粒子については主に二次反応生成物である硫酸塩、硝酸塩、有機物などの化学組成を連続測定しました。
その結果、中国からの越境汚染気塊中で光化学反応が進んでいることを明らかに示す観測データが得られる一方、オゾンについては東アジア以外からの流入も多いこと等がモデル解析によって示されました。春季3~6月平均では、中国からの推定寄与率は、オゾンが26%、エチレンが23%、粒子状硫酸塩が83%、窒素化合物が62%に上りました。さらに、最近環境基準が制定されたPM2.5に対しても越境汚染の影響が非常に大きいことが明らかになりました。
以上に加え、中国における前駆物質排出インベントリの検証、大気汚染予報システムの検証も行いました。
本研究の成果は、今後の東アジアの大気環境管理や我が国のオゾン汚染の悪化防止を進めていく上で、重要な知見を提供するものと考えています。